43話 攻め小森
肉の誓いにより結束力を高めた小森たちは今後の動き方を相談し合っていた。
「遭難しておきながら攻めの姿勢とは。」
「確かに……。わりと今のままでも冒険冒険していると思いますが、今後は具体的にどう動くのでしょうか?」
ヌーは不思議そうに、あかりは面白そうにして、小森へ問いかけた。
「君たちも知っての通り、俺は慎重な男だ。その辺を考えなしに言ったりはしない」
小森は不敵に笑い、続ける。
「逆に聞くが、俺たちが今進むべき道――目標は何だと思う?」
「遭難からの脱却。元の世界に戻る……こと。」
ヌーが即答するが、最後の方はやや歯切れが悪くなってしまった。
「では具体的に何をすべきだ?」
言葉が詰まる原因を小森はよく知っていた。
「んぬぅ……。ハヌゼベあたりに聞いてみる? とか。」
「もちろん、ハヌゼベがこちらの席に来たらすぐにでも聞いてみるさ。他には?」
答えの見つからないヌーは口をつぐみ、押し黙った。
「俺はな。そもそも、ただ無事に帰りたいってのが間違いなんじゃないかと思い始めてるんだ」
「小森さんは帰りたくないのですか? 大好きなパソコンとか出来なくなっちゃいますよ?」
あかりは少し意地悪そうに小森へ問いかける。
ある程度、小森の答えを察していたからこその反応だった。
「いいや、違うな。いつかは帰るぞ? パソコンだってやりたいし、異世界に行ってきたと2chで自慢したい。その時に自慢できるような話をたくさん持って帰りたい。そして、土産そのものだって持って帰りたいと、俺はこう言いたいわけだ」
「なるほど! さすがは小森さんっ」
ほとんど出来レースのような質疑応答に、ヌーは両手を挙げて抗議した。
「いやいや土産って。何を持って帰る気なんだ。『マンガ肉』か?」
「何だっていいんだぜ、ヌー。俺はやられっぱなしが気に食わないんだ。変な世界に来た、どう帰ろう、遭難した、どう対処しよう――全部受け身だ! 面白くねえ! こんな土産話を聞く方だってうんざりするだろ」
小森の笑みは鋭く、不敵を通り越えて悪魔的なものになっている。
「だからな、俺たちのやりたい事を何よりも大事にすべきだ。振り回されるんじゃなく、振り回すのさ。運命をな」
運命を振り回す──小森の純粋な負けず嫌いは、もやのかかった不安を実体のある敵に見立てた。それを出し抜き、一泡吹かせる。相手のあるゲームのようなものだと思えば、それは小森の得意とする舞台になる。
「現実世界に持ち帰ったら面白そうなモノ──スリサズなんかより、もっとすごい『秘宝』がゴロゴロ転がってるんだろ? それを持ち帰ったら一攫千金どころじゃねーだろお前、ククク……まるっこどうぶつだって食べ放題だ」
「まるっこはおいといて……。お金になるアーティファクトか。確かに『楽園』にはお宝がたくさん眠ってるって言ってたな。」
ヌーは少し悩むようにして口元へ手を当てた。
「その方が夢があるし張り合いも出てくるってもんだろ。それこそ、ピンポイントで異世界に渡るアーティファクトなんかも埋もれてたりするんじゃないのか?」
「ぬう……。たしかに。『サナギの匣』みたいなボクの知らないアーティファクトもあったしな。小森。狂ったのかと思ったけど。いいかもしれない。うん。」
小森の笑みにつられ、ヌーもにんまりと笑い出した。
あかりも言わずもがな、ニコニコと賛同している。
それは側から見れば、悪巧みをしている三人衆に見えたかもしれない。
――と、そこへ。
「待たせてすまなかった。今、ひと仕事終えてきたところだ」
四つ目の無表情がずいっと、三人の中に割って入ってきた。
「うおっ! ハヌゼベ」
「住人が心配している。あまり悪い顔をしないでほしい」
ハヌゼベの表情は分かりづらく、冗談なのか本気なのかいまいち判別がつきづらい。ギュイヌや春爺は表情が豊かなので個人差にとどまる範疇なのかもしれないが、いかんせん目や腕の数が違うのもあって、ハヌゼベを同種族と捉えて良いのかも判断に困る問題であった。
「そりゃどうも……俺たちに話があるって?」
「その通り。特別な装備無しで深層に滞在できる貴殿らにしか頼めない問題があるのだ」
ピンと緊張が張り詰める。
小森は以前の、ハヌゼベと初めて相対した時の感覚を思い出していた。
「随分な前口上だな。もしかしなくとも、かなりヘビーな内容なんだろ? それ」
「単刀直入に言おう。深層へ赴き、寄生虫の調査をしてほしい。出来るなら根絶も」
小森は驚かなかった。むしろ、ハヌゼベの行動に合点がいき、すっきりとしていた。
「俺たちがここへ降りて、あんたがすぐに部隊を展開し始めたのは、この準備のためだったんだな」
「ご明察だ。貴殿らが楽園深層を行くつもりなら、全力でサポート出来るようにとね。加えて、ヴオルという脅威が去ったのも大きい。貴殿のお陰だ」
――あかりを襲い、左腕を奪ったヴオル。それは寄生虫に精神をやられて狂乱していた為だという。そして、彼はギュイヌの兄であり、住人たちに尊敬される戦士でもあった。
小森はそれらを最後まで結びつけないよう考えていたが、今はっきりと告げられてしまった。
つまりは、小森が殺した狂戦士はヴオルだという事実を。
「悪いが、俺たちはやりたいようにやる。罪の意識に訴えようとしているのかは知らんが、俺たちはもう決意を固めた後だからな。ヴオルを殺したことを糾弾されようと、それは俺たちがあんたを手伝う理由にはならない。そもそもが正当防衛だしな」
「いやすまない、ヴオルについては他意はない。失言を許してほしい」
ハヌゼベの表情は読み取れない。
ヴオルと関係の深かったギュイヌや春爺と小森の邂逅は偶然だったのか。ハヌゼベが仕組んだ事なのか。
いずれにせよこの鉄面皮がボロを出すようなことは絶対に無いだろう。
その真相については、いくら考えても無駄な事だと小森は悟った。
「しかし、まあ、ハヌゼベ。紳士なあんたの事だから、無償で俺たちに依頼をしようってわけじゃないんだろ?」
恩の売り買いといったような、水面下の探り合いは小森のもっとも嫌っている事だった。
「もっと分かりやすい取引がしたい。ああ、先に言っとくが、あんたの腕なんか貰っても嬉しくないからな」
「腕? ……ああ、あの時のことか。性急だったので私も少し取り乱していた。勘弁してほしい。――取引の件、大いに結構。では、何がお望みかな?」
年齢、身長差、目の数、腕の数、すべてがハヌゼベの方が上だが、真っ直ぐに見つめ合い、お互いを対等に意識している。
「アーティファクト……あんたたちの言葉だと『秘宝』だな。それが欲しい。異世界渡りの秘宝なんて物を持っていたりしないか?」
「そのような秘宝は待っていないし、聞いたこともないな。秘宝は別の世界のモノから成り立っているというのは、ある程度想像がついていたが……。『サナギの匣』ではダメか? 我々の発展に必要不可欠な秘宝だが、二つまでなら譲ってもいい」
目当ての物が無いと聞いた小森の顔色を伺い、ハヌゼベは条件を上乗せしてきた。
「いや、あれは確かに面白いがちょっと気味が悪い……。それにめちゃくちゃデカイし重たそうだしな。他にないのか?」
「……では、上の友人に話を通そう。秘宝に関しては彼の方がたくさんコレクションをしている。お目当ての物も見つかるかもしれない」
ハヌゼベは少し躊躇ったあと、新しい提案をした。
「上? 確か、地上に元締めみたいな偉いやつがいるんだったっけか」
「その通り。エルダーと呼ばれる種で、我々ヒトとは違う理で生きて――いや、存在している。不老不死で、臆病で、ごうつくばりな友人だ」
ハヌゼベは無表情というよりも、たくさんの感情を総動員させた結果、プラスマイナスゼロになってしまったかのような表情を浮かべた。
「なんだか因縁がありそうだな……。だが、そこに俺たちの求める物があるのなら、会ってみたい。地上の世界も気になってたしな」
「承知した。すぐにでも、案内しよう」
小森たちは簡単に身支度を整えたあと、ケイヴァを経由して、地上にあるというエルダーの基地を目指した。




