69 パスタ過渡期と錬金ギルド
マコト&ソフィーは、ようやくローマンの街を観光することにした。
朝早くから市場を散策し、昼時になれば店舗を巡る。
朝の市場に行くと、地理的に野菜か魚がメインの店が多かった。王都だから肉も多いがマコトの食指は魚と野菜に向いている。
温暖な気候を生かして育てた野菜やハーブが豊富。オリーブ栽培も始まっている。胡椒も地球ならインドに当たる国と古くから交易している。高価でもポルペインに比べたら安かった。
砂糖は1キロ50万ゴールドと貴重。
狙っていたタイプのチーズも見つけた。
「おばさん、このチーズって何の乳からできてるの」
「水牛だよ」
「よし」マコトの偏った知識に辛うじてあったモッツレラチーズだ。
試行錯誤中のトマトソースが完成したらピザを作れる。
◆◆
日も高くなり飲食街に行くと、最近オープンしたばかりの店が目に付いた。
なんとパスタ中心。ポルペイン、ラフランスでも見当たらなかったスパゲティが食べられると思った。
比較的高価な小麦粉で作るから価格帯はまずまずだ。
「麺好きな日本人の血が騒ぐぜ」
「麺? とにかく一軒目はここだな」
店に入ると厨房がオープンだった。とりあえずワインと魚の燻製を頼み、マコトはソフィーと厨房の中が一番よく見える席に陣取った。
手順を見ていると、違う種類の小麦粉を混ぜて卵と水を加えこねている。
こねて伸ばして、棒を使って薄く広げて生地が出来上がった。見ていて楽しい。
しかし…コックさんは麺を作らない。日本でも見たことがあるペンネとか短いパスタばかりだ。
マコトは店員を呼んだ。
「スパゲティーを下さい」
「スパゲティー? うちで作るパスタはペンネ、ファルファッレ、ブリッジの三種類ですが」
マコトは異世界に麺のパスタが、まだないとかと思った。
歴史の正確な年表は覚えていないが、パスタの中では麺の出現が一番遅かったとだけ知っている。
微妙に地球に似ている世界。今がパスタの歴史の過渡期だと思った。
「マコト、どうした」
「実は…」
マコトがソフィーに麺の説明をすると、面白そうだと言い出した。
「よし、パスタの生地を買えれば私が細く切ろう」
笑顔になったマコトはいきなり厨房の方に行き、ダイレクトにパスタ生地を売ってほしいと頼んだ。
「なんだアンタ、ライバル店のスパイか?」
「いや、僕達は旅人です。旅の道中でパートナーとパスタを食べたいなと思って」
言いながらマコトは、自分の空間収納からビニール入り砂糖1キロを10袋、瓶入り胡椒30本、ビーフジャーキー10袋を出した。
「今、出来上がった生地とこれを交換してもらえませんかね」
日本の価値で3万円弱。技術料も入れて等価交換のつもり。
相手からしたら、800万~1000万ゴールド。過剰な評価を受けた感じで文句の言葉が出ない。
「……そ、それは」
マコトは追加で砂糖を出すと、ビニールを破った。慌ててやってきた店のオーナーとコックに中身を舐めさせた。
「甘い…」
「…本物の砂糖だ」
「どうです、交換してもらえますかね」
呆気にとられた店のオーナーがうなづいて、他にも色々とくれた。パスタ生地を収納して、マコトはソフィーとふたり、笑いながら店を出た。
ただし、この光景をたまたま店にいた錬金術ギルドの人間が見ていた。
◆◆
続いて魚介類の店に入ったマコト&ソフィーは、白身魚と貝の具だくさんスープを食べている。
「うまいね。料理人さんの腕がいいのかな」
「そうだな。これは当たりだと思う。マコトの調味料を加えたらすごくなるぞ」
テイクアウトもあったから、4種類ほどの料理を買って収納。次の店に足を運ぼうとした。
しかし通りに出た直後、変なローブを着たオジさんはじめ、5人の男に呼び止められた。
「錬金術師マコトか?」
いきなり上から目線。
「そうですけど、どなたですか?」
「なぜ錬金ギルドに入らない」
「ソフィー、この人どう思う?」
「人としてダメだな。名乗りもしない。学がない私だって分かるぞ」
「じゃあ、深く関わるのやめようか」
「だな」
午後の往来。人が集まってきた。
錬金ギルドの連中は、みんな馬鹿にされて顔が真っ赤だ。そして不満げに口を開いた。
「貴様も錬金術師だろう。女に構っているくらいなら、錬金術師の地位向上のために我々と共に身を粉にして働くのだ」
これはマコトへのNGワード。拘束される、すなわち日本で心を病みかけた会社勤めの生活を思い出しそうになる。
だからソフィーが前に出た。
「…ソフィー」
「マコト、ここは私に任せてくれ」
無頓着なマコトと違いソフィーは備えていた。錬金ギルド、商業ギルドのどちらかは悪い形で接触してくると思っていた。
マコトはソフィーが気に入ったマルゲーリのために貴族と関わった。
ソフィーだって、マコトのためなら悪役をやってもいい。それをできる力とアイテムももらった。
自分の収納腕輪から魚肉ソーセージ数本を出した。周りに見せた上で、ソーセージを開封して適当にギャラリーに配った。
「これは?」
「食ってみろ」
もらった人は戸惑っていたが、1人の女性がパクっとして目を開いた。
「うっまーー!」
「ホントか? おおっ」
「なんだこれは。美味すぎる…」
「それは錬金術師マコトが作った物だ」
「ほう~~」
「錬金術師って、すごいんですね」
「違う。マコトの錬金術が飛び抜けているのだ」
錬金ギルドの連中にも教材用に魚肉ソーセージ、ビーフジャーキー、砂糖を渡した。
「お前らに、マコトからのお裾分けだ。研究して人の役に立つ物を作れ」
ソフィーは聞いている。透明袋は正式には『ビニール』と呼ばれ、高度な技術がなければ作れない。
だけどマコトは、ビニールをヒントに他人のために役立てる物を作る、本物の錬金術師がいるなら手助けしてもいいと言った。
ソフィーと楽しく暮らせるなら対価を払っていいとも言われた。
「錬金に成功したなら、自分の儲けを確保していい。ただし錬金ギルドで利益独占なんて、みっともないことはするな」
名乗りもしない錬金ギルドの人間には大して言葉は響かないだろう。
けれど、ギャラリーを通して人のために力を使える人間に話が伝わるかもしれない。そんな人間がマコトに接触してくるなら、ソフィーだって歓迎する。
錬金ギルドの連中は、固まって動けない。
「さ、マコト、気晴らしに丘の上の公園にでも行って、麺とやらを作らないか?」
「いいね~。ペペロンチーノでも作ろうか」
「新しい料理だな。楽しみだ」
ふたり、手を繋いで歩き出した。




