91 聖なる小籠包と被検体
マコトの判断で、アークアメンダンジョンの探索は終わりにした。
エクスポーションを手に入れた階層は不明だけど、恐らく想定で全80階の71~79階のどこかまで潜っている。
もしかしたらダンジョンボス部屋は近かったかもしれない。
けれど死霊系のダンジョンボスクラスになると闇魔法の最高峰・即死魔法を持っている可能性が高い。
死霊ダンジョンのランク4は、アジアンのチョモラマンダンジョンだけにクリア記録がある。
聖魔法を使える僧侶40人規模で10年をかけてクリアしたが、最後にボス戦で即死魔法により25人が犠牲になったとか。
そんな怖い相手に立ち向かう必要もない。
最初の目的より上のエクスポーションも手に入ったし、ここで無理はしない。
ランク4ダンジョンでクリアを狙うなら、インディア地方にあるという食肉ばかりのダンジョンがいい。
「あはは、マコトらしいな」
「最後に手に入った聖水は増やせるから、消毒で困ることないでしょ」
「そうだな。冒険者として有名になりたい訳でもないしな」
ふたりで笑っていると、ソフィーの腹がぐ~となった。
マコトの腹も鳴った。
「あはは。安心したらお腹すいたね」
「高ランクの死霊を見た緊張から解放されたら腹が減ってきたな」
「じゃあ、久しぶりにランク1ダンジョンの前で料理でもしてみようか」
10キロくらい距離はあるが、今のふたりなら楽に走れた。
◆
孤児院の子供達も入ると言っていた、ナセルダンジョン前に来た。
すると大変なことが起こったあとだった。
人だかりができている。
「うぐぐ…」
「イアフ大丈夫か。くそ、薬草じゃだめか」
初めて見るイアフという14歳男子が腕を押さえて苦しんでいた。
古くからエジンプトで食べられてきた鳩とウサギのダンジョン。
13~14歳の孤児院と貧民街の子供8人で10階ボスに挑んだ。勝ったけれど貧民街の子がフロアボスの70センチ鳩に高速アタックを食らった。
左手の甲が大きくえぐれて中指も先端がない。出血もすごい。
「おい、そいつの傷をみせてみろ」
「あ、ソフィーお姉ちゃん」
ソフィーがためらわず、オリーブオイル瓶入りエクスポーションを出した。マコトも止めたりはしない。
イアフ君は涙目だ。
「ああ…。母ちゃんや妹の薬代や飯代稼がないといけないのに」
ばしゃっと、胡椒瓶に入れたエクスポーション200ccほどかけた。
すると、ほのかに傷が光った。
うにうにと、血管が伸びて肉が盛り上がってきた。
「うぐあぁぁ!」
マコトはポーションが効いたと確信したけど、治り方が生々しい。そして痛覚はしっかり生きているようだ。
再生する血管や神経が空気にさらされて、転げ回りそうになるイアフ君をソフィーが押さえた。
「そ、その現象は?」
駆け付けてきた大人が聞いてきた。
しかしソフィーは質問には答えなかった。あとは手の甲の薄皮が再生するだけとなったイアフに尋ねた。
「イアフといったな。なぜ母と妹のために稼がねばならん」
「え、えと…」
代わりにイアフの友人が答えた。父親が亡くなり母親が無理をして働きすぎて胸を押さえて倒れた。
栄養があるものと回復ポーションで治ると町医者には言われても、回復ポーションは高い。
マコトがイアフに言った。
「俺は旅の錬金術師で薬みたいな物も作ってる。治る保証はないけど、それでいいなら無料であげるよ」
「私のパートナーがこう言っている。ほら、お前の家に案内しろ」
「け、けど今治してもらった治療代も払えないし、うちにお金は…」
ソフィーが、イアフが腰から下げている30センチの鳩を見ながら言った。
「私達はちょうど鳩が食いたかったんだ。うまくいったら治療代にそれをくれ」
◆◆
イアフの母親は朝から咳が止まらなかったというし、急いで家に案内させた。
「俺の家はあそこ」
石壁の粗末な家が建ち並ぶ一角。そのひとつの中から女の子の声が聞こえてきた。家には近所の人も来ていた。
「お母さん!」
「…ごほっ、だいじょ、ごほっ、ごほ、うぐ…」
マコト&ソフィーは家に飛び込んだ。母親に何か説明しようかと考えていたが、それどころではなかった。
「マコト!」
「ああ、急ごう」
ソフィーが母親の体を起こして口を開かせ、聖なる小篭包を出した。
聖なる小篭包。小麦粉に砂糖少々を混ぜた薄皮に、砂糖入りエクスポーションを入れて熱を加えたマコトの力作である。
母親に小篭包をくわえさせると、端を噛ませた、ぶちゅっと中身を口に押し込んだ。
「あ…、あ、甘い、おいしい」
すると母親の体から大量の汗が噴き出したように、煙が上がった。
近所の人と子供が見守る中、みるみるうちに土気色だった頬に赤みがさした。
100ccで千切れた腕がつながるというエクスポーション。過労からくる肺病も深刻だが、そのレベルなら50ccで完治するようだ。
マコト&ソフィーは、親子の治療で効果が分かった。むしろ被検体にしたから対価はもらったようなものと思っている。
「ゆっくり深呼吸してくれ」
「すー、はー、あ、胸の苦しさが…」
「母ちゃん、錬金術師の人が、そのまんじゅうをくれたんだ」
「…え」
どんな薬を使ってもらったか分からないが、薬の値段を考えて母親は再び青い顔になった。
ソフィーは色々と詮索させない。
「礼も何もいらん。彼は錬金術師だ。彼が作った小篭包の被検体になってくれる人を探していたところだ」
「え、けれどこれは…」
「効かなかった時も文句を言わせるつもりはなかった。効果があったのはラッキーだと思ってくれ」
「そうです。気にしないで下さい」
マコトは、ソフィーに同調して笑顔になっている。
被検体という言葉を出したから、子供が病気で寝ているという女の人に小篭包をもらえるのか聞かれた。
その流れから、スラムに住むほとんどの人に聖なる小篭包を渡す流れになった。
足りないから、どんどん露天で作った。
「マコトすまんな、勝手に動いて」
「いいよ。聖なる液体の中では、エクスポーションを取りに行くのが一番簡単だし」
「あはは、デタラメだけど、ありがとう」
ぐーと、再びソフィーの腹がなった。
そのまま、普通の料理も作って食べたい人に振る舞った。
値段は付けられないが、アークアメンダンジョンでエクスポーションを発見したなら、エジンプト王家が100ccにつき1億ゴールドの値段で引き取る。そう御触書が出ている。
マコト&ソフィーがスラムの人のために使ったエクスポーションは、約5000cc。
対価は鳩1匹なり。




