83話 魔王ビーム
「ひいいいっ! 魔王が現れましたよ! どうしましょう小森さんっ」
「やるしか無いだろ。でも狐か……なんてやりづらい姿なんだ」
突然の魔王の登場に、座り込んでいた三人が一斉に立ち上がる。
「それにしても、勇者が出ぬよう頑張って調整していたというのに。飛竜孵すし、四天王殺すし、やりたい放題やってくれたの。おぬしら」
魔王はあからさまに不機嫌な態度を示した。
九つの尻尾が逆立ち、黒炎の玉も勢いよく旋回を始める。
「くっ……はやく最終形態になってくれ! せめて幼女じゃなくて男に!」
「むぅ。妾は戦わんぞ?」
「はい?」
「絶対勝てないもん。チーターじゃろ。おぬしら」
魔王は脱力したように、その場に座り込んだ。
何がなんだか分からないまま、小森たちも床に座る。
「俺たち、魔王討伐を依頼されたんだが。あんたが戦ってくれないと俺たちの立場がだな……」
「じゃあ妾の負けでいいじゃろ。まだ死にとうない。魔王はデスペナきっついんじゃ」
「いや、しかし……」
「もー! 何が欲しいんじゃ! おぬしらの望みを言ってみろ。やれる事はやってやるから」
魔王は駄々をこねるように、尻尾で石畳を連打した。
毒気を抜かれた小森たちは、呆然とその姿を見る事しかできない。
「何か目的があって、この世界にやってきたんじゃろ? 言うてみるがよい」
三人は大きく目を見開いた。どうやら、魔王はこちらの正体をある程度見抜いているようだった。
「――そうだ。俺たちは死にゆく世界から、こちらに渡ってきた。ただ寿命を待つだけの世界を、どうにか救いたくってな。何か方法を知らないか?」
「魔王に世界の救い方を聞くのか。 あっはっは! これは愉快じゃ」
「真面目な話だぞ」
「む……むむ。すまんかった。しかし、そういうすけーるの話は妾の手に余るな。世界竜の仕事じゃ」
「世界竜?」
「うむ。ちょっと見ておれ」
魔王の周りを飛んでいた黒炎の玉が頭上高く浮かび上がる。
「魔玉ふらーっしゅ!!」
玉は城の外側に向けて、光線を発射した。
光は宵闇を突き進んで、巨大な樹を照らし出す。その周囲だけが真昼のような明るさになった。
「あそこにあるのが世界樹で、そこに住んでいるのが世界竜じゃ」
「おー。この距離なら、ゴルゴンゾーラでひとっ飛びだな。よし、行ってみるか」
光線が無くなると、辺りは再び夜の暗さに溶け込んでいった。
「世界樹の位置は覚えたかの? ずっと照らしていると、流石に怒られるのでな。世界竜に」
「魔王を怒るって……そんなにすごいやつなのか? 上司みたいな感じか?」
「妾から言わせれば小物じゃが……一応、この世界の管理人じゃからの。力では到底及ばん。おぬしらがあやつをやっつけてくれれば、妾の心はスッと晴れるばかりか、うまくいけば管理権を引き継げるやも……」
魔王はニヤニヤと、よこしまな笑みを浮かべた。
「俺たちを利用しようとしているのか。欲望を隠さないやつめ」
「魔王じゃからの。大物の貫禄というやつじゃ――あ痛っ、何をする!」
小森は魔王を軽く小突いた。
「はい。これで俺の勝ちな。敗者のお前は魔軍を王国から引き上げておく事。『小森にやられたー!』と宣伝しておくのも忘れずにな」
「ちっ……うやむや作戦が失敗じゃ。抜け目のないやつめ。言う通りにしておくから、さっさと行ったらどうじゃ!」
魔王はむすっと頬を膨らませて、小森たちを追い払うように手を振った。
「ふはははっ! これが大物の貫禄だぞ、魔王。では俺たちはもう行くとする。じゃあな。精進しろよ」
三人は再びゴルゴンゾーラに乗り(小森はぶら下がって)、魔王城のテラスから飛び上がった。
「おぬしらなんて、世界竜にやられてしまうがよいわ! あやつはルールそのもの。果たして小森に勝てるかなぁ!?」
魔王が最後の一言を浴びせんとばかりに大声を張り上げる。
小森は涼しい顔で眼下の魔王を見下ろして、次のように言った。
「ああ、そうだ。のじゃロリ魔王。城の裏手に壊れかけの船があるから、修理を手伝っといてくれな!」
「きぃぃぃー! 誰がのじゃロリなのじゃー! 調子にのるなよー!」
握りこぶしを振り上げる魔王が豆粒ほどの大きさになり、大声の応酬も届かないほど飛び上がったところで、小森たちは世界樹を目指した。
ゴルゴンゾーラは翼を広げ、重力を利用して空を滑るように進んでいく。
「なんだか可愛らしい魔王でしたねぇ」
「大物とは程遠いけどな」
黒々とした樹海は眠っているように静かだったが、ゴルゴンゾーラが上空を通り過ぎると、ざわざわと音を残した。
「うぅ……さむ。まだ着かないのか? 小森」
「近いと思ったんだけどな。こうして飛ぶと中々距離があったみたいだ」
世界樹は闇夜に覆われてハッキリと見えないが、その巨大なシルエットは見間違えるはずもなかった。
小森たちはそこへ目掛けて、何の障害物もなく、加速を続けながら一直線に飛んでいる。
間違いなく世界樹へと近づいているのだ。
その証拠に、その世界樹のシルエットは加速度的に大きくなっているのだから。
「これは……どこに着地すればいいのでしょう?」
「というか、デカすぎんだろ! 樹の中に樹がたくさん入ってるぞ……」
いつの間にか、小森たちの周囲は世界樹から伸びた枝と葉に覆われていた。
葉の一枚がゴルゴンゾーラほど、枝の一本が大木のようなサイズ感なので、星明かりを完全にシャットアウトしてしまっている。
『キュウゥゥゥ……ナニモミエナイ』
視界をなくしたゴルゴンゾーラが困ったような声をあげて、速度を落とした。
「これはもう、世界樹の中にいると言ってもよさそうだな。しかし、いくら夜目が効いてもゴルゴンゾーラを導いてやれないと意味が──うおっ」
突然、小森たちの後方から光の筋が突き抜けた。
光はサーチライトのように樹の中を探るように照射し続けている。
「おお、のじゃロリ魔王の援護か? 案外いいやつかもな」
「これで樹の中に潜っていけますね!」
明かりを得たゴルゴンゾーラは、葉と枝の間を縫うようにして樹の中心部へ入っていく。
光の指す方向が樹の中心だと分かるので、迷いようもなかった。
「んん……。でもなんか、だんだん眩しくなってきてないか?」
「確かに。ゴルゴンゾーラ、ちょっとストップだ。何か伝えたいことがあるのかもしれない」
ゴルゴンゾーラがその場でホバリングをしていると、光は少しずつ位置をずらしていった。
「光で文字でも書くのでしょうか?」
葉から枝、枝から別の葉、と少しずつ位置が修正されていく。
そして、小森たちを照らしたところで光の動きが止まり……代わりに、光の出力が急激に上がった。
暴力的な光の奔流が小森たちを照射する。
「ぐわああああ眩しい!!!」
「ひいいいっていうか熱い! 熱いです!」
「あの魔王っ。まだ根にもってんじゃねーか!」
『ビギャーーーッ』
「ゴルゴンゾーラっ! とにかく前へいくんだ! ジグザグに動きながらな!」
小森たちは背中に魔王からの熱い応援を受けながら、世界樹の中心へと爆走した。




