12. 魔女と騎士とお茶会
十二話目です。よろしくお願いします。
やっぱり嫌な予感と言うものは当たるものだ。
今朝も扉を叩く音がして、扉を開けてみればユーリが笑顔で立っていた。
「おはようございます。魔女殿」
「…何でまた来てるの?魔女に用が無ければ来ないでって言ったじゃない」
それに迷いの魔法も重ね掛けしたはずだ。何故、彼はここに辿り着けてるの?
「魔女殿に薬の依頼をお願いしようと思って」
「薬なら村の薬屋で買って下さい。では!」
扉を閉めようとすると、また扉を掴まれた。
「薬屋に売ってないんだ」
「…何の薬ですか?」
「毛生え薬」
「…貴方、若いのに剥げてるの?」
憐れんだ目でユーリを見ると慌てて訂正してきた。
「ち、違う!父親が最近毛が薄くなったって嘆いてるから!」
慌てるユーリが面白い。笑いを堪えて答える。
「申し訳ありません。毛生え薬は専門外です。お作りできません。では」
パタンとユーリの目の前で扉を閉めた。
「あっ…魔女殿…」
何か言いたげだったが、そのまま帰ったようだ。
「でも可怪しいなあ?どうして来ちゃうの?魔法を重ね掛けしたんだけどなあ…」
更に魔法を掛けてみる。
「これで駄目だったら自信なくすなあ」
独り言て、薬作りを始める。毛生え薬かあ、作ったことないけと需要はありそう。師匠のレシピにあったかな?あったら作ってみよう。
師匠の部屋に行き、レシピを書いたノートを見る。
「あった、毛生え薬。これなら今ある材料で作れるわね」
材料を揃えて、一心に薬を作っていたら、いつしかユーリの事は頭から消えていた。
二日と開けず、早朝に扉がノックされる。扉を開けるとユーリが笑顔で立っている。
「おはようございます。魔女殿」
「なんで、また来てるの?」
「魔女殿に会いたいから」
「じゃ、もう会ったわね。これあげるから帰って」
薬瓶を一つ渡す。
「これ何の薬?」
「毛生え薬。貴方も気を付けなさいね。お父さんが剥げてるなら、いづれは貴方も剥げるわよ。じゃあね」
「……」
扉を閉めようとするとまた掴まれる。
「何?」
「薬の依頼を」
「毛生え薬は今渡したじゃない」
ユーリは手を振る。
「今日は違います。魔女殿が俺に好意的になってくれる薬を作って下さい」
思わずため息が出た。
「他人の意思を強制的に変えるような薬は作りません」
「え!?作れるの?」
二回目のため息をつく。
「作れたとしても、そんな作用があるって分かってる薬を私が飲むとでも?」
「あ、そうか」
「それに、薬で変えた気持ちを相手から貰って、本当に貴方は嬉しいの?その言葉は本心では無いのよ?」
ユーリは黙り込んでしまった。
「では、御機嫌よう」
考え込んでしまったユーリを尻目に扉を閉める。
「あ!」
ユーリは扉の前で暫く考え込んでいたようだが、今日も素直に帰って行ったみたいだ。
「懲りない人ねえ」
最早、日課になりつつあるユーリの訪問。
「おはようございます、魔女殿」
「ねえ貴方、どうしてここにたどり着けるの?私、迷いの魔法を三重に掛けてあるのよ?」
「ああそれ?」
ユーリは右手の指輪を見せる。
「実はこの指輪、本当は全ての魔法を無効化出来るんだ」
ちょっと待って。一つや二つの魔法を無効化する魔道具はあるけど。
「全ての魔法を無効化するって、国宝級の魔道具じゃない!どうしてそんな物持ってるのよ!」
「父親に借りた」
私は思わず頭を抱えた。
「借りたって…そんな簡単に買える物じゃないのよ。貴方、本当に騎士なの?」
「…騎士だよ。今は間違いなく」
「何か引っ掛かる言い方だけど、まあ良いわ。今日の御用は?」
「魔女殿、お茶しない?王都で有名な店のケーキ買ってきたんだ」
「は!?」
一瞬、目が点になってしまった。
「お茶ってここで?」
「うん、ここで」
お茶…王都で有名なケーキ…。甘い物は正義。この前のクッキーも美味しかった…。
「薬草茶しかないけどいい?」
「もちろん」
…ケーキの誘惑に負けてしまった。
「狭い所ですけど、どうぞ」
ユーリを家に招き入れる。
「その辺に座ってて。お茶を入れて来るわ」
「ああ、これケーキだよ」
「ありがとう」
ケーキの箱を受け取りお茶を入れに行く。お茶とお皿に乗せたケーキをユーリの前に置く。
「ありがとう」
「どういたしまして」
私も席に着く。いただきますも早々にケーキを一口。
「な、何これ。すごく美味しいんだけど。口の中で溶ける〜」
ユーリと目が合う。
「気に入って貰えて良かったよ」
「うん、ありがとう。とても美味しいわ」
「あのさ魔女殿。名前聞いても良いかな?」
「私?私は…ロッテよ」
「じゃあ、ロッテって呼んでも良い?俺の事はユーリで」
「…いきなり、呼び捨てはハードル高いんだけど…」
「いいじゃない、ロッテ。ほら俺の事呼んで」
「ユ…ユーリ…さん…。これ以上は無理!」
無理だ。こっちは男性に免疫ないんだから、顔が真っ赤になる。
「…ま、今はこれで良いか」
それから他愛もない話をして過ごした。
「今日はお茶に付き合ってくれて、ありがとう」
「いえ、こちらもケーキをご馳走して貰いましたし」
「また来ても良い?」
「それは…偶になら…」
「そう、じゃあまたね。ロッテ」
「また…」
ユーリが帰った後、恥ずかしさで悶える羽目になった。
そして偶にと言ったのに、ほぼ毎日やって来るユーリに絆され、『ユーリ』と呼んでしまうのもすぐの事だった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。




