10話 小森の世界
自分の分身となるキャラクターが画面の向こう側に現れる。
今いる場所は白い部屋。まわりには剣や槍などの武器が浮かんでいる。
なるほど、キャラクター作成時に職業などを選ぶ項目が無かったことを考えると、ここで選ばされるということか。
特にメッセージも出てこない。だがこれ以上ないくらい直感で理解出来るようになっている。素敵な設計だ。
「すごい。本当に別の世界にいるみたい。」
視界の端ではヌーが歳相応にはしゃいでいる。
VRモノなんかやらせたらもっと面白い反応が見れそうだな。
今度買ってあげよう。
様々な武器が浮かんでいる白い部屋に再び意識を集中する。
どんな武器を使うかを指定するのも野暮だし、彼女らに任せるとしよう。
ただなんとなくあかり君のエモノは想像がつく。包丁を使うときになんとかソードって言ってたから、十中八九、剣だろう。
光属性の厨二病だし、真っ直ぐ熱血な主人公タイプのロールを選ぶに違いない。
それなら俺はヒーラーでもやろうかな。
広い部屋をぐるりと見回してみる。剣を中心に浮かんでいる武器は高さもまばらで、多種多様な武器が見て取れる。
斧や槍、杖などのメジャーな武器ほど剣から近くて、ヌンチャクやトンファー、ガントレットみたいなマイナー武器ほど離れたところに配置されていた。
しかし武器に近づいたり触れたりしても、全く情報が出てこない。不親切というか、やっぱり直感を大事にしているんだろうとは思うけど、やりたいロールにあった武器くらい教えてくれてもいいのに。ヒーラーは何を持てばいいんだ。
杖・メイス・笛の三種類をぐるぐる行ったり来たりして、結局、俺は杖を選ぶことにした。
キャラクターネームが『暗黒卿』なのだ。笛なんか吹いていられない。
「皆さん、武器は何にしましたかっ?」
「それはゲーム内で集合するまでのお楽しみといこうじゃないか」
「ぬふー。いいね。」
なんだか二人のテンションが上がっている。正直、俺の趣味に一方的に付き合わせるつもりだったんだが、楽しんでくれるなら俺はこの上なく幸せだ。
なんか感動してきたな。仲間が近くにいるってこんなに幸せなことだったのか。
まあ、一緒にネトゲをプレイするタイミングでこんな気持ちになる俺も陰キャ極まってると言わざるを得ないが。
それでも、この二人は俺に温かいものを送り届けてくれる。
一番余計だと思ってた新型パソコンの買い物が、一番かけがえのないものを俺にくれたというわけだ。サンキュー社長。
にじむ画面に、再び意識を集中する。
武器を選び、暗転したあと、今度は野原のようなフィールドに出ていた。
身体中が傷だらけで今にも倒れそうな兵士が、巨大なドラゴンと戦っている。
どうしたものか。
まだチュートリアルだとは思うが……。
考えていると、ドラゴンが火炎のブレスを吐き出した。
兵士はすんでのところで避けたが、マントに飛び火してしまっている。
そして俺の足元に都合よく現れたアイテムたち。
水の入ったバケツ。爆弾。謎の肉。トラバサミ。メガホン……などなど。
心理テストみたいなものだろうか。予想だとこれで得意なスキルが決まってくるのだろうと思う。
俺はすぐさまヒーラーらしい選択をした。
水をかけて火だるまになりそうな兵士を助けてやったのだ。
すると元気になった兵士が一撃でドラゴンを葬ってしまった。
兵士がぺこり、と一礼するとまた画面が暗転していく。
暗い画面の大きな金色の文字で『ライトヒーリング 取得』と出ていた。なんだかチープな演出だ。
一応、ヒーラーとしての選択は正解だったみたいで良かった。
「ドラゴンやっつけたかー?」
「はい! 兵士さん強かったです」
「死ぬかとおもった。」
ヌーの感想に違和感を覚えるが、とりあえず今は聞かないでおこう。
もっともっとゲームに集中してほしい。
異世界はここにもあるんだぞってな。
チュートリアルが終わったらしく、プレイヤーでごった返す街の中に転送された。
他のプレイヤーはみんな思い思いの武器を持って走り回っている。危ないから納刀してくれ。
「さて、合流したいわけだが……」
「地図はどこでしょう?」
「とりあえず走り回ってる。ぬふー。たのしー。」
インターフェースがスッキリしすぎている。
スキルスロット、アイテムスロット、キャラクターシート、チャットウィンドウの4つくらいしか存在しない。
「なんだか不思議なゲームですねぇ」
「手探り感を大事にしているらしい。前情報もほとんど何も出なかったからな」
「ぬぅ~。ジャンプどうやるの?」
「それはスペースキーだな」
「ぬぅ……ほっ。できた。ほっ。 たのしっ。」
ジャンプするだけでこんな喜ぶやつが存在するんだな。
純粋なんだか小悪魔なんだか……よくわからんやつめ。
それはそうと、地図も無しにどうやって合流すればいいんだ……?




