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10. 魔女と聖獣

十話目です。よろしくお願いします。

「え?犬?」


犬?に睨まれた。


「犬とはなんじゃ、犬とは。妾はこの森の守護をしておるフェンリルじゃ」


「しゃ、喋った!」



フェンリルは呆れたようにフン!と鼻を鳴らした。


「妾をただの獣扱いするでないわ。人間からは聖獣と呼ばれる事もあるんじゃぞ。言葉くらい話せるわ」


フェンリルの言葉にそう言うものかと自分を納得させた。フェンリルが言葉を話せるなら、疑問に思っていた事を聞いてみる。



「それで、そのフェンリル様はさっきまで魔石だったんですよね?どうして聖獣であるあなたが呪われたりしたのですか?」


フェンリルはちらっと視線を私の方に向けて、嫌そうな顔で答える。


「言わぬと駄目か?」

「駄目って訳じゃないけど、純粋に興味があるから聞いてみただけです」

「笑わないと約束するならば教えてやっても良い」

「笑わないです。だから教えて下さい」



フェンリルは少し恥ずかしそうに話しだした。


「…妾は聖獣と呼ばれておる。森を守護せねばならん。だからずっと森に居て少し退屈になったのだ。森を出てみようと思ってな、フェンリルの姿では目立つと思い犬の姿に変化しての」


「そうだよね。ずっと森に居たら退屈だよね」


「でな、犬の姿で思いっ切り草原を駆け回ったのじゃ。思う存分走り回って、疲れたから岩の上で眠り込んでおった」



フェンリルは眉間にシワを寄せて話を続ける。


「その時に、近くを通りがかった馬車があってな。その馬車から貴族の娘らしい女が降りて来て、妾の許しも無く頭を撫で、挙句にこう言ったのじゃ」


『まあ、大きなワンちゃん。わたくしが飼ってあげるから馬車に乗りなさい』と。


「妾はその娘の言葉を無視した。そうしたらその娘は、護衛の騎士に妾を捕まえさせようとしたのじゃ。さんざん追い回されての。余りに腹が立った故、娘に向かって後ろ足で砂を掛けてやったわ」


砂を被った娘は顔を真っ赤にして叫んだ。


『な、なんて事をするの!わたくしはフォルディナン王国の王女なのよ!もういいわ!わたくしの言う事を聞かない犬なんて要らないわ!』


娘はカンカンに怒りながら馬車に乗り込んだ。


「馬車は走り去って妾も森に戻った。そんな事があった数日後、妾の体に蔦の様な紋様が表れたのじゃ。呪いである事はすぐに分かった。恐らく、あの王女が呪いを掛けたのであろうとな。呪いにあの王女の匂いがしたからの」


「でも、その王女様が呪いを掛けたとしてもどうやって?呪いを掛けるには何か媒体が必要よ」


「多分じゃが、あの娘が妾の頭を撫でた時に、あの娘の服に妾の毛でも付いてしまったのではないかと思う」


「あーなるほど。その毛を媒体にあなたに呪いを掛けたのね。でも、どうして呪いだと分かっていて何もしなかったの?」


フェンリルは、はぁーと息を吐いた。


「妾とて呪いを解こうと試みたわ。しかし、かなり強力な呪いでな。どうにも出来ない内に呪いが進んでしまい、自我を失う前に身体の中に小さな結界を張り分身を隔離したのじゃ」


「それが魔石だと思った物の正体だったんですね」


「自我を失くしたとは言え、魔獣の様に人や村を襲ってしまったのは妾の一生の不覚!騎士に討伐されたのは致し方あるまい。恨みはせぬよ」


フェンリルが拳を握って憤っているのは中々見られるものじゃないなあ。可愛いかも。



「妾もあの呪いに苦しめられたからのう。その恨みで、妾を討伐した騎士に呪いが移ってしまったのじゃ。あの騎士には申し訳ない事をした」


フェンリルが私の顔を見てにやりと笑う。


「じゃが、そのお陰でお主と出会える事が出来たわ」


「え!?私?」

「そう。お主は妾でも手こずった呪いを解いてくれた。感謝しているぞ」


フェンリルは照れたようにそっぽを向く。


「そう思って頂けて光栄です」


私はうふふと笑った。内心、凄く簡単だったんだけどな、と思った事は言わない。


「厚かましいとは思うが、お主に頼みがある。妾を暫くの間、ここに置いては貰えんか?妾は今回の呪いで力の殆どを失ってしもうた。お主の魔力は心地良い。ここに居れば妾の力も早く回復すると思うのでな」


「え!?ここ狭いですよ?」


「場所は取らん。力が戻るまで小さな結界を張り、その中で眠らせて貰う。そこの戸棚の隅にでも置いておくれ」


「そういう事でしたらどうぞ」


「感謝する魔女よ。では、早々に眠らせて貰おう。もう力が殆ど無くて眠くてのう。それから妾の事はミラルカと呼ぶが良い」


「ミラルカ様ですね。私はロッテです」


「様はいらん。ミラルカで良い。ではロッテ、暫く世話になる。よろしゅうな」


ふぁ〜と欠伸をしてミラルカは丸くなって回りに結界を張った。戸棚の中に小さな座布団の様なものを敷きミラルカを置く。


「お休みなさいミラルカ」


パタンと静かに戸を閉めた。




ちなみに私が返した呪いは、呪い師には顔に『私は人を呪いました』と文字が浮き出るようにしてやった。


王女には夜になると犬の様な耳と尻尾が生える様にしてやった。さぞかし困っているだろう。


二人とも、心から反省したら呪いは解けるようにしてある。


なんて優しい私。


今日はもう休む事にした。





最後まで読んで頂きありがとうございます。

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