82話 電光石火
6人と1匹は船から降りて、砂浜で焚き火を囲い、作戦会議を行っていた。
「さて。もう魔王城は目と鼻の先になったわけだが」
小森たちの上陸した場所からは、魔王城がよく見える位置にあった。
急斜面の崖から構成される山の上にあり、そこから城の側面部が伺える。
「目と鼻って小森サンよォ。どこから登るんだァ? ピョンピョンってウサギみたいに跳ねて登れるような崖じゃねェぞ」
「いや、そうやって登るつもりだが?」
断崖絶壁とはいえ、わずかでも足を乗せられる場所があれば小森たちには問題が無かった。崖の移動については『穴の世界』で十分すぎるほどに経験を積んでいる。
「いや……仮に出来たとして、俺様含めて他の連中が着いていけねェよ……。ほら、ペレゾもイヤそうな顔してんじゃねェか」
「んはは……。もう慣れたからいいぜ。オレは」
「ペレゾさんはわたしがおんぶするので大丈夫です!」
『キュイ?』
小森はゴルゴンゾーラを見て、はっとした。三人で登って魔王をやっつければいいと考えていたが、ゴルゴンゾーラと離れたく無かった。
「なぁ。おれは船を直してぇんだが……」
「なに? 壊れてるのか?」
「さすがにな。ところどころ、穴が空いちまってる。ここは木材がいっぱいあるから、おれは留守番しながら直してやりてぇんだ」
船長のジョンは喋りながらも、船の方ばかりを心配そうに見ていた。
「あー、それなら俺様もジョンと船を守ってやんなきゃな。城の連中に見つかっちまう可能性もある」
「それなら私も」
小森・ペレゾ・あかり・ゴルゴンゾーラが討伐組、ジョン・ザルド・クロキが留守番組という内訳になった。
「うーん。しかし、ゴルゴンゾーラをおんぶして崖を登るのは流石に厳しいな。卵だった時の三倍くらいのでかさになってるぞ……」
「急成長してますよね……」
『ギュイー♫』
小森はゴルゴンゾーラにリンゴを与えながら、どうするかを考える。
もう空もだいぶ暗くなってきており、天候も悪い。
ぎりぎり雨は降っていないが、魔王城の真上の空は相変わらず暗雲が立ち込めており、稲光がひっきりなしに閃いている。
「あっ! そうだ」
「ん? 何か思いついたか。小森」
「ペレゾ、あの精神破壊バングルを貸してくれ」
「良いけど……。別にそういう意図で作ったんじゃないからな。ちょっと出力の上限ミスっただけだ」
「サンキュ。それなら、今度こそ正当な使い方をするから安心しろ」
小森はバングルをゴルゴンゾーラの前足にはめて、そっと頬に触れた。
「おーい。ゴルゴンゾーラ。俺の言っていることが分かるかー?」
『ママー』
「ママだぞー。りんご食べるか?」
『タベルー』
「ふむ。人語は分かってそうだな」
小森はリンゴを一つ与えて、続ける。
「お前って、空を飛んでたよな?」
『ヒリュウダカラネ』
「俺とペレゾとあかりを乗せて飛ぶことって、出来る?」
『エッ……オモクナイ……?』
「そこをなんとか!」
『カジョウセキサイ……』
ゴルゴンゾーラは露骨に嫌そうな顔をした。
他の5人はゴルゴンゾーラの声こそ聞こえていないが、交渉がうまくいっていないのを容易に察することが出来た。
「ゴルゴンゾーラ、なんか思ってたよりスレてるんだよなぁ」
『キコエテルゾ。ママ』
「なんだか、暗雲立ち込めてますね……」
「暗雲……そうか!」
あかりのつぶやきに小森は閃いた。
「ゴルゴンゾーラ! リンゴよりも美味しいものを食べたくないか?」
『エッ……ソンナノ、アルノ?』
「あれを見ろ! 魔王城の上空だ!」
『!!』
「お前、さっき夢中になって食べてたんだぞ。俺たちを乗せて飛べば、あれを食べられる! どうだ!?」
『ハヤクノッテ!!』
「よし、交渉成立だ! ペレゾ、あかり、レッツライドオン!」
二人は小森に言われるままにゴルゴンゾーラに跨った。
「わぁー。ふかふかです!」
「んー。オレの次くらいに触り心地がいいな」
ゴルゴンゾーラが羽ばたくと、大きな風が起こり、焚き火を吹き飛ばした。
渋っていた割にあっさりと地上を離れ、10メートルほどの高度を維持したまま飛空している。
「おおおーい! ママを忘れてるぞー!」
ゴルゴンゾーラは羽ばたくのをやめて、高度を下げながら海側へと滑空するように加速していく。
そして、水面ぎりぎりになるところで旋回し、焚き火跡のところでピョンピョンと跳ねる小森を両足で掴んで、急上昇した。
「ギャアアアアア! ひゃっほおおおお!」
悲鳴なのか喜んでいるのか分からない絶叫をあげる小森。
『トクトウセキ』
「おわっほおおおおおう! そのまま魔王城へ!」
ゴルゴンゾーラはあっという間に山の上に立つ城の高度に到達し、旋回を始めた。
城の四方には四本の塔があり、秒単位で落雷が降り注いでいた。
「封印的なあれか。塔を壊さないと入れないのか?」
『イタダキマース』
ゴルゴンゾーラは大きく口を開けながら落雷バリアに侵入した。
ばりばりばり! と耳をつんざくような音が3人を襲う。
しかし、それ以上の衝撃は無く、落雷はゴルゴンゾーラの口の中に吸い込まれるようにして収まっていく。
『グルオオオォオオオオ』
「おまっ……食べすぎじゃね? 大丈夫なのか?」
『ウオォン! オカワリ! オカワリ!』
ゴルゴンゾーラはいつまで経っても魔王城に止まろうとせずに、落雷バリアに沿って旋回を続けた。その間、テンションの上がったゴルゴンゾーラはどんどん加速していき、どちらが落雷か分からないほどの速度を叩き出していた。
やがて、無尽蔵と思われた落雷の方が根負けしたかのように、静かになった。
「もう、おかわり無いってよ……」
『ウウー、マンゾク』
綺麗な星空の下、ゴルゴンゾーラは魔王城最上階のテラスに着地した。
三人はその場でへたり込む。
「大丈夫か。みんな」
「わたしはなんとか……しかし、ペレゾさんがっ」
「おえ……空酔いした。オレ、空酔いしたのってはじめてかも」
小森とあかりはぐったりとしているペレゾの背をさすり続けた。
ゴルゴンゾーラは腹が一杯になったのか、その場で目を閉じてしまった。
そうして一行が疲労を回復していると、城の中から人影が現れた。
「――予期せぬ客じゃの」
「何者だ?」
影は小森たちの前まで歩いてくると、星空に照らされてその姿をあらわにした。
九本の尻尾。狐の耳。
周囲に二つの黒い炎の玉を浮かび上がらせた、小さな女の子の姿。
しかし、その表情は子供らしからぬ冷淡な笑みを浮かべており――
「妾は魔王じゃ。よく来たな、異邦人」
と、名乗った。




