20. 魔女と騎士と新生活
二十話目です。よろしくお願いします。
「部屋を片付けてくるわ。二階の左側の部屋を使って」
「片付けを手伝うよ」
二階へ上がるとユーリも付いてくる。
「右側は師匠の部屋だから入らないで」
左側の部屋の前に立つ。
「ここは母さまの部屋だったの。一応、毎日掃除はしてあるから汚れてはいないはずよ。ベッドもシーツは新しい物に変えてあるわ」
「良いのか?ここを使っても。寝られれば良いんだ。物置の隅でも」
「いいの。いつかは片付けなきゃいけなかったんだから」
部屋の中の母さまの遺品を箱に詰める。箱は物置の片隅に片付けた。
一階に戻って夕食を取る。食欲は無いが、ちゃんと食べないとユーリから叱られそうな気がする。
食事をしながら、同居のルールを決める。絶対に守って欲しい事柄だけを決めた。細かい事は都度、相談していけば良いだろう。食事を終えてユーリに声を掛ける。
「私、今から薬作りするから邪魔しないでね」
「手伝おうか?」
私は首を振る。
「ユーリはお風呂に入って来て。一階の突き当たりにあるわ。タオルとか好きに使ってくれたら良いから」
「分かった」
ユーリはお風呂に向かい、私は作業場に向かう。
先日の毛生え薬がよく売れて、エレアから臨時の注文が入ったのだ。評判が評判を呼んで、近隣の村からも買いに来るらしい。嬉しい誤算だ。材料を揃えて作業を始める。
お風呂から上がったユーリが作業場に入って来る。ここに男物の着替えなんて無かった筈なのに、今はシャツとパンツ姿になっている。どこに持っていたのかしら?用意周到だわ。
「薬作り見てていい?」
「いいけど、面白いものでもないわよ」
「うん、ロッテを見てたいからいいよ」
…この男は〜〜〜。サラッとこう言う事を言うから質が悪い。今までは猫を被っていたんだわ。
そうよ!きっと王都には沢山彼女がいて、今は偶々、魔女っていう珍しい女がいるから構っているだけよ。うん!
ユーリは椅子を持って来て少し離れた所に座った。本当に見てる気なんだ。
よし、彼の事は置物だと思う事にしよう。私は薬作りを再開した。
漸く、薬が出来て振り返るとユーリはうたた寝をしていた。久しぶりの仕事で疲れたんだろう。部屋で寝れば良いのに。
「ユーリ、ユーリ」
ユーリの肩を揺すって起こす。
「薬作り終わったから、部屋に行ってベッドで寝てちょうだい。こんな所で眠ったら風引いちゃうわ」
「う…ん、分かった…」
半分寝ぼけたまま、ユーリは立ち上がり二階へ上がって行った。扉の閉まる音がしたから部屋に入れたみたいだ。
「さて、私はどうしよう。寝るにはまだ早いし。何か目が冴えちゃったし」
結局、毛生え薬を増産する事にした。作り続けて疲れたので作業場の床に横になる。そのまま寝てしまうのは、いつもの事だから。
誰かが私の名前を呼んでいる。
「ロッテ、なんて所で寝てるんだよ!俺にはちゃんとベッドで寝ろって言っておいて、肝心の自分が床で寝てたら駄目じゃないか。風邪を引いたらどうするんだ」
「おはよ…ユーリ。なんで居るの?」
「おはよ、じゃないよ」
目を擦りながら起き上がる。…そうだ、昨日からユーリもこの家に住んでるんだったわ。忘れてた。
手を引かれて私の部屋に連れて行かれる。
「朝食は俺が作るから、出来上がるまでロッテは寝てて」
「う…ん…」
眠いのは確かだからベッドに倒れ込む。ユーリは扉を閉めてキッチンへ歩いて行った。
あ、やばい。食材に碌なものがない、とは思うものの眠気に勝てず寝てしまった。
その頃ユーリはキッチンの食材を見て、ため息をついていた。
「しなびたレタスに、目が出たジャガイモ。玉ネギは腐りかけ…。ロッテは普段何食べてるんだよ…」
食べられない食材はゴミ箱に捨てて、ここの材料で食事を作る事を諦めた。
「仕方ない、王宮の食堂から何か貰ってくるか…」
ロッテの家を出て転移陣から王宮に向かった。
「ロッテ、起きて。朝食が用意出来たから」
ノックの音が聞こえて、ドア越しにユーリから声が掛かる。ベッドから体を起こし背伸びする。
「ふあ〜、直ぐ行くわ」
食堂に行くとテーブルの上には沢山の料理が乗っていた。
「ユーリ、どうしたのこれ!」
「王宮の食堂から貰って来た。…キッチンに食材が無かったから」
思わず苦笑いをする。
「あ、あははは」
「今日は分けて貰えたけど毎回って訳に行かないからね」
「はぁい…」
席に着いて食べ始める。
「美味しい。こんなの食べた事ない」
「なあ、普段ロッテは何食べてるんだ?俺に昼食を用意してくれてた時は、ちゃんとした料理が作れてたよね?」
私は齧り付いていたソーセージを飲み込んで答える。
「ユーリの昼食は前日にちゃんとお買い物して作ってたよ。私一人だと食べたり食べなかったり?林檎一個とか?仕事に没頭すると食べるのをよく忘れたりする…かも」
ユーリの呆れ顔が見える。
「これからはちゃんと食べる事。…サラサに来て貰うか…」
「え!サラサさん?駄目だよ。サラサさんも仕事あるでしょ?」
「俺も仕事あるから作れないし、サラサだったら喜んで来てくれるよ?」
私はぶんぶんと首を振る。
「ちゃんと食べる!食べるから。サラサさんを呼ぶのは止めて!」
「…約束だからね。それじゃあ俺、仕事の時間だから行くよ」
「いってらっしゃい。お仕事頑張ってね」
ユーリが出掛けてから、ふーっと息を吐く。
「サラサさん苦手なんだよね。逆らえない感じがしてさ…」
朝から気疲れしてしまったが、ユーリが一緒に居る事に違和感を感じていない自分にも驚いていた。
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