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24話 食感の怪談

 

 三人が面白おかしく過ごしてる間も、嵐は熾烈を極めていた。台風は落雷を伴い、1分間のうちに何十回と街を照らしあげる。


 小森の家は閃光こそ届かないものの、雷の音と地鳴りのような振動はしっかり伝わっていた。


「こりゃ停電も今日中に復旧しないかもなぁ……」

「髪がしける……。」

「ヌーさんふわふわでかわいいです〜っ!」

「んぬぁ〜〜。」


 湿気をたっぷりすいこんだヌーの頭髪は、小休憩のたびにいじられていた。


「……もう始めるから。」

「お、おうっ」


 小森は視線をずらしながら話を聞くことにした。

 ローソク越しに見えてしまう「もこもこ頭」の誘惑から意識をそらすためである。

 どんなに気になっても怪談中に水を差すような真似は絶対にしたくなかった。


「これはボクの実体験。」


 そしてヌーは二人に倣(なら)って語り始める。

 真偽はともかく、こう切り出せば始まるぞという合図なのはよく分かっていた。


 ☆


 まだボクがぬこやってた頃の話。


 その日は雨上がりで空気が透き通ってた。

 ボクはいつものように木漏れ日通りで寝てた。


 困ったことに小森がくれるツナ缶は本当に気まぐれでしか出てこない。

 その日もたくさん粘った。でもすぐに腹ペコに耐えられなくなってきた。だからボクはそこから動くことにしたんだ。


 そのへんの露(つゆ)をなめながら適当に歩く。

 そうしてる内にボクは静かになったセミを見つけた。


 セミは良いよ。

 羽はまずいけど胸のところにおいしいお肉がつまってる。

 ミミズよりもぎゅっとした食感なんだ。


 ボクは嬉しくなってセミをひっくり返した。

 セミはごろんとお腹を上に向けた。

 お腹はなぜか穴が空いててセミは死んでるみたいだった。

 初めて見る死に方だったから不思議だなと思って穴に触ろうとしたんだ。


 そしたら……


 穴の中から小さなウジムシがぞわわわわわわ──


 ☆


「うおおい! グロやめれ!」

「えー。」

「わ、わたしもちょっとその手のは……」


 ヌーは三角形の口をより鋭角にした。


「ぬぅ……。不利だ。」


 ネコの身で味わう恐怖体験などたかが知れている。やれカラスの群れに仕返しされただとか、犬の群れに仕返しされただとか、蜂の群れに仕返しされただとか。

 人間にとって『背筋の凍る』体験とは程遠いものだった。


「まぁ〜でも、ネコ視点の話は中々聞けないからな、ホラーじゃなくてもいいから聞いてみたいよ」

「そうですね! わたしも気になりますっ」

「……しょうがないな。」


 二人から助け舟が出されたヌーは少し機嫌を取り戻す。


「じゃあ趣向をかえまして。」

「おう、今度は最後まで聞いてやるからな」

「グルメの話。」


 小森はしまった、という顔をした。


 ☆


 ボクがまだ木漏れ日通りに住む前のこと。

 ドロ水をすすったりぐちゃぐちゃの何かを舐めたりして日々を過ごしてた頃だ。毎日がぺこぺこだった。

 そんなぺこぺこの日々の中でもごちそうにありつける時があったんだ。

 この話をぺこぺこ体験無しで聞けることを幸せに思ってくれ。


 ある日。

 ボクは林の中を冒険してた。廃駅のあたりにある静かな林ね。

 林はいいよ。バッタがたくさん居る。バッタを食べるカマキリも居る。ということは鳥も目を光らせてる。

 ……まあ鳥はとれたことなかったんだけど。

 とにかく。ここではボクが頂点捕食者だ。虫たちと違って後ろを気にせずに冒険ができた。

 冒険ってようは食べ歩きね。ぬこは食べるのと狩るのが生きがいだから。


 まずいつも始めは小さな生き物から。

 小さいやつ代表のアリは冒険はじめには最適だ。

 探すのに苦労しない。たどればすぐ巣も見つかる。

 難易度はいちばんやさしい。


 味は当たりハズレがあって当たりは甘い。ハズレはすっぱい。噛まなくてもぺろってやればつぶれて風味がでる。一匹ずつだと全然食べ応えがないのが難点かな。

 たくさん食べたい時は一匹見かけたら辛抱強く待つこと。

 それで巣穴にもどったら上からばんばん叩く。叩くとあわてて出てくるやつをぺろっとやる。

 ……効率はいいけど苦くなる。ほとんど土を食べてるようなもの。

 というわけでアリのグルメランクは星ひとつ。


 次にバッタ。けっこう主食。

 葉っぱにまぎれてるのとアリほど数が多くないので難易度は中くらい。でも食べごたえがあるのでコスパは良い。

 食感はざりざり。渋みが強くてクセになるあじわい。みどりの味。

 後ろ足がかたくて飲み込もうとすると喉に引っかかるときがある。

 コスパがいいので星ふたつ。


 カマキリはバッタとりの小さなライバル。

 体格差をものともせずに威嚇してくるにくいやつだよ。

 味はあんまりおいしくない。バッタでいい。

 水辺とか変な動きしてるやつは要注意。中に黒くて硬いニョロニョロがいる。ニョロニョロを一緒に飲み込むとゲロゲロになる。カマも喉に引っかかってさいあく。星はあげられません。


 最後にとっておきのごちそう。

 ねずみっ。

 すばしっこくてよく探さないといない。この中だと難易度は大。物陰で木の実とかかじってるのでカリカリ音をよく聞くこと。

 味はとってもジューシー。噛めば噛むほど命のパワーがにじみ出る。小骨が多いので噛みちぎって小さくする。お腹の中の部分は最高に苦いので基本は食べない。

 たまに逃げずにすり寄ってくる個体がいる。これを食べるとお腹痛くなるわ。熱出るわ。吐き気するわ。……良いことない。ちゃんと逃げるか判断してからとった方がいい。

 危険もあるけど栄養価はばつぐん。狩の楽しさもあわさり星みっつ。


 以上。

 ぬこグルメ林編でした。

 えっと……みんなも寄生虫には気をつけて彼らを食べましょう。


 ☆


「食えるかーッ!」

「ぬぅー。」


 落とし所に困っていたヌーは小森の最速ツッコミに内心感謝していた。


「いや〜……ある意味ホラーでしたね」

「ヌーはこれから美味しいものたくさん食べような」

「ぬこ目線では十分ごちそうなんだけど。」


 そう言いつつ、まるっこどうぶつを口に運び続けるヌーであった。



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