71 ヒマワリと片栗粉
マコト&ソフィーは公園でペペロンチーノを作った次の日、ローマンの街で最後の買い物をしている。
ソフィーは子猫変身して、マコトは帽子を被り服装も現地の標準的なもの。
目立たなくしている。
「にゃにゃ、にゃ~ん」
(悪いにゃ、マコト。私のせいでこんなことになったにゃ)
「いや、ソフィーのせいじゃないって。欲深い人間が多すぎるだけだよ」
◆
時間を1時間ほどさかのぼる。
前の日に錬金ギルドの人間が接してきて、ソフィーが対応した。
スライム錬金術のことで面倒なことになる前に、完成品の参考としてビニール入りの製品を渡した。
砂糖5袋、ビーフジャーキー3袋、魚肉ソーセージ10本。
それをヒントに本当のスライム錬金で透明袋を作り、他人を幸せにできる人がいればいい。そんなマコトの意思も入っていた。
ところが、ソフィーが渡した物は異世界相場で砂糖だけで250万ゴールド相当。
錬金ギルドの実力を知っている人間からしたらゲスい意味でとられた。
『名前だけのゴミレベルな錬金ギルド員が、本物の錬金術師にタカリに行った。タカリ成功。錬金術師は価値ある物を差し出した』と曲解した人間がいた。
それも相当な人数。冒険者、商業、薬師、鍛冶の各ギルドから、自分も甘い汁を吸おうと、地位がある人間がタカリに来た。
ローマンの街に入ってから、マルゲーリをはじめいい出会いばかりだった。その辻褄を合わせるかのように悪人の目をした人間が集まってきた。
今朝、ふたりで泊まった宿屋から出た直後だ。
『いやがった。黒髪のやつだ』
『収納道具持ちの女も一緒だ』
『薬師ギルドにも何か寄付しろ』
『マコト様、商業ギルドです。物資の取引を任せていただけたら大金持ちにしてみせます』
恐喝語、上から目線語、詐欺語。聞いていて鬱になりそうな言葉でタカリが集まってきた。
やはりマコトは、異邦人の自分たちがマイペースで暮らすならナーロッパの都会を拠点にできないと感じた。
マコト&ソフィーはダッシュして、建物の影からプレハブ避難。
ソフィーは子猫化、マコトは貧乏…いや、駆け出し冒険者風の格好と帽子で外に出た。
マコトが赤ちゃんの抱っこ布を首からかけて、子猫ソフィーを中に入れている。
それだけで、誰もマコトに気付かない。
◆◆
食堂巡りなど、食べ物関連の店は散策を終えている。
ブドウ、リンゴ、サクランボ、イチジク、オレンジのほか、クルミも手に入れた。複製中だ。
ローマン探訪最終日となる今日は、トマトやカカオ豆を探した時のように、花屋や薬屋に入る。
まず、薬屋で持っていない物を探した。
チョコレート、コーヒー、大豆、小豆、ゴマ、メイプルシロップだ。
ポルペインのマドリーの街と同じく、チョコはなくて原料のカカオ豆はあった。
大豆、小豆は情報さえない。
ゴマの実物はエジンプトでは食用に使われているらしい。マコトも七味唐辛子からゴマを取っているが、乾燥しすぎて単体では風味がない。
いいヒントになったのはカカオ豆の話だった。
「金持ちはカカオ豆を蜂蜜に漬け込んだカカオハニーを強壮剤に使うよ。味もいいが、なにぶん高価だな。メイプルシロップね…聞いたことないな」
産地に寄って味も違うし蜂蜜を買った。
チョコ風味なカカオハニーの情報のお礼には、砂糖を渡して店を出た。
◆
最後に花屋に行った。
純粋にソフィーに花を買ってあげたいと思った。
「ソフィー、何の花が好き?」
「にゃ、にゃんにゃ」
(ヒマワリにゃ。種を炒ると香ばしくてウマイにゃ)
そういう意味じゃねえと言いたいマコトだけど、それも頑張って生きてきたソフィーの歴史かと思った。
店の奥で、紫や黄色の花を付けた球根植物に子猫ソフィーが反応した。
「にゃにゃん」
(あれは、腹が減ったときに球根を焼いて食ったにゃ。美味かったにゃん)
「へぇ、なんて花?」
「にゃん」
(カタクリにゃ)
「カタクリ…、あっ片栗粉の材料だ」
マコトは異世界に来て鶏モモを揚げたとき小麦粉を付けていた。
イメージしていた唐揚げにならないと思ったら、粉が違うのだった。片栗粉の存在を思い出した。
ソフィーが食べたことがある球根は、地球ならセイヨウカタクリというやつ。日本のカタクリとほぼ同じだ。
「やっぱりソフィーが色んな物を見つけ出してくれるんだな」
「にゃにゃ?」
(どうしたにゃ、ニヤニヤして)
「ソフィー、今までとは少し違った揚げ物を食べたくない?」
「にゎにゃ」
(また閃いたんだにゃ、街をでるにゃ!)
◆◆
結局、セイヨウカタクリの球根を50個買って、そのまんまローマンの街を出た。
マコトは3時間くらいかけて片栗粉っぽい物を製作。ソフィーは格闘技の型の稽古。
それが終わってイタリアン半島南部を目指し歩き始めて1時間後。
旅人が行き交う街道で最初の分岐点。木で囲った簡単な休憩所と乗り合い馬車の停留所がある。
そこで料理を始めた。
数人の12~13歳の、薬草を摘んでいた子供達にソフィーが声をかけて料理を振る舞うことになった。
片栗粉は大急ぎで作った。
カタクリの球根30個をミスリルホイルで包んでアダマンタイトの玉で潰した。
それをプレハブ小屋の風呂場の洗濯物乾燥装置で乾燥。
粉状になった部分だけをボウルに入れ、少し小麦粉を混ぜてブレンド。強引だけど試作品の完成。
鶏モモ、小イワシ、小アジにまぶして揚げた。
鳥モモは醤油、ワインみりんを混ぜたタレに20分漬けてみた。
見ている子供達は初めて嗅ぐ揚げ物の匂いに期待マックスの目をしている。
「さあ、鶏から食ってみろ」
「美味しい!」
「鳥の皮に味がついててサクサク」
「けど、中のお肉は柔らかい!」
ソフィーも食べてみて笑顔。
「いやあ~、小イワシの唐揚げってビールと合うな~」
「だね。おおっ、白ワインにもぴったりだよ」
「ホントか? おお、いいな!」
タカリにあった反動からマコト&ソフィーは、普段以上に近づいてくる人に料理を振る舞った。
そうやって宴会が始まり、飲み過ぎて寝た。
新たな旅の初日は、ローマンの街から5キロ地点で夜営。プレハブ小屋の中、ふたり抱き合って眠った。




