89 トマトソースとマルゲリータ
死霊ダンジョンで聖水を手に入れ、それを使ってソフィーと一緒に人助けをしたマコト。
またもソフィーが起点になった善行が物となって巡ってきたのか、食用サイズのトマトが4種類も手に入った。
ソフィーと一緒に4種を1個ずつかじった。
「すっぱい」
「けど…」
「ああ。しっかり味があるというか、方向性は見えるな」
「ミニトマトより作物として格段に完成に近いね」
「あはは、やっとあの味から解放される」
マコトの料理の中で唯一まずかった試作トマトソース。あれから逃れられると思い、つい本音が出てしまったソフィーだ。
プリンで餌付けされた子供達は興味津々。
ついでにトマトを持ってきてくれた商家の使い2人もそわそわしている。
2人とも18歳の下働きで、ソフィーに引き留められた。
「マコト、何を作るんだ」
「前に話したピザだよ」
「おおっ、とうとう実物にお目にかかれるのだな」
言うなり、ソフィーは塩などを加えてこねた小麦粉の玉を出した。続いて大量のバジルの葉と、モッツレラチーズ。
マコト作の、オーブンの原型のような上に吹き抜け口がない変わった形をした変わった形のカマドに火をくべた。
マコトはソース作り。
一部は仕込み済み。タマネギのみじん切り炒めはいつもストックしている。
まずはニンニク、塩とオリーブオイルを平鍋で炒め、飴色のタマネギペーストを投入。
最後にみんなに皮をむいてもらったトマトを入れてゆっくりと水分を飛ばしていった。
少し甘さと爽やかさを出すために、今回はブドウを投入してみた。
1時間ほどかかったが、ペースト状になるまで弱火で混ぜていって完成。
「そ、それをどうやって食べるのですか」
子供よりも商会の若いふたりが食い気味で質問してきた。
「僕の国でも大人気だったピザって料理を作りますよ~」
ソフィーが小麦粉の玉を平たく伸ばして円形の土台を作っていた。その上にマコトがトマトソースを塗った。
さらに上に、斬ったモッツレラチーズ、バジルの葉を乗せてカマドに入れた。
カマドの中でどう焼けばいいか分からないから、盗賊から頂いた剣をアダマンタイトでたたいてスコップ状にして、その上にピザを乗せてカマドに入れた。
1回で4枚焼けるようにした。
マコトも初体験なので、ベストな焼け具合は目で見ながら判断するしかない。
火力が強いのか3分もしたら、パン生地に色が付いてチーズも沸騰して音をたててきた。
「よし、最初はこれで出そう」
「おう」
移された皿の上で湯気を立てるそれは、マコトのイメージにあるピザマルゲリータそのもの。
さささと、ナイフで円形のピザを8等分に切って、まずはソフィーに一枚。
「最初の一口はソフィーから」
とがった部分をぱくっとかじり、歯でかみ切ったのにチーズがピローンと伸びた。
はふっ、はぐっとするソフィーの感想をみんなが待っている。
「ピザって楽しくて美味しい~。チーズの味に甘いのと酸っぱいのが交互にくっついてくる~」
「気に入ったみたいだね。さ、みんなどうぞ」
マコトは半年ぶりにピザの味を堪能した。あとはソフィーと子供のために、次から次に作った。
マコトの好みはシンプルなマルゲリータだけど、みんなのために肉や魚介類も乗せた。
「あの、この料理は真似て作ってもいいですか」
商会から来た若手のオマルという男子が目を輝かせて聞いてきた。
「ああ、いいですよ。えと材料は…」
マコトは気付いた。トマトが一般化していないが彼なら手に入る。そして他の材料も現地調達ができる。
今回はトマトソースも胡椒抜きで作ったから大丈夫だ。
「どうぞどうぞ。家族や友人にも作ってあげて下さい」
「いいんですか!」
地球と大陸配置、食べ物の基本的な種類、食の歴史もなんとなく似ている異世界。
アメリカ大陸原産のジャガイモ、トマト、トウガラシが世界各地に広まっていったように、異世界でもいずれはトマトも普通に食べられると思っている。
そういう訳で異世界に変な影響は及ぼさないと思って承諾した。
◆◆◆
2日ほどマコトは生産職。といっても、聖水入りスライムボール、聖なるローション、ドライイーストの複製に時間がかかるだけ。
ソフィーと一緒に子供に街を案内してもらったりしながら過ごした。
しかし2日後にふたりに戻り、朝からダンジョンに向かおうかという時に面倒ごとが発生。
まず冒険者ギルドに行った。ランクを上げるメリットはないが、年に1度は依頼を受けておかないと除名される。
冒険者カードは国境を越えるときの身分証明などで意外と使える。
考えてみたらマコトは魔の森から出たあと、ポルペインで1度しか依頼を受けていない。
ソフィーも元パーティーメンバーに獣人混じりと知られてから冒険者ギルドに行っていない。
なので依頼票を見て、アークアメンダンジョンの魔物から奪った物を何か出すことにした。
貴族のコレクターから依頼があった39階の首なし鎧騎士アイテムなんて出すと目立ちすぎる。
やっと見つけた依頼に合わせ、10階フロアボスが落としたルビー4個を提出した。
これが意外に高くて249万ゴールド。
「え、DランクとEランクで? 失礼ですが、これを持っていたグールをどうやって…」
「え、普通に倒せましたよ」
「そうだな、グールのくせにズボンに宝石なんか入っていたな」
「……そうですか。失礼しました。では249万ゴールドです。お確かめ下さい」
ここで、ふたりが何を倒したか確認せず、『249万ゴールド』だけ耳にした冒険者4人がいた。
荒くれものばかりの冒険者の中でも素行は悪い。
◆
マコト達も悪意を感じた通り、ギルドを出ると一定距離を保って付いてきた。
街から遺跡群とダンジョンは近いが、途中に大昔に廃棄された街の跡がある。
マコト&ソフィーはそこに入り込んだ。こういう時のために備えていた。
レンガの土台だけになった崩れた家の間を通って、乾いた幅15メートルの水路跡に到着。
ふたりが水路跡に向かって走り出すと、不良冒険者も「逃がすな」と言いながら走ってきた。
そのまま水路跡に飛び込んで、ふたりでプレハブ避難した。
これで見失い、あきらめてくれると思ったら、2人ほど水路跡に向かってジャンプしてしまった。
「あ、馬鹿、そこは!」
「え、あああ!」
「うわああーー!」
水路跡は深さが7メートルもあった。
ソフィーが異空間から見ていると、悲鳴をあげながら落ちた2人は怪我をしている。
とりあえずハイポーションを2本、頭の上に落としてやったが、強盗行為をしようとした相手。
その後の運命に興味はない。
平常運転で、ダンジョンに向かっていった。




