12話 中立天使癒猫
「戦争はじまった……。」
「まあ遅かれ早かれ、こうなる運命だったんだ」
善・悪・中立が三つ巴の混沌とした戦争を繰り広げている。
人数は減るどころか、噂を聞きつけたプレイヤーがどんどん集まってきて戦火は広がるばかり。
「とりあえずパーティを……ってヌーさんかわいい! です!」
あかり君が叫ぶ。
無理もない、ヌーのキャラクターは俺・監修のもとに作った獣人キャラなのだからなッ!
「かわいいかな。 ぬへへ。」
「ファンタジー世界ではど安定のネコミミ族だ。本当はもっと骨格レベルでケモケモしくしたかったのだがな。あとふわふわの毛も有れば尚良かったのだが、このゲームはまだまだ浅いな。せいぜいネコミミくらいしかケモ要素がないのが残念だ」
数秒の沈黙が流れる。
俺、何か変なこと言っちゃいました?
パソコン越しに顔半分をのぞかせたヌーと目が合った。
金色の瞳はたしかに人外っぽさを感じなくもない。
「……スケベ小森。」
「スケベ要素ないよね!?」
むしろ君たちがロリコン扱いしてくるから無害な動物好きをアピールしているわけなのだが。
「まあいい……とにかく、パーティ組むぞパーティ」
「実は何度もパーティ申請を試しているのですが……小森さんだけ送れないみたいなんです」
「ボクはもうあかりと組んでる。」
「なんだって?」
パーティ人数が二人制限という事もないはずだ。あかり君が大型パーティを組んでいたようだし。
と、なるとやっぱり国に関係しているのかもしれない。
善と悪は絶対敵対、中立はどちらかとだけ組めるって感じだろうか。
よし、モノは試しだ。
「二人とも一旦パーティを解散――っておいィ?」
画面が灰色に染まっている。
俺のキャラクター『暗黒卿』は地に伏して動かなくなっていた。
「誰だ俺を殴ったのは! か弱いヒーラーなんだぞ」
「ボクじゃない。」
「私も違います! 突然倒れたんです」
よく見ると、暗黒卿の頭には一本の矢が刺さっていた。すごい。死因わかりやすい。
「流れ弾ならぬ、流れ矢というやつでしょうか」
「おいおい戦場から結構離れてるんだぞ、ここ。あいつら命中率どうなってんだよ……マイナスに振り切れてるんじゃないか」
「ぬー。見事なビギナーズラック。」
「俺はアンラッキーなんだが」
まあみんな初心者だし、こういうもんなんだろうか。
気付いてみれば近くの地面に矢が何本も刺さっている。
「もうちょっと離れたといた方が良さそうだな……」
「でも小森。死んでる。」
「死体回収コマンドが選べるようになりました! やってみますね」
おう頼む、と言い切る前に暗黒卿は棺桶になってあかり君の後ろ側に配置された。あかり君が移動すると、棺桶もずるずると後について行くようだ。
「ぬお。斬新かつ面妖。」
「あー……」
ヌーの感想にどう答えるか困っていると、あかり君が何かを発見したらしく、戦場とは反対方向へ歩き始めた。
「これはこれで操作しなくていいから楽だな。あかり君、何か見つけたのか?」
棺桶状態ではあるものの、視界は一応確保している。ぼんやりとして不鮮明かつ白黒な描画ではあるが。
「あちらに洞窟を発見しましたっ 避難しましょう」
「おおー。やるなあかり。」
阿鼻叫喚の戦場の音が徐々に遠ざかっていった。
そして視界が薄暗くなっていく。
「ここなら流れ矢も飛んできませんね」
「そうだな。しかし俺は死んでしまっているわけだが」
画面中央に家のマークがついたボタンが表示されている。
押せばおそらく初期地点からのやり直しになってしまう。
「ぬーん……。ぬぅ……?」
どうしたものか考えてると、ヌーが杖を取り出して地面を殴り始めた。
「ヌーさんも魔法使いなんですね」
「さっきから何やってるんだ?」
「魔法でなくって……あ──。」
突然、ヌーの杖と俺の棺桶が金色に輝きはじめた。
「おお!? ヌーまさか」
棺桶は金色の炎に焼かれるようにして、空へと舞い上がっていく。
そして全てが炎に包まれたあと、俺のキャラクター『暗黒卿』がその中から再び姿を表した。
「蘇生魔法っ! すごいです」
「ぬふふん。どーよ。」
「やるなぁ! こういうゲームだと大抵は蘇生魔法を使えるようになるのは中盤以降とかなんだが」
「最初からおぼえてたよ。」
チュートリアルで覚えたってことか。
俺は確か……マントに飛び火してる兵士に水をかけたら『ライトヒーリング』を覚えたんだったな。
「ちなみにチュートリアルどんな感じだった?」
「兵隊がドラゴンに燃やされて黒焦げになった。」
「ええ……」
「いそいで水かけた。」
「黒焦げになったあと急ぐなよ……」
「兵隊は元気になってドラゴン殺した。」
「生き返るんかーい!」
あの火が燃え広がって黒焦げになるまで何をしていたんだ……。初心者とはいえなかなかクレイジーな選択だな。
ヌー以外に蘇生魔法取れてるやついなさそう。
「まあ、蘇生サンキューな」
「うぬ。ヒーローだぞ。」
「──あれ? そういえば私達PT組めてますね」
「む、言われてみれば」
さっきまで付いてなかった、『仲間』を指し示すような薄緑色のハイライトがヌーとあかり君に付いている。
死ぬ→棺桶→回収→復活という手順のおかげで善悪混合のパーティが組めたのだろうか。
なんかバグっぽい気もするが……ラッキーということで状況に甘んじよう。
「せっかくだしここのダンジョン攻略しませんかっ!」
「お? こんなところに」
視界が鮮明になってようやく気付いた。
ここ、ダンジョンの入り口だったのか。
「ぐぬぬぅ~。でもこの扉あかない。」
「カギ穴みたいなものもついてないですねぇ……」
「扉になにか書いてあるぞ」
こいつら説明書読まないタイプだな。
「えーっと、『秩序を守る白き番人は戸の左、混沌をもたらす黒き咎人は右、残りし者は好きなところを押せ』と書いてありますね」
「……一応、俺たちで開けられそうだな?」
このタイミングで善と悪と中立がいないと開かない扉か。
……つまり、どう考えても2パーティ以上で挑むダンジョンだよな。
まだ戦闘すらまともにこなしてない俺たちが入って良い場所には到底思えない。
「私、いけます! やばかったら引き返しましょうっ!」
あかり君は迷わずに扉の左側に移動した。まあゲームでビビリまくってもつまらんよな。
ヌーはどうだろうか。
「いこう。小森。」
ヌーもあかり君の後を追うように左側に……。
「ってなんか俺だけ右かよ。ハブられてるみたいで悲しいんだが」
「まあまあ、小森さんは大黒柱ですから……」
「スケこも。」
「略すな!」
しぶしぶ扉の右側に移動する。
左側に二人、右側に俺だけ、と明らかに力の均衡があっていないはずなのに扉は開いていった。
ある程度開けると、紫色の瘴気のようなものが中から吹き出した。
ザ・ラストダンジョンみたいな演出だ。
「よし、各自スキルはセットしたな?」
「はい! いつでも行けます」
「ふっかつは任せろー。」
俺たちは意を決めると、ダンジョンの中へと進んでいった。




