95 キャラバン隊とトマトソーススパゲッティ
ソフィーのルーツと思える猫獣人の集落に行ったが到底、受け入れてもらえるムードでもなかった。
マコト&ソフィーの中にあった最終的な定住地候補から、獣人のエリアは外れた。
けれどソフィーは落ち込まない。
すでに、イタリアン南部で男爵になったマルゲーリが領地で歓迎してくれると言うし、帰ってもいい場所はある。
何よりも、そういう自分の事情を踏まえて大切にしてくれるマコトがいる。
「マコト」
「ん?」
「獣人と仲良くなれなくても、アンタがいてくれて幸せだぞ。決して強がりではない」
「…うん」
獣人の村を出て数時間後の夕暮れ時、ナイラ川沿いの簡易な野営地の真ん中でテーブルを出して2人でビールを飲んでいる。
「俺も。ソフィーと出会ってから旅がすごく楽しくなったよ」
「ははは」
◆
地平線に日が沈み始めた頃、マコト達が向かう南側から20人ほどのキャラバン隊が野営地に向かって進んできた。
ただ、焦っている感じでジグザグに蛇行して走っている。何かから逃げている感じだ。
よく見ると2トンもあるカバに追われていた。恐らく縄張りに入ってしまったのだろう。
ラクダに乗ったキャラバン隊の先頭の人がマコトに気付いた。
「逃げてくれ! カバが追いかけてきてるんだ」
悪人と善人が1体1の世界だけど、善人寄りだと判断した。
ふたりで最後尾の人とカバの間に入って食い止めることにした。
2トンのカバが時速30キロで走ってくる。殴って止められるかもだけど、そこで危険な賭けに出る気もない。
カバの対応はソフィーに任せた。加減が下手なマコトだと、カバに大けがをさせてしまう。
ソフィーはミスリルホイルに魔力を流してカーブを作り、直進しかできないカバの左半身に当てた。
「ふんっ」。そうして強引にカバの進路を曲げてナイラ川の方に誘導した。
どっぼーんと、巨大な水しぶきを上げてカバはナイラ川に落ちた。ここは別の個体の縄張り。怒られて、慌てて自分の縄張りに引き返していった。
◆
「ありがとうございます。助かりました」
サファテという商人がキャラバン隊の隊長で、マコトが向かうエチオーピアを巡ってエジンプトに帰るところだった。
彼らは野営の準備を始めた。助けてくれた礼に、干し肉などの保存食だけど食べていってくれと言われた。
なので善意には善意で。保存食ばかりで過ごしてきたという彼らに、新しい料理を振る舞うことにした。
マコトのマイキッチンはすでに出してある。
まずホカイロの街で作っていたトマトソースに小さく切った豚の燻製肉を混ぜた。今回は胡椒も入れた。
麺はソフィーに5ミリで切ってもらった複製生パスタを大量に出して軽くゆでた。
麺とトマトソースを混ぜて葉物野菜も絡めた。
続いて角切りにしたモッツレラチーズを投入して完成。
「さあ、マコトが考えた麺料理だ」
「遠慮しないでどうぞ~」
「初めて見る料理だぞ」
「麺って何だ?」
「トマトって、あの観葉植物か」
「けれど、すごくいい匂いがするぞ」
商隊長のサファテが思い切って口に入れた。そこから手が止まらず、次から次にフォークで口の中に麺を運び出した。
「どうですかサファテさん」
「うまい!」
みんな続いた。
ソフィーも気に入ったようで、ちゅるちゅると美味しそうに食べている。
「食感がいい~」
商隊の人間は10日ぶりのフレッシュな肉や野菜。あっという間に40人分の麺がなくなった。
「追加で、ピザって料理も作りますよ」
「おおっ」「いいんですか」「こんなウマイもんが、また出るのか」
続いて改良したピザ。トッピングは新鮮な牛、豚、エビ、イカををたっぷり乗せた。
異世界には宗教による食べ物の禁忌はなかった。
マコトの大判振る舞いで最後はビール。みんな酒が好きだそうだ。
かなり盛り上がって楽しめた。
有益な情報も手に入った。初めてコーヒー豆の存在を知っている人と会えた。
名前はコーヒーではないし煎った豆でもない。というかまだ正式名称すらない。
「ああそれは、きっと低木に実る小粒の赤黒豆だ」
「そうです。確かに未処理だとそんな色でした」
エチオーピアの高原地帯を交易で通ったとき、立ち寄った村で商隊のメンバーも何人かかじったとか。
「売ってたんですか?」
「いいや、羊飼いが放牧地の近くで元気がないゴブリンを見つけたとき、その実を食べてたそうだ」
「へえ…」
「それでね、食べたゴブリンが興奮し始めて、無謀にも武器を持った数人の羊飼い素手で挑んできたそうだ」
羊飼いはゴブリンを返り討ちにしたあと、実をつまんでみた。
苦いけど頭がスッキリ。その村では気付け薬に使い始めている。
異世界ならではのエピソードだと思うマコトだ。
「…マコト、その赤黒豆って」
「恐らくコーヒーだね」
「手掛かりが見つかったな」
「ソフィーと一緒に人助けすると、何か情報が帰ってきたりするよね」
「あはは。またも偶然だな」
ここから30キロ南の地点でナイラ川が大きく2つに分かれる。そこを東側、進行方向に沿うなら左側に進む。そこから200キロほどの村だそうだ。
「ところでカバから助けてもらった礼だが…」
「いや、コーヒーの情報で十分です。そのために、この大陸に渡ってきたんです」
「そうそう。アンタのお陰でエチオーピアを闇雲に探さなくてよくなった」
逆に情報料として、胡椒、ギョニクソーセージ、砂糖を渡された。
商隊のみんなは驚くが、納得もした。
普通なら権力者が武力をちらつかせて囲ってしまうほどの人材だ。
だけど、それを退ける力がある。
黒髪男子は大容量と思える空間魔法を持っていて、砂漠でキンキンに冷えた洗練されたエールを出してくれた。
スキルの性能が破格であることは間違いない。
相棒の女子の方は、薄い布の魔道具だけを使って2トンのカバを怪我させず退けた。
双方がDランク冒険者らしいがたまに漏れ出す魔力が尋常ではない。中身はハイレベルの怪物だろう。
商隊に引き込みたい本音を隠し、次の朝に別れた。




