82 クエ鍋と胡麻ダレ
マコト&ソフィーはエジンプトに上陸。古代遺跡群に行く前に、上陸したアレクサンガリアの孤児院の手助けをする。
経営状態が良くない。たまたまだけど、孤児が増えて15人のキャパに対して20人を受け入れている。
それでも頑張っているシスターパトラの役立つ物を渡す。
異世界の孤児院は、安価な大麦、ライ麦でパンを焼いて売る所が多い。アレクサンガリア孤児院も例外でない。
なのでマコトが日本から持ち込んだドライイースト作戦を使う。
「シスター、これが大麦でも美味いパンを焼くためのレシピと、錬金術師マコトが作った膨らむ粉だ」
ソフィーが母と慕うシスターアンジェラは、聖魔法を使ってドライイーストを増殖させていた。
ここのシスターパトラも同じく聖魔法を使える。ソフィーはレシピとドライイーストに関するメモ書きをシスターに渡した。聖魔法使いなら活用できる。
サンプルもある。ボルビック孤児院で焼いた、出来たて大麦パンを空間収納から出した。
すでに天然酵母の小麦パンが裕福層に向けて売っているが、ドライイーストは膨らみ方が違う。
「…美味しい。本当に私が作れるのなら子供らも助かるよ。けれどあなた方の得にもならないのに、本当にいいの?」
「いいんだ。マコトはパンで儲ける気はない」
「あはは。ソフィーを育ててくれたシスターアンジェラのご友人の手助けが出来るならいいです。それより安く手に入る果実はありますか」
この地で安価に手に入るフルーツはオレンジ。孤児院にもあったし、シスターパトラはシスターアンジェラのメモを見てドライイースト増殖を試した。いきなり成功。
とりあえず3グラムスティックタイプのドライイースト10本入りを渡したけど、1本だけで長く持たせる気だ。
わずか3時間で30個のパンを焼き始めた。
「パン作りって、こんな簡単だったかな…」と呟くマコトだが、聖魔法とドライイーストは相性がいいようだ。
ドライイーストは3グラムスティック10本入りが200袋あるから、複製して500袋を置いていくことにした。
包装付きで1袋が40グラム。500袋で20キロ。魔石エネルギー10dで人助けができるなら安いものだ。
マコト&ソフィーは、せっかくだから晩御飯を作ることにした。
その頃には孤児院の子供が寄ってきた。
「ご飯作ってくれるんだ」
「お姉ちゃんとお兄ちゃんはだれ?」
「彼は旅の錬金術師。私がそのツレだ。メシ作るから待ってろ」
マコトはソフィーの笑顔を見て安心した。自身も海上で碌な出会いがなかったストレスが消えてきた。
「さあ、デカイ魚をさばくから離れていろ」
クエは1メートルある。孤児院のまな板では乗らず、マコトのマイキッチンを出した。
「うわ」「大きい!」
ソフィーは新しく手に入れたミスリル包丁を出した。頭と胴体は分けて、骨が硬い魚とは思えないくらいにサクッといった。
脂の乗りが味の決め手だが、ちょっとギトギトするので刺し身は避けた。
今回はソフィーがひとりで身を分けている。孤児院の年長組が鍋のお手伝い。
マコトは胡麻ポン酢作り。
まずは練り胡麻。白胡麻と一緒に買った胡麻油を混ぜて、あらかじめ作っておいたポン酢に混ぜた。
ポン酢はクエを手に入れてから醤油、ワインビネガー、昆布、乾燥カツオで作っておいた。
子供が多い。クエ鍋の身を食べながら、同じ鍋で一角牛のしゃぶしゃぶができるようにした。
醤油と昆布だけでも、クエからすごいダシが出ている。その汁でしゃぶしゃぶも美味しいはずだ。
鍋は3つ。横には野菜とスライスした牛肉が並んでいる。
膨らんだ焼きたて大麦パンとご飯も用意してある。
「さあ食おう」
「みんな、マコトさんとソフィーさんに感謝していただきましょう」
「は~い」
マコト&ソフィーはまず、胡麻ポン酢に魚醤を一滴垂らした。
マコトは魚はノーマルポン酢派だったが、胡麻ポン酢を試してから両刀になった。
ぷりぷりした身を胡麻たっぷりのポン酢にくぐらせ、ぱくり。
ソフィーの猫目が細くなって波打っている。にへらにへらと、笑ってしまっている。
「うはあぁぁ~~。噛むほどに身から味が溢れてくる~。胡麻の香ばしさもいい~」
「だね~。魚は何日か寝かせたら、熟成されて旨味倍増って感じだ~」
「ふふふ。次はポン酢だけでいただこう」
またも2人同時にパクッといった。
「うっ~は~~。こっちもうま~い」
「こっちもすごいな~」
「甲乙つけがたいぞ。どっちも美味すぎる」
ウマウマイチャイチャする2人をよそに、子供とシスターパトラも、肉はもちろん、米にも舌鼓を打っている。
「お肉おいし~」
「お魚も!」
「お米とスープが美味しい!」
「おふたりとも、子供達のために、これほどの食事をありがとう」
メニューのラインナップ上、大麦パンはデザート的な役割になった。
ソフィーの包丁技でパンは薄切り。ハチミツとカラメルソースをかけ、オレンジを乗せると豪華なデザートだ。
女の子は、こっちの方に歓声を上げた。
「きれ~い」
「街にあるお店のメニューみたい」
「ふわふわでおいし~」
久しぶりに手放しに料理を美味しいと言ってくれる人もご飯を食べて平常心に戻ったふたり。
「みんなは明日は何するの?」
10歳の3人組はシャゼランク1ダンジョンに入るという。
「危なくない?」
「あそこは3階までは危ない魔物がいないんだよ」
「薬草採りに行くの」
「ウサギは素早くて逃げるけどね」
「役に立たないけとスライスもいるよ」
「スライム?」
マコトは旅に出てから、牛のダンジョンで大型魔物を計23匹も捕まえたので有機材料は8トン残っている。
けれど、金属、服の複製や風呂の湯の張り替えなどで魔石エネルギーをどんどん消費している。
スライムなら子供でも倒せるし、魔物だから1匹が1dのエネルギーを持っている。
「俺の錬金に魔石が必要だから、いける子は付き合ってくれない。報酬は出すよ」
「美味しもの食べさせてもらったからお返しする~」
「シスターもお世話になったって言ってた」
「手伝わせてくださ~い」
嬉しいことを言ってくれる子供達に、明日は何を食べさせようかと考えるマコト&ソフィー。
街で仕事がある子、小さすぎる子を除いて8人が手伝ってくれることになった。
ふたりは孤児院の一室を借りて、久々にプレハブ小屋の外で眠った。




