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11. 魔女と騎士とお菓子

十一話目です。よろしくお願いします。

朝日が昇る頃から起き出して薬を作る。昨夜は早く休んだから調子がいい。


裏の井戸から汲んだ水を釜に入れ、乾燥させた薬草を刻んで加え、火にかけて煮出す。ゆっくりとかき回し続ける。


「今日はいい薬が作れそうだわ」


薬効が出た頃を見計らい、火を止めて釜を火から下ろす。仕上げに魔力を込める。今日のは中々良くできたなあ、なんて考えていたら扉をノックする音が聞こえる。


「こんな朝早くからお客さん?結界は反応しなかったから大丈夫よね」


森に張られている結界は悪意を持って森に入った者を弾き出す。


「は〜い、今出ます〜ぅ」



返事を返し、ゆっくり扉を開けると見覚えのある騎士が立っていた。


「おはようございます、魔女殿」


…今、私の事を魔女と呼んだ?と不思議に思いながら、挨拶を返す。


「おはよう…ございます?魔女に御用ですか?生憎、師匠は出掛けておりまして、ご用件をお伺いするだけになりますが…」


騎士は何も言わずバスケットを差し出した。

何も言ってくれないから、思わず視線を騎士の顔とバスケットとに上下させる。


「あの、これは?」

「先日の呪いを解いてくれた礼」

「あの、解呪のお代はすでに十分過ぎるほど頂いておりますが」


騎士が私の顔をじっと見るから、恥ずかしくなって目を逸らす。あの時も思ったが、この人凄く整った容姿をしているのだ。


「これは俺からの礼。どうしても解呪してくれた魔女殿に会いたかった」

「師匠は出掛けてますので、あなたの感謝は伝えておきます。では」


素早く扉を閉めようとすると、ガッと扉を掴まれた。



「なっ、なん!」

「魔女は貴女だ」


「なんの事でしょう?魔女は師匠で、私は弟子でして…」


騎士は扉を開け中に入って来た。勢いに負けて後退る。


どっ、どうしよう?とキョドっている内に、どんどん距離を詰められる。


「あの!」

「あの時、貴女の事見てた。銀色の髪と紫の瞳。呪文が歌のように優しく聞こえた。呪いを解いてくれた貴女に…会いたかった」 


銀色の髪に紫の瞳?


私、姿変えの魔法掛かってるよね?


思わず自分の姿を確認する。茶色の髪だ。瞳はすぐ確認できないが多分大丈夫なはず。


「あの誰かとお間違えでは?私の髪は茶色ですよ?」


騎士は右手に嵌めていた指輪を見せる。


「これ魔道具なんだ。姿変えの魔法を無効化できるんだ。それに髪や瞳の色は変えていても、顔の作りまでは変えてないだろ?」


「……」


…自分が魔女だってバレているなら、もう誤魔化す必要なんて無いか…。


騎士なんて貴族の近くにいる人間だ。もしかしたら、この人自身が貴族かも知れない。なら魔女の条約の事も知っているはず。それを利用して帰ってもらおう。


「俺、王城の騎士だから銀色の髪は王族の色だって知ってるんだ。ねえ、貴女はこの国の王族と関係あるの?」


騎士の質問に首を傾げる。母さまから自分が貴族の子供である事は聞いていた。父親はバーデン公爵だと。王族に近い立場ではあると思うが、今話す事じゃないよね。



やっぱり騎士なんて助けるんじゃなかった。面倒事しか持ち込まない。何としても、このまま帰って貰わなきゃ。


「違いますよぉ。ただの平民です。魔女だって事は認めます。お礼でしたっけ?これ受け取ったら帰ってくれますぅ?」


にっこり笑ってバスケットを受け取る。


「受け取りましたよ。有り難くいただきます。さあ、お帰りはあちらです」


扉を手で示し、出て行ってと促すが出て行ってくれない。


仕方なく、騎士の背中を押して家から出そうとするが、私の力じゃびくともしない。


「魔女は不可侵ですよ。出て行ってくれないと王様に言いつけちゃいますよ!」


騎士はちょっと困った顔をした。


「ごめん、困らせたかったんじゃないんだ。貴女が王家に関係する人間なら報告しなければならないから。だけど、貴女が嫌なら誰にも言わないよ」


ゆっくり扉に向かい、騎士は外に出てくれた。騎士は振り返り、にっこり笑って言った。


「俺はユーリ・クラウゼ。また来て良い?」


「魔女に依頼の無い方はお断りです。では、さようなら!」


勢い良く、騎士の前で扉を閉める。今度は扉を掴まれなかった。暫くすると足音が遠ざかって行った。



「…はあ…疲れた。朝から何なのよう」


ほ、と息を吐いて抱えたバスケットを見る。


「何だかいい匂いがする。甘い匂い、お菓子なのかな?」


バスケットを開けるとパンとクッキーが入っていた。村の店では見たことが無いパンとクッキーだ。王都のお店で買って来てくれたのかな?


「食べても大丈夫…よね?」


クッキーを1枚摘んで口に放り込む。サクッとした食感もいい。


「…おいしい」


本当にお礼を言いたかっただけなのだとしたら、あの騎士、ユーリとかって言ってたっけ。ユーリに悪い事したなと思ったり、思わなかったり。



「王城の騎士って言ってたな。彼と仲良くなれば、バーデン公爵に近付く事ができるかな?」


いやいやと頭を振る。


私の復讐の為に何の関係もない彼を巻き込む事は気が引けた。



バスケットをテーブルの上に置いて作業場に戻った。


次にユーリが森に来ても、ここに辿り着けない様にするために呪文を唱えた。迷いの魔法。森に入っても迷って迷って、最後は森の出口に戻ってしまう魔法だ。


私の静かな生活は邪魔されたくないのだ。



 

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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