92 練乳アイスとダイスキ
マコト&ソフィーは、勢いからスラムで病気の人を治療しまくった。
マコトの錬金術で作ったと言った、聖なる小籠包の中身はエクスポーション。
寿命以外の不調なら大概は治せる。気付けば150人くらい元気にしてしまった。
聖なる小籠包を渡すとき、欲深い目をしている人間も5人ほど見かけた。有力者に売り込む可能性は大きい。
だけどソフィーは言った。「余計な人間の手にも渡る代わりに、薬が必要な人には全員に行き渡るだろ」
「だね」マコトは笑えた。
王族や大きな家門の人間が高圧的に接触してくるだろうから、早めに逃げるだけ。
イアフ親子には実験台になってもらった対価だと言って、大量の食べ物とナイフ、防具を置いて来た。
◆◆
孤児院に別れの挨拶をしたあとに、試したいことがある。
言語理解の指輪が複製できるかどうかだ。
ソフィーに必要だ。
エンジンプトは現地語とナーロッパ共通語を両方使える人が普通。けれど、この国を出ると言語圏が変わる。
マコトは高ランクの死霊系魔物を倒して得た宝石がある。
言語理解の指輪はベースの金属部分が銀色と金色。細かな紋様が掘られ、紋様の間に小さな宝石がちりばめられている。
不思議な赤黒い宝石なのだが、今回リッチから手に入れた杖に埋め込まれた宝石と同じ色なのだ。
その前に孤児院でお菓子でも振る舞う。
孤児院に行くとシスター、子供に歓迎された。子供からシスターにスラムで病気治療をしたことが伝わっていた。
「そういう訳で、横暴な有力者がここに来る前に去ります」
「何もお礼ができませんが、事情が事情ですね。色々とありがとうございました。あなた方に祝福があらんことを」
まだ午後の時間帯。お別れの前にマコトがアイスを作ることにした。
プレハブ内の冷凍庫で鉄鍋をキンキンに冷やしていた。それを氷を敷き詰めた大鍋に埋めた。
子供たちが興味津々だ。鉄鍋に練乳を入れた。練乳はあらかじめ、牛乳と砂糖を混ぜて作っていた。
練乳に聖水を少し垂らし、キンキンの鍋に入れて木べらで混ぜた。
するとだんだんと練乳が固まり出した。木べらが重くなったところでカップに入れて子供達に渡した。
「よし、みんな舐めてみろ」
ぺろんとした子供達の目が大きく開いた。
「甘い」「冷たい」「美味しい」
冷凍したあと砕いたブドウ、オレンジ、イチゴ、イチジク、そして各種ジャムを並べた。
「トッピングもあるし、お代わりもあるよ~」
シスター、マコト、ソフィーの大人3人は練乳アイスに辛口の白ワインをかけてトッピング。
「ん~~。マコトが作ってくれたお菓子も抜群だな~」
「聖水の隠し味が利いてるね」
「あはは。本当に贅沢だ」
シスターも笑顔だ。
「ああ~~、おいしい~、なんて私は罰当たりなのでしょうか」
と言いながらお代わりをした。ソフィーが母と慕うシスターアンジェラはエール好き。異世界のシスターは戒律も緩いようだ。
しばらく談笑したあと、色々な物資を収納腕輪に入れて寄付として置いてきた。
◆
街を出る前に、呪い魔法からお姉さんを救ってあげたトロイ商会に立ち寄った。
食材探しがメインの旅を続けていると言ってあったから、商会で用意できる物が一通り揃えてあった。
酒もワイン、ボザ、アラックと、マコトの知っているもの、知らないものがあった。
その後も堂々と通りを歩いた。
ソフィーと話し、孤児院に王族などの捜査の手が入らないようにするためだ。
王族、商人、貴族的な誰かの手下の尾行が増えたとき、街につむじ風が吹いて砂が舞った。
マコト&ソフィーは手を繋いでプレハブ避難。
多くの人の目がある場所で、砂と共に消えた。
◆◆
街を出たところで早速実験。言語理解のマコトを複製のかなめ冷蔵庫に入れた。
すると狙った通りの結果。
『言語理解の指輪、複製しますか』
魔金、ミスリル銀、アダマンタイト、ダークエメラルド、ダークダイヤ、ダークターコイズが原料だった。
迷わず複製セット。
ソフィーに言語理解の指輪はすごい物だと言われていたが、確かに素材が簡単に手に入りそうにない。
そして思いついた。「プレハブ小屋と言語理解の指輪をくれた康介叔父さんって、自分で素材を集めたんだよな。賢者というより、超人だったのでは…」
これから8時間、言語理解の指輪はない。
「ゴハン、ツクルカ、マコト」
ソフィーは日本語の単語をかなり覚えている。日本食に関するニュアンスをつかみたい。そして何も介さない本当のマコトと会話したいから。
ちなみに最初に覚えたのは『ビール、イチバンノシボリ』
何か違うと思う。
「∉∋♯」マコトもナーロッパ共通語で、オッケーと言った。
今日は聖水にダシを入れて、刺し身のしゃぶしゃぶ。
ぎこちない会話をしながら、時に笑い合って、やがて夜になった。
プレハブ小屋から出て、誰もいない砂丘のてっぺんで夜を楽しんでいる。
丸い月が出ている。
マコトは日本語で「砂漠で微笑む月」という日本の歌を歌った。
ソフィーもナーロッパ共通語で、「流浪の月」という旅人の歌を歌った。
歌い終わると笑顔でマコトにキスして、日本語で言った。
「ダイ、スキ」
「∉∋∉⊄」
「ウン。ワタシモ、シアワセダ」
2人は静かな月に照らされながら抱き合った。




