78 我がままニャンコとインドラの矢
ソフィーの誕生日の翌日は、シチリトナ島の南側に移動。
人が住んでいない標高2000メートルの起伏がある地形を軽快に進んだ。
下りの斜面ではパラグライダーの最終チェックも兼ねて、滑空の練習。
人間型ソフィーと2人乗りだと重量オーバーな感じだった。
湯気が立ちのぼる天然温泉に落ちそうになったから、マコト&ソフィーでミスリルホイルを出して『面』を使って、うまく跳ねた。
ソフィーがホイルを柔らかくして着水の衝撃を受け止めバネ状にした。マコトはホイルを水面にたたきつけながら硬化。
するとマコト達は10メートル近く高くジャンプ。パラグライダーの紐に魔力を込めて上に上げ直すと、風に乗って再び滑空を始めた。
「お、海面でも使えそうな技ができたぞ」
「風がないときは船で微速全身。風が吹いたらジャンプからの滑空。引き出しが増えたね」
ソフィーを子猫変身させてマコトの前がけリュックに入れると、浮力が戻った。
ソフィーは子猫状態でもミスリルホイルを操作できた。
かなりの長時間を動いて、目的の島南端に到着。時間調整のために遅く寝て昼過ぎに起床。
準備をしていると夕方になり、風が陸から海側に吹き始めた。
マルゲーリに習った。なぜだか知らないが海の近くでは昼は海から陸に風が吹き、夜は逆になるそうだ。
これは気圧の問題だけどマコトも細かいことは知らない。
風向きもいいしフライト時間だ。
パラグライダーの幅が最大で11・4メートル。マコトの運転席まで繋がるミスリルロープは最長で5メートル。
10部屋に増えたプレハブ小屋を立体的に繋げば、パラグライダーはマコトが乗ったままプレハブ収納ができた。斜面から飛んでいるときに3回ほど検証した。
スライムシリコン、ミスリルホイル、透明なビニール袋を使って作った防寒操縦席にマコトが着座。
ソフィーは子猫化して自作紐付き服着用から、マコトと密着している。顔は進行方向を向いている。
マコトとしては壁を透明化して景色が見えるようにするから、ソフィーはプレハブ小屋にいて欲しかった。
しかしソフィーは話し合いが始まると子猫変身。
「にゃん、にゃ、にゃ、にゃ~ん」
(マコトのパートナーとして、記念すべき初の崖フライトで見ているだけって選択肢はないゃん)
「けど…」
「にゃや、にゃにゃ!」
(絶対に一緒に飛ぶのにゃ!)
子猫スタイルで、膝を何度もぺしぺしされた。
愛くるしい姿で、めったに言わない我が儘を言われると、断れないマコトだ。
◆
さすがにマコトも崖ジャンプをためらっていると、突風が吹いた。
パラグライダーが一気に開いて、引っ張られたマコトの操縦席は宙に浮いて空に飛び出した。
「うわああ~~」
「にゃにゃにゃーーー!」
(出発にゃーーー!)
向かうは東南東。風向きは南南東。子猫ソフィーが操縦席に誘導してあるミスリルロープの1本に肉球を当てた。
魔力を込めて操作すると、帆が少しねじれて方向転回。浮力を得るような形になり、スピードは落ちたけど、高度は落ちずに滑空を続けている。
ちなみに自然に降りていく場合のパラグライダーは、あくまでもパラシュートのような物。
2人のように魔力で自在に帆を操作ができないのに空中2000メートルで開くと加速していって、地上には着地というよりたたきつけられてしまう。
注意しましょう。
◆
やがて日が暮れ、視界が悪くなった。マコトは目的地の方向に進んでいると思っているが、たまに横風を受けてジグザグに進む。
あまり自信がない。
「にゃ、ななにゃ」
(大丈夫、昔から私は方向を把握するのは得意にゃん」
「頼りになるね」
「にゃなん~」
(何でも聞くにゃ~)
3時間ほど、推定時速50キロで飛んだ。子猫ソフィーによると、ほんの少しだけ目的地に対して北向き。
地図で見ると地球ならギリシャ半島の南の海にあるクレタ島のあたりに向かっているそうだ。
交易拠点でもあるらしいから、その辺まで飛べたら行き交う貿易船を目印にエジンプトを目指すのもよさそうだ。
気分も落ち着いてきたし夜食タイム。マコトは食事に制限がある子猫ソフィーと一緒だからマグロサンド。
フランスパンにマヨネーズを塗り、軽く炙って魚醤と胡椒で味付けしたクロマグロの中トロをはさんだ。
ソフィーは子猫化すると見事に体質も猫。酒は一口で昏倒するし、タマネギは匂いをかいだだけで危険信号。
なので表面だけ焼いたマグロ赤身を出した。
◆◆◆
空の旅は平和だった。
乱気流を食らっても逆風になっても、状況が収まるまで空中でプレハブ避難。
推定標高500メートルで昼間にプレハブ避難中、突然の豪雨と雷。音声オフで壁と天井を透明モニターにしていたら、周囲に何本も稲光が落ちてきた。
マコトはなんとなく、天井に空間収納口を設置。
すると小屋がある位置に雷が落ちた。それも3回連続。
なんと空間収納の中に直径50センチの『雷玉』が30個できていた。
1発を下方に放つと雷玉は100倍に膨れ上がり、凶悪なエネルギーの束となって下に落ちていった。
「マコト…東の国の伝説魔法『インドラの矢』を作ったんだな。イタリアン王国と戦争しても勝てるぞ」
ソフィーが目を丸くしてつぶやいた。
◆◆
結局は何度も休みながら、3日で行程の半分にあたる1000キロを滑空。地球ならギリシャの南にあるクレタ島に当たるクレタロウ島の南側に着水した。
海面から50センチの高さになったときプレハブ小屋に入って準備した。
現在はプレハブ小屋の中で長さ3メートルの釣り船に乗っている。
船と別々に出ると、マコトが海に投げ出された状態でずぶ濡れになるからだ。
マコト&ソフィーで海面ジャンプをしてパラグライダーの連続使用も考えたけど、先の方を見るとギリシャ周りで活動する船も多い。
ここで空を飛べるアイテムとスライム錬金術の成果なんて見せたら、イタリアンの比でないくらい面倒ごとが起こる。
誰にも見られていないことを確認しながマコト&ソフィーは船ごとプレハブ小屋から出た。
「さあ、普通に船に乗るか」
「そうだな。船を買い取ったときにオールも付いていたな」
船を手に入れて移動すること千数百キロ。
2人は初めて、普通に船をこいだ。




