72話 飛竜の卵
「やや。あなた方は英雄のスーパーノービス御一行! これから王に会われるのですね?」
「うむ。出港前に会っておこうと思ってな」
「王も喜ばれるかと思います。ささ、どうぞ中へ」
買い物を済ませた小森たちは、王国の城へと足を運んでいた。
小森の行動が予想されていた為か、王への面会は歓迎されて、すんなりと玉座のある部屋へと通された。
王は執務室からこちらへ向かっているとのことで、その間、三人は空の玉座の前で待機することとなった。
「どきどきしますね……!」
「まあな。しかし、こういうのは堂々と行くべきだ。舐められたら負けだからな!」
小森の出で立ちはかなりグレードアップしていた。
みすぼらしかったボロ布装備から一転し、黒染めの木綿のポンチョで全身を覆っている。
「前よりも高級感出たよな。小森の格好」
「着心地も抜群だぜ。そういえば、俺のファッションチェックがまだだったな?」
「いや、別にここでやらなくても……」
「すぐに終わるさ。さあ、見てくれ!」
小森がその場で一回転を決めると、ポンチョがふわりとめくれる。
筋肉質な腹筋と、少し日焼けした肌が周囲の兵達の目を引いた。
突然体格が変わったわけではないが、上等な装備のおかげで、見栄えが良くなったのだ。
「って、やっぱり下が裸じゃねーか!」
「小森さん、そのスタイル気に入ったのですね……」
「解放感が病みつきなんだ。何でも出来る気がしてくるぞ」
小森が人差し指を天高く突き出すなどして、決めポーズの練習をしていると、王が入室して玉座へと腰掛けた。
王は白髪で豊かな白ひげを蓄えた初老で、たんぽぽの綿毛のようなシルエットをしているが、その中心に浮かぶ鋭利な双眸が印象の八割を占めていた。
「待たせたな。貴方が英雄の小森さんか」
「その通り。俺たちは英雄だ。そして、これから無茶な作戦に挑み、なんとそれを成功させてしまう」
「フム?」
「これから、『英雄』以上の称号を用意してもらう必要があるわけだな。例えば、『天翔ける勇者』とか……」
「ああ、分かったぞ。飛竜の卵が気になって来たのだな?」
「話が早くて助かるよ」
側から聞いている者が狼狽するような、ほとんど無理問答のようなやり取りで、迅速に二人は距離を詰めていく。
「貴重な時間を礼にばかり割く必要もないからのう。そういう正直かつ計算高い人は嫌いじゃない。小森さんは、あえて俗っぽく振舞っておるのだろう?」
「そう思ってもらった方が有利になりそうだな。ところで、時間が無いのは本当だ。王さま、飛竜の卵はどこに?」
「ドライだのう。もう少し剣呑なやりとりをしてみたかったものだが、出航間近となれば仕方あるまい。卵は離れの宝物館にある。好きに観ていくといい」
「どうも」
小森は軽く会釈をして、その場を後にした。
城の中枢から伸びる高壁を渡り、宝物館へと至る。入り口はその地上5メートルにも及ぶ場所に一つあるのみであり、他には無い。
「小森。 急にキョロキョロして、どうした?」
「いや、宝物館という割には警備が甘いと思ってな」
内庭からはほとんど死角で巡回の兵士も少なく、外構部ということもあってか、入り口で立哨しているような者もいない。
「んー。城内に兵士がたくさんいただろ。中を通らないと入れないから、こんなもんなんじゃね?」
「なるほどな」
宝物館の内部にも人影はなく、銀の食器やら金の装飾品やらが展示されていた。どれも堅く固定されており、何重にも鎖で簀巻きにされた宝箱なども安置されている。
何より目立ったのは、部屋の中央に鎮座している巨大な楕円形の物体である。
それに覆いかぶさった布を取ると、ぼんやりと黄色に輝く卵が姿を露わにした。
「うおお!デカイ! 興奮してきたな」
「わたしと同じくらいの大きさですね……」
1.5メートル足らずの飛竜の卵は、巨大な心臓であるかのごとく鼓動している。
「暖かいです……!」
「無精卵というオチは無さそうだな。こんな状態で何十年も生まれないのか」
触ったり、軽く叩いたりしてみても、卵は一定間隔で鼓動するばかりで、まるで深い眠りについているかのように穏やかな光を放っている。
「よし、卵は本物だな。目的は果たした。戻るぞ」
「もういいのか? この場で孵してやる! とか言い出すかと思ったけど」
「……まあ、半分くらいは、そういう企みもあったが、気持ち良さそうに寝ているからな。また今度にするよ」




