7 白虎と五つ星料理
マコトはプレハブ小屋を手に入れた場所より、今いる場所の方が魔物が強くなっていると感じた。
どうやら山に囲まれた森の端に転移していて、川は森の中央を通って海に向かって流れていくようだ。
なので、しばらくは敵の危険度が上がっていくのだろう。
ゴブリンソルジャーと遭遇した地点から魔物を避けながら進むこと2日、複数の魔物が現れると魚肉ソーセージで共倒れ作戦。75dも魔石エネルギーが増えた。
魔物を森で倒すことは諦めた。
確実に海に向かっていると信じて歩いている。太陽の動きからして、自分は南から北に向かっている。
ルート自体は変更しない。
空間術がある限り、どんな魔物が現れても回避だけはできる。
それに視界がいい河原なら、魔物と遭遇しても攻撃が届く前に避けられる。森の中を歩いて、頭上から魔物の不意打ちを食らう方が危ない。
◆◆◆
マコトは、慎重にプレハブ避難を繰り返しながら進んだ。
少しずつ、川沿いを進むごとに空気が濃密になっていく感じかしている。
これは気のせいではない。
実は、この森の最深部にはダンジョンがある。それも異世界人が制定したランクは『5』。1~6のランク付けで上から2番目で、同ランクのダンジョンは世界に5カ所しかない。ランク6は世界で1カ所のみ。
魔素が薄い人里に被害は及ばない。けれどダンジョンから漏れ出す魔素のせいで、半径20キロ以内は魔物が強化されている。
さらに7キロ圏内から出られないが森のボスがいる。
森の中心にあるダンジョンは、最初の魔物すら倒された記録がないが、価値が大きいのは間違いない。
危険で大きな森を抜け、やっと入り口に到達できる。発見されてはいても手つかずのダンジョンなのだ。
今、マコトはダンジョンから5キロ地点に入ってしまった。
巨大な熊が向かってきた。黒い体毛なのに白熊くらいある。焼いた魚肉ソーセージ3本なんて持っていたのが悪かった。
匂いプンプンだ。
目が合った瞬間に、手に持っていた魚肉ソーセージを高く放り投げて避難した。ビビりすぎた。
魚肉ソーセージは熊が喜んで食べた。プレハブ小屋の真上に落ちた1本目を食べると雄叫びを上げた。
魚肉ソーセージは熊も虜にした。
熊が次のソーセージに向かおうとしたときだ。
森の中から白い影が現れた。
と、思うと、プレハブ小屋の真上でバケモノのような熊の頭が落ちた。
「え…バケモノを倒せる魔物?」
確認すると、サイくらいある大きな虎。現在の魔の森を支配する白虎。ちなみにレベルは89。
最近もレベル50~70の人間15人で構成された、森がある国の最上位冒険者だらけの調査隊を撤退させた。
白虎は鼻をヒクヒクさせると、自分からソーセージまでの20メートルをジャンプして獲物にありついた。
「やべえ…」
◆◆
それから丸一日、白虎が50メートルほどの距離からマコトを監視している。
黒熊の魔石が欲しくて、一瞬だけ外に出て収納。そのコンマ数秒間にマコトを認識して、白虎が姿を現した。
黒熊の魔石エネルギーは破格の52d。それを瞬殺できるのが白虎だ。
丸一日をプレハブ小屋だけで過ごして、気持ちが沈んできた。
日本で退職を決意するまでに、少しメンタルをやられた。カウンセラーにも田舎暮らしというより、何にも干渉されない生活が向いていると言われた。
マコトは禁断のエサを作ることにした。
◆
1時間後、紙パックワイン4本で作った対白虎用エサを置いた。
白虎は一目散にマコト自慢の料理に向かってきた。
マコトが作ったのは、アルコールに弱い猫科動物を酩酊させる食べ物。相手は虎だけど、似たようなものだと思ったマコトだ。
まず中身を出したワインの紙パックを立てて、底に魚肉ソーセージを敷き詰めた。そこにワインを注ぎ、上に熱々の焼きマヨネーズをたっぷり乗せたソーセージを並べた。
「よし、5つ星料理の完成だ」
星などもらえるか。しかし白虎は気に入ったようだ。ワインも甘口だ。
白虎は知能が高い。丁寧にパックワインを倒さないように、ソーセージ、ワインの順で口に入れていった。
丁寧に完食したとき、白虎は伏せてむにゃむにゃと喉を鳴らした。そして目を閉じた。
「眠ったな。今のうちだ!」
地上に出ては消える、プレハブ移動術を使ってマコトは白虎から遠ざかることに成功した。
白虎の横には手つかずのワイン入りディナーが3セットも残っている。目を覚ましても、アレを食べて再び寝ると期待している。
◆
白虎から逃げて1時間。マコトは変則的な移動方法に慣れてきた。
プレハブ小屋レベル1でも転移もどきの移動可能距離が3・8メートル。
部屋の端まで歩き、外に出て瞬時に戻る。
すると再び3・8メートルの『プレハブ通路』が前面にできる。それを繰り返して、川沿いに距離を稼いだ。
ただマコトは、まともに外に出ていない。だから魔素が最大限に濃密になっていることに気付いていない。
いきなり川が二股に分かれた。というより、50メートルくらいの幅の中州があり、そこを避けるように両側に水が流れている。
中州の中央には、地下鉄の入り口に似た滑らかな石で出来た下り口が見える。プレハブ小屋は例外として、これがマコトが異世界で初めて見た建物。
これはダンジョンの入り口だけど、そんなことはマコトに分からない。
もう1週間以上も人と会っていない。中に誰かいないかと期待して入り口を調べることにした。
川幅は15メートル。マコトには渡る方法がある。まずジャンプした。
足の下が1・5メートルくらい地表から浮いている。
レベル13、ステータスオール130がどの程度か分からないが、日本にいた時より明らかに身体能力が上がっている。それでも出てくる魔物が強そうなので、森の中では弱者なのは間違いない。
マコトは宙に浮いたままでプレハブ小屋に入った。
いつものように小屋は地下に埋まらず1・5メートル、地上にせり出している。
そのまま小屋の中をマコトは川の方に歩いて、地上に出ると、川の上で1・5メートル浮いている。瞬時に小屋に帰還。これを繰り返して、空中遊泳のように中州に渡った。
空中に上がることはできないが、滑空のように高い位置を起点に移動できる。
森の木に登って、この技を使おうかと考えたこともあったが、この危険すぎる森で木登りはしたくない。
なにはともあれ、地下鉄の入り口っぽい建造物の階段を降りた。
するとマコトの視界が変わり、幅20メートル、高さ10メートルの回廊に立っていた。
「あれ…。これって人工物じゃなく、ダンジョン的ななにか?」
何の予備知識もなく、マコトはダンジョンに入った。




