98 船旅とアイスコーヒー
マコト&ソフィーは、エチオーピアの高原から一気に海岸に降った。
約1000キロを6日間。走ったり、パラグライダーで空を移動したり。
コーヒー豆を手に入れた。獣人混じりのソフィーでは生粋の獣人と一緒に住めないことも理解した。
「逆に吹っ切れた。マコトと一緒に住める場所を作ることに集中しよう」
「一緒に気分よく暮らせる場所だね」
海岸線にたどり着いた海洋都市のジプチ。ここから定期航路を使い、オースメン帝国に行く。
サバンナではライオン、ゾウ、キリンなど野生動物も見たし道中も楽しめた。
そしてコーヒー豆らしき物も作った。
赤いコーヒーの実をプレハブ小屋の風呂場乾燥機で乾かし、ソフィーと一緒に皮を剥いた。
白い果実部分を取り出すと、形は見覚えがあるコーヒー豆。それを干してから炒って黒くしてコーヒー豆にした。
豆をひく道具はない。布袋に入れて鉄の玉でつぶし、コーヒー豆らしき物にしてみた。
まだ飲んでいない。
現在は定期便の乗船券を買って、他の客と準備中の船の前にいる。
コーヒー豆を出してふたりで見ている。
「香りはいいな。マコト、これはどこで飲ませてくれるんだ」
「船が出発したらコーヒーを淹れるよ。試作品だから味の予想ができないけどね」
「水は聖水だろ。いずれにせよ、マコトの作る物だから楽しみにしてるぞ」
「あはは」
船は最近になって多く取り入れられるようになった帆船。今回は30キロほど移動する。出航から目的地への接岸まで3時間くらいかかる予定。
乗客は商人が中心。勢力が大きいオースメン帝国は東ナーロッパ諸国と紛争中の大国。都市も多いし物資はいくらでも売れる。
大荷物を持った駆け出しの商人3人組がマコトにもしきりに話しかけてくる。
なにせ服装がキレイで背負うリュックも上質。ソフィーは同じリュックを背負ってナイフを腰に下げて強者のオーラを纏っている。
商人と護衛と思われている。
「え、ふたりは恋人同士なの?」
「ですよ。一緒に色んな物を探す旅を続けてるんです」
「へえ…」
「そもそもマコトの方が私より強い。護衛にならんぞ」
「そうなんだ…」
乗船を待つ波止場が暑かったから、キンキンに冷えた聖水入りレモン水を自分達と商人の分を出した。
「おおっ、空間魔法使いか」
「それよか、この水うめえ」
「冷えてる~」
そうこうしているうちに船に乗った。
◆
話をしてみると、彼らは一念発起したけどナーロッパの身分に当てはめると平民。
資金はかつかつだけど楽しくて邪気がない。エコバッグを見せた。
「マコト君。本当にこの布のバッグ、こんなに安く譲ってくれるのか」
「ぱっとみて、貴族にだって売れそうだぞ」
「このクマ紋とかいう精巧で可愛い動物の図柄、裕福層の女性が飛び付きそうだ」
エチオーピア高原の村でも喜ばれたクマ紋エコバッグ。幾らで買ったか忘れたマコトだけど、300ゴールドで200枚を売ってあげた。
砂糖や胡椒は売りさばけたら利益が大きいけど、ビニール袋やガラス瓶がまずい。
スライム錬金の完成形はオースマン帝国でも欲しがっていて、駆け出し商人が持っていたら理不尽に拘束されるのが目に見えている。
隠しておけと言ってジッパー付きビニール袋に移した黒胡椒を2キロずつ、プレゼントした。
ソフィーと彼らが話している間に、カップ、保存していた熱湯、その他の道具を出してマコトは飲み物の準備。
シャツの生地を3枚重ねてフィルターを作り、コーヒーの粉を包んだ。少しずつ熱湯をたらしてコーヒーを抽出している。
もちろんシャツ生地は新品から作った。
「ん~、とにかく香りがいいんだよな~」
高ランクの聖水効果もあって、独特の香ばしいかおりがふんわりと広がった。
その頃にはソフィーも商人3人もマコトの手元を見ている。
小さな木のカップに100ccほど入れて、みんなに分けた。
ただしコーヒーは初見の人間にはきつい。そしてマコト作の初回版はかなり濃くなった。
「にがっ…」
さすがのソフィーも顔がくしゃりとなった。
商人2人も目がしぱしばしている。
マコトは笑いながら自分のコーヒーを飲んだ。
苦みが強いけど、豆が新鮮だからかほのかに酸味と甘みも感じる。
「…ふ~。失敗作だろうけど、聖水がいいとこばっか引き出してくれる? 感じかな」
「マコトは美味しそうだな…」
「これって慣れが必要なんだと思うよ。そうだ、ソフィーも美味しく飲めるようにするよ」
ソフィーの目がピコンと開いた。
マコトコーヒーはエスプレッソ。大きめのカップに移して牛乳と砂糖少々を加えて氷を入れた。
氷はプレハブ内冷凍庫で聖水を使って作っていた。
「さ、ソフィー、アイスミルクコーヒーだよ」
ソフィーは恐る恐る口にした。
ミルクの甘みと、そこに混じる香りと苦み。最初のえぐさがなくなり、すんなり喉に入ってきた。
「……! うまい」
商人3人にも渡した。ついでもつまみに、ソフィー作の改良ほっとケーキとジャム。
「おおっ」「ミルクだけ飲むよりスッキリだ」
そうやってワイワイとやっていると、他の乗客がやってきた。
「そ、それはなんだい」
「豆を煮だして作った飲み物です」
「ほほ~、豆茶のようなものか」
「いい香りだな~」
ということで、試飲会が始まった。
好評だったのはミルク入りアイスコーヒー。氷で薄くなればブラックでも美味しいという人もいた。
ソフィーは自分の収納腕輪からおつまみを出して振る舞っていた。話も色々と弾んだ。
「ソフィーといると何でも楽しくなるよな」
「ん?なにか言ったか」
質問には答えず、笑顔でソフィーを見ている。




