94 魔力解放とバイバイキン
マコト&ソフィーは猫獣人の子供をシロサイから助けたけど、子供を探しに来た大人10人に誘拐犯と誤解された。
猫獣人は人間族を警戒している。
囲まれて何人か武器を向けてくるけど余裕。マコトがソフィーの手を握って、いつでもプレハブ避難できる準備はしている。
「お前ら何者だ。村の子供達に何をしようとした」
ソフィーは素直に答えた。マコトにも緊張感はない。
「うんとな…。私のパートナーがシロサイを転ばせて、2人を助けた。ついでに一緒に朝飯を食ってたな」
「そうだよね」
「は? ネネ、本当か」
「お兄ちゃん、武器を下げて。この人たち猛獣より強いよ。男の人はシロサイを片手で止めたんだから」
「なに?」
「そんな訳ないだろ!」
「そっちの黒髪のやつなんていかにも弱そうだろ」
マコトは笑っている。ソフィーはマコトをけなされ、むっとしている。そして思いついた。
「マコト」
「なに?」
「ほら、このミスリルホイルに魔力を強めに込めてくれ」
「?」
よく分からないが、マコトは言われた通りにした。ミスリルホイルが一瞬で垂直30メートルに伸び上がるほど魔力を流した。
ぼっ、と音がした。基礎ステータスが高いレベル96のマコトから、強い魔力が一気に漏れた。魔力操作も下手だから周囲に漏れている。
レベル95のソフィーでさえ背中がぞわぞわした。囲んだ獣人はレベル25~38と推測している。
「あわわわ」
「うわ………」
何人か尻餅をついた。マコトが力を戦闘に生かす気がないけど、猛獣以上のパワーと魔道士以上の魔力を兼ね備えている。ソフィーはその片鱗を獣人に見せた。
強さに敏感な獣人は軒並み尻尾の毛が逆立った。
ただソフィーは失敗した。得意顔で相手を見渡していると、子供獣人がマコトの気に当てられて倒れそうになっている。
「すまんマコト解除だ!」
「あ、やば」
◆
強制的に頭を冷やさせた獣人に、なぜ子供ふたりが危ないところで歩いていたか聞いた。
ネネの姉のために、薬草を取りに行くところだった。5日前にハイエナに太ももを噛まれて傷口が化膿しているという。
すぐさま、ソフィーがネネを抱えて動き出した。
マコトも並走した。
「マコト、どう思う」
「化膿しっぱなしなら破傷風の可能性が高い。急ごう」
「姉ちゃんを助けてくれるの?」
「何かの縁だし、多分大丈夫だと思うよ」
「道案内を頼む。安心しろ。マコトは薬を作れる錬金術師だ」
こういう場面では、まったく迷わなくなったふたりだ。
獣人の若者も付いてきているが驚愕している。
みんなスピードが命の猫獣人。なのに交代で10歳の子供を抱え、喋りながら走る2人を見失わないように付いて行くのがやっと。
7キロほど走って、茨を巻いた木の杭、岩山の地形を利用して建物を囲った村に到着した。
門番が槍を構えたけれど、マコトが空間収納に収納。
戸惑う門番の横を通り抜けたあと、足元に槍を返してあげた。
「どの家だ」
「あそこの右側の家」
家に飛び込むと、顔色が変色した猫獣人がうめいていた。
家族らしき人達も悲痛な面持ちだ。ふたりは家族を押しのけて患者に到達した。
「俺が傷口の手当てする。ソフィーはポーションとペニシリン飲ませて!」
「分かった」
マコトはカッターナイフを出し、勝手に太ももに巻かれた包帯を切断。剥き出しになった女の子の傷口に聖水をかけた。
ソフィーはペニシリンを口に含ませて、エクスポーションで喉に流し込んだ。
すると10秒後、惨事に見える現象が起きた。
「いぎいいぃぃ!」
恐らくバイキンの毒が全身に回っていた。それをファンタジー治療&日本化学のコラボで、強引に追い出した。
じゅばあああーー、と激しい音と煙。泣き叫ぶ獣人娘。
ランク4ダンジョンのゾンビに聖水をかけたときと同じように、煙が噴き上がった。
ギリギリだった分、かなりの荒療治となってしまった。
「娘に何をしたあ!」
お父さんが短剣を抜いて怒るのも正しい。
それは家族愛だ。
「私を刺してもいいが、あと少しだけ見ててくれ」
すると皆が驚く現象。患者獣人の目や口から悪臭がするドロドロの液体が垂れだした。
代わりに目の奥から濁りが取れて、光と意思が宿りだした。
ソフィーは汚れた液体が腕や服に付くのも構わず、獣人女子の頭を横抱きにした。優しい声で言った。
「もう大丈夫だ。あとこれだけ飲め。腹が痛くなるかもしれんが、治るからな」
「あ、あ、あなたは…」
少しすると、獣人女子は眠ってしまった。
「…よかった」
とソフィーは言ったが、マコトの意識は家の外に向いている。警戒度マックスだ。
家の周りに濃密な気配がある。緊急とはいえ村の門番を振り切って、村の中を走ってきた。
戦う選択肢はないし、助けた娘さんの父親は「誤解を解いてくる。必ずあとで礼はする」と外に出ていった。
マコトは考えた。もしかしたら、村はソフィーと縁がある人がいるかもしれない。
誤解を解いて話してみるべきかと思った。
「…マコト、去ろう」
「けど、ここにソフィーの本当にお母さんの手がかりがあるかもしれないよ」
「住人のみんなを見て、もし肉親がいたとしても私の居場所がないことは分かった」
「いいの?」
マコトはこう言うが、実際に獣人を見て理解した。
人間族しかいない地球で育ったマコト。もしも他種族がいても、少しくらい見た目が違っても受け入れられるのでは、と期待していた。
確かに言葉は通じる。交易相手や知り合いになれる。けれど家族になるには何か根本的なものに違いがありすぎる。
「受け入れる」の区分けがマコトの中に出来上がった。
そして外から聞こえる喧噪では、ミミの姉を助けたプラスがあっても敵として認識されている。
『ヤツらは奴隷狩りの手先だろう。食い物を貰って騙された集落もあるじゃないか』の声も聞こえる。
人間族と獣人族が遭遇すれば、奴隷になるか返り討ちで殺すかの二択のようだ。
ソフィーを守るためにも『自分達だけは受け入れられる』などという、おとぎ話は考えるべきではない。
「ミミちゃん、お姉さんは大丈夫だろうし、俺達はもう行くよ」
「じゃあな。また会えたら一緒にメシを食ってくれ」
ふたり手を繋いで、プレハブ避難しようとした。
「あ…えと…、そうだ。助けてもらってありがとうございました。ご飯も美味しかったです!」
「うん、その言葉で十分だ」
「じゃあね」
ふたりは、そのまま消えた。




