11話 三者三様
「私がいるのは白を基調とした町ですね。ごつごつ鎧のガードNPCが巡回してるみたいです。あとチャットが勢いよく挨拶で流れていきます」
「俺がいるのは黒とか赤が多い町だな。肩にトゲトゲのパッドをつけたNPCが巡回してる。プレイヤーは剥き身の武器を振り回して遊んでる野蛮人ばかりだ」
「ボクのとこは大きな教会がある。ジャンプして遊んでたらみんな集まってきて……。今みんなでジャンプしてる。」
それぞれ初期地点が違うみたいだな。
ずいぶんと特徴的な分かれ方をしてるみたいだが……。
「ちなみに性向は三種類からどれを選んだ? 俺はほら、暗黒卿だから分かってると思うが……」
「もちろん『善』です! あ、でも暗黒卿さまには絶対服従の訳ありの善ですよ。深いですね」
「こまったから中立にした。」
「そうか……。きれいに分かれたな……」
っかー! ただのフレーバーだと思ってたが甘かった。初期地点まで変えてくるなんて。
というか敵対してるまであるぞこれは。
「とりあえず三つの拠点からの中点を合流場所とする」
「その中点へはどうやって行くのでしょう?」
「地図がないからなぁ……各自情報収集すること。恐らく三つ巴の対人戦のある世界だ。つまり、最前線が三国の中点になっている可能性が大きい」
こういうゲームはバランスを慎重視するからな。
戦線も距離的に均等な場所に無いと、国家間の絶妙なバランスがくずれてしまう。
「あっ! 今、チャットでちょうど小森さんと同じ考えの人が出てきました。前線を探すチームを作っているみたいです」
なるほど。プレイヤーは俺たちだけではないからな。
という事はこっちの国も――
武器を持ったプレイヤーたちが走り回っているが、一つの流れができている事に気付いた。
どうやら皆、同じ方角を目指しているらしい。
チャットログは『ヒャッハー』とか『ヌッコロース』とかおよそ知能を感じ取れない言葉たちで埋め尽くされている。……意思疎通は難しそう。
「……俺もそれっぽい流れ見つけた。あかり君もそのチームと行動してみるといい。ヌーは?」
慣れない手付きでキーボードを叩いている。
「ぬぅ〜。一緒についていくから先導してだって……。」
「ヌーがリーダーか、面白いな」
初心者っぽい動きに魅了されてるのかもしれない。ネトゲあるあるだ。それに中立というお国がら、フレンドリーな奴らが集まったんだろう。……主体性が無いとも言えるが。
それから、性向『悪』国の軍団(軍というか山賊のノリだが)は足を止めることもなく前へ前へと進み続けた。
平地を超えて山に入り、明らかにレベルが足りなさそうなモンスターにも率先して殴りかかり、死屍累々を築きながらも後続は絶えず、ひたすら進軍する。
俺は前の方にいると危険なので真ん中くらいを維持しながら進んだ。
落石やドラゴンのブレスで前衛が消し飛び、あっという間に最前列になっていたりするので気を抜けない。
そして、戦場におあつらえ向きな平原に降りた俺たちは進行方向に荘厳な青白い旗を見つけた。
彼らは横一列にぴったりと隊列をつくり、各々の武器を突き立てて、ずっしりと構えている。
「あー、見つけたかも……」
「何やらガラの悪い方たちが一直線に向かってきます!」
活気付いた……というよりいきり立った野郎どもが俺を追い抜いて次から次へと『善』の軍団に突撃していく。作戦も陣形もあったものではない。
「くそっ、巻き込まれる前に合流しないと……」
「私、こっそりパーティから抜けました! 裏切り者ですね……ふふふ」
周囲を見渡すと少し離れたところでぴょんぴょんと飛び跳ねている集団を発見した。
「ヌーの群れだ!」
「それ違う意味になる……。」
「ヌーさんそのまま『中立』の皆さんとぴょんぴょんしていてください! そちらで落ち合いましょう! 閣下もよろしいですね!?」
「うむ! そうと決まればダッシュだー!」
流れ矢にビビりながらも俺は駆けていく。
すると、向こう側……『善』の陣営にも同じ方向へ走っている人影が見えた。あかり君だ。
白い鎧と大きな盾の重厚な装備をしている。やはり前衛戦士タイプなのだろう。
「おお! 閣下は魔法使いですねっ」
「うむ。回復は任せてくれたまえ!」
あかり君がぶんぶんと手を振っている。
この緊迫した状況でモーション操作とは中々の手練れだ。
俺も負けていられない。
走りながらキャラクターシートを開き、適当なモーションを選んでスキルスロットに登録する。この間わずか3秒。
そして発動。
暗黒卿は雄叫びを上げた。
『うおおおおおおオォオォおお!!』と周囲の剣戟の音を吹き飛ばすくらいの声量だ。
「あっやべ」
「ちょっ、小森さん!?」
戦線からやや外れていたとはいえ、暗黒卿のウォークライは『悪』の野郎ども全員に行き届いたらしい。
奴ら戦いの最中だというのにわざわざウォークライをセットして発動し始めた。
『『『ヴァおおおおおおぁぁおあ!!』』』
呼応し伝播していくウォークライ。同時にチャットログは高速で流れ始める。内容はやっぱり何の意味もない『ヌッコロース』なのだが、ウォークライとの相乗効果により、戦場は混沌を極めている。
そして、最初に叫んでしまった者の運命と言わんばかりに、戦火の渦は俺を中心として再集結されようとしていた。
「ぬうー。怖いんだけど。戦場どんどんこっちに移動してきてる。」
「ヌーもぴょんぴょんはもういいから反対側へ走ってくれ! 轢き殺されるぞ!」
「あはははは! なんでっ……こんなことにぃっっ……ひぃひぃ」
あかり君はツボに入ってしまったらしく大声で笑っている。それでもしっかりと操作はしているのがまたエライ。
「ヌー聞いてたか? 早く逃げないとまじで死ぬぞ! 死んだらまた街からやり直しになる!」
「もう逃げてる。」
「なに? じゃあ、あのぴょんぴょんしてる奴らは……」
答えはすぐに分かった。
『中立』のやつらは武器を構えて迎撃の意思表示をしていたからだ。
「クッソ! どこがフレンドリーなんだ……あかり君、突破するぞ」
覚悟を決めて杖を構える。
すると、どういうわけか彼らは道を譲るように道を空けた。
まるで海を真っ二つに割ったモーセにでもなった気分だった。
罠かと思い立ち止まっていると、彼らは次々にチャットで意思を伝達してきた。
『我々はうさぎちゃん親衛隊!』
『暗黒卿と日輪の花嫁あかりはうさぎちゃんのご友人!』
『ここは我々に任せて行ってください!』
『うさぎちゃんのツイ垢教えてください!』
一瞬誰のことかと思ったが、よく考えなくともヌーのことを言っていると分かった。
「サンキューうさぎちゃん! 助かったぜ」
「ぬぅ……。ぬこなのに。」
「あはは、ぴょんぴょんしてたから気に入られてしまったんですね」
駆け抜けざまにウォークライで礼をすると、向こうもノータイムで返礼を送ってくれた。
それから俺たちがヌーと合流するのと、背後で三国大戦争が始まるのは、ほぼ同じタイミングだった。




