19. 魔女と騎士の本気
十九話目です。よろしくお願いします。
二人の腕にはお揃いの腕輪が嵌っている。それでも、花祭りの後も2人の関係に変化はなかった。
今日もユーリは手伝いをしてくれている。彼は収穫した薬草を干してくれていて、私は昼食を用意している所だ。
ユーリの休暇も今日までだ。だから、彼の好きな野菜一杯のシチューを作る。
「ユーリ〜ご飯が出来たよ」
声を掛けるとユーリから返事が来る。
「後もう少しだから、これだけ終わらせてから行くよ」
「分かった」
テーブルに料理を置き、カトラリーをセットする。先に席に着きユーリを待っている間、作業をしている彼を見ていた。
軽くウェーブした黒髪、青い瞳。騎士だけあって、鍛えられた体躯。今までのロッテの生活では出会えない人だ。
私の視線に気づいたのか、ユーリが笑みを返してくる。彼は作業を終えて手を洗って席に着く。
「今日はユーリの好きなシチューにしてみたわ」
「ありがとう。頂くよ」
食事を終え、お茶を飲みながら話をしていた。
「ロッテ、俺の休暇は今日までだから、明日からは仕事を手伝えなくなるよ」
「いいわよ。今日までありがとう。助かったわ。久しぶりに騎士団に戻ったら、暫く大変じゃない?体が鈍っていない?」
「大丈夫だよ。いつも屋敷で鍛錬は欠かしていないからね」
ユーリが力こぶを作って見せる。
「そうなの?ユーリに渡そうと思って回復薬を準備してたんだけど。じゃあ要らないかな」
「いやロッテがくれるんだから、ありがたく貰って帰るよ」
私は回復薬の入った小さな袋をユーリに渡す。
「どうぞ」
「ありがとう」
ユーリは時計を見た。昼の一の刻だった。
「ロッテ、今日はもう帰るよ。明日からまた仕事だから、その準備もあるからね」
「そう…」
ユーリは立ち上がり扉に向かう。私もその後を付いて行く。
「気を付けて帰ってね」
「うん、ありがとう。またね」
少し歩いて歩を止めて、ユーリは振り返り私に手を振る。そして前に向き直り歩き出して森の中に消えた。
「またね…か」
扉を閉めて、食べ終えたテーブルの上の食器を片付ける。
ユーリが次にいつ来るか分からない。約束も無く待つのは辛い。
なんて思ってました。
昨日、お昼にユーリが帰りました。
今日、夕刻です。
扉が開いてユーリが入ってくる。騎士服のままだ。カッコいい…じゃなくて!
「ユーリ、貴方暫く来ないんじゃ…?」
「あれ?俺そんな事言った?お腹空いた。何か食べさせて〜」
疲れたように、椅子にどかっと座り込む。
「ちょっと待ってて。すぐ作るから。簡単な物しか作れないわよ」
「いいよ。あー疲れたぁ。今日、団長って酷いんだよ。俺の体が鈍っていないか確認だとか言って、滅茶苦茶しごくんだから」
昨日までの不安は何だったんだろう。悩んでた自分が可笑しく思える。彼の来訪を予定していなかったから何も準備していなかった。急いで食事を用意する。
「ごちそうさま」
食事を終えたユーリの食器を片付ける。私は後で食事するつもりだ。
「ねえユーリ。昨日、貴方は私の『仕事は手伝えない』って言ってたよね?それって暫く来れないって意味じゃないの?」
ユーリは慌てて否定する。
「違う違う。昼間は来られないから、ロッテの仕事を手伝えないって意味で。騎士団の仕事が終わったら、ここへ来るつもりだったんだけど」
「…紛らわしい…」
私が眉間にシワを寄せてユーリを睨んでいたら、彼はとんでもない事を言い出した。
「ねえロッテ。今日から俺もここに住んでいい?」
一瞬、彼が何を言ったのか理解出来なくて、動きが止まってしまった。
「は?え?何?ここに住む?誰が?」
「俺が」
「住む?ユーリが?意味分かんない!」
ユーリは立ち上がって私を壁際に追い詰める。両側に手を付いて私を閉じ込めた。所謂、これが巷で有名な『壁ドン』かあ…なんて呑気な事を考えていたら、ユーリの顔が近付いてくる。
「俺、ロッテの事が好きだから本気で落としに掛かるよ。覚悟しといて」
「おっ、落とすっ?」
ユーリの吐息が掛かるほど近い。彼は私の髪を一房持ち上げて口付けを落とす。
多分、私の顔は誰が見ても真っ赤だろう。
そんな私を見てユーリが笑う。
「ロッテは初心だから時間が掛かりそうだなあ」
ユーリが壁から手を離して椅子に戻る。私は立っていられなくて、ずるずると座り込む。
ユーリの本性を見た気がした。今までのしおらしさはどこへやら。
「二階に空いてる部屋あるよね?どこなら使っていい?」
ユーリは完全にここに住むつもりだ。どうしたら良い私?呆けて座り込んでいる場合じゃない。踏ん張って立ち上がる。
「…わっ、私まだユーリがここに住む事を了承してないんだけど!」
「大丈夫。まだロッテには手を出さないよ」
「そうじゃなくて!」
「それとも出して欲しい?」
「だから!違うってば!」
うえーん、話が噛み合ってない!
手を出さないと言っているが、今のやり取りで出されない保証が何処にあるだろうか?不安が顔に出ていたのかユーリが言葉をつけ足す。
「ロッテの部屋の扉に鍵を付けてくれても良いし、俺の部屋の扉に外から鍵を掛けられる様にしてくれても良いよ」
…駄目だ。引いてくれそうもない。仕方がない諦めた。二階には師匠の部屋と母さまの部屋がある。母さまが亡くなって時間が経っても片付けられなくて、そのままにしてあった。他に空き部屋も無いし、母さま部屋を片付けて使って貰う事にした。
困った事になったと思いながらも、心の隅でユーリが側にいてくれる事を喜んでいる私がいる事も確かだ。
最後まで読んで頂きありがとうございます。




