76 ガレー船の軍艦とウニの軍艦
「ソフィーさん、マコトさん、お世話になりました。ソフィーさん、いつでも来て下さい」
ソフィーとマコトは、いよいよ暗黒大陸を目指す。
「またね~」
「必ず来るから、一緒にメシ食おうなマルゲーリ」
マルゲーリはソフィーが獣人混じりと知ったけど、何も気持ちが変わらなかった。
ソフィーは知った上で、友人になってくれと言われた。
嬉しい気持ちで村人に見送られ、シリコンコーティングの小船で出航した。いきなり改良型パラグライダーの帆を出して上空に送ると、みんなを驚かせた。
青空で海は凪いでいる。
パラグライダーは風をつかんだが、今日の100メートル上空は進行方向の南西とは少しずれた南東向き。
ソフィーがミスリルロープに魔力を込めてパラグライダーを操作し、方向修正に成功。順風ではないとはいえ、時速30キロほど出ている。
そこでマコトが魔力供給係を交代。細かな操作はできないが、ソフィーとの訓練によって彼女が作った状態の長時間キープができるようになった。
「気持ちいいな。旅立ちの日がこうだと嬉しいぞ」
「だね。シチリトナ島の北側に砂浜があるんだったよね。急峻だけど登り口もあるそうだよ。着いたらキャンプしよう」
◆
1時間ほどは穏やかだった。
シチリトア島の輪郭がはっきりしてきたときだ。前方に船も見えた。
「デカイ船だな。後ろ斜めから見ても、長さ50メートル、幅は10メートルくらいありそう」
船の左右にオールが何本も出ているガレー船というやつだ。
「ヤバいマコト、あれは恐らくポルペイン帝国の軍艦だ」
「えっ、急いで回避しよう」
上空100メートル地点の風向きと強さが変わり、パラグライダーに引っ張られたマコトの船は時速50キロ出ている。
しかしガレー船は時速10キロ前後。
軍艦にグングン迫る。まるで海賊の特攻のようだ。
向こうはすでにマコトの船に気付いていた。空中ではためくパラグライダーの帆には、白銀にきらめくミスリルホイルが張ってある。
キラキラしていて目立つ。
弓持ち、魔法使いが軍艦の船尾で攻撃準備を始めていた。
「ソフィー、右側の沖の方に回避しよう!」
「分かった!」
小船は進路を変えたけど、軍艦の船尾から60メートルの距離しかない。
大弓の矢が1本、火魔法の炎の塊が1個飛んできた。
マコトはとっさにミスリルホイルを出して魔力を流した。端の50センチだけ丸めて持ち手。残る29・5メートル×25センチは一枚板。
マコトはパワー任せに長~い羽子板を振った。
「うおりゃああ!」
ぶううううん、と風を切る音がして矢、魔法の炎を打った。
矢はくるくる回り軍艦に戻っていった。魔法は大きな放物線を描きながら遠くへ飛んだ。
軍艦の右舷で次の攻撃準備が始まっていた。敵戦艦にデカイ矢を打ち込むための大型バリスタだ。3基もある。
軍艦とマコトの船の距離は120メートル。
「ソフィー、1回迎撃する。危ないときは船を捨ててプレハブ小屋に避難しよう」
バリスタから矢が放たれた。
マコトは大きく作ったスライム爆弾を出した。右手で魔力を一気に込めて海面に投げた。
ドンッ。スライム爆弾は軍艦と小船の中間で破裂して、大きな水柱を上げた。水の上位防御魔法『ウォーターウォール』のように、矢を飲み込んだ。
戦艦は揺れた。小船はもっと揺れたが、ソフィーがミスリルホイルを利用して転覆しないようにバランスを取った。
その勢いで小船は軍艦から離れた。
遠目に軍艦の乗組員が唖然としているのが分かる。
マコトは「あちゃ~、悪いことしちゃったな…」と頭をかいている。
ソフィーもつぶやいた。
「やっぱ、マコトが戦闘に関わる時ってデタラメだな…」
◆◆
シチリトナ島に3時間後に到着し、軍艦に見つからない入り江の奥、目的の砂浜に上陸した。
「あ~、焦ったし腹減った。マコトは?」
「俺も。じゃあ準備するよ。テーブルの反対側に座って」
「すまんな」
「気にしないで」
先に魔力が切れたソフィーを座らせ、マコトがテキパキと料理を作っていく。
テーブルにはウニ料理。
まずウニ寿司。握りと軍艦の両方。
小鉢には、2日間ほど塩に馴染ませたウニの塩漬け。
皿には薄く切って焼いたアワビ、ムニエルにした白身魚を乗せ、生ウニと塩ウニを添えた。
生イカ、生アワビを細く刻んでウニと混ぜたものには、少し醤油をたらした。
「マコト、ウニと酢飯を黒い物で巻いてあるのは何て名前だ」
「軍艦巻きだよ」
「ほう~、確かに軍艦の形だ。ホンモノの軍艦に遭遇したあとに、パンチが効いた食べ物だな。あはは」
「ははは、そうだね~」
2人でパクッとして笑った。焼きアワビに乗せたウニも、まずまず美味しかった。
衝撃は次に来た。
白米を出して塩ウニを乗せた。異世界の魚醤をご飯に一滴だけたらした。
マコトが過去に一番美味しかったウニは、福井県産の塩ウニ。それをイメージして作ってみた。
熱い白ご飯の上の塩ウニは、端っこが少し溶け出して橙色が米粒の間に染みていく。
じっと見ていたソフィーがパクリとして、瞳が縦になった。
はむはむ、ゴクンとしてしばらくフリーズした。
「……マコト、これ最高」
マコトも頬張った。
「うはっ。……これは予想以上」
たちまち1膳を平らげた。
一息ついてビールを出し、塩ウニを乗せた焼きアワビをつまみに乾杯。
「ふわ~絶妙。ビールと合いすぎる~」
「今日は塩ウニの圧勝だな…」
しばらくすると、疲れが出たマコトが浜辺でうとうとし始めた。
ソフィーはマコトを膝枕して、そっとささやいた。
「マコト、私にも帰ってきていい場所ができた。アンタのお陰だ。今日もありがとう」
上を向くと満天の星。
海も凪いでいる。
静かな波の音も、心地よい夜だ。




