67 捜索打ち切りと棒寿司
マルゲーリがミスリル銀シルクを女帝アテリーナに献上した次の日の朝。
アテリーナとカラブリヤ伯爵は、宰相を交えて話をしている。
議題はマコト&ソフィーについて。結論は捜索打ち切りである。
「カラブリヤ伯爵よ」
「はい宰相様」
「貴殿の話を聞く限り、錬金術師マコトの捜索を打ち切るしかないのか」
「はい。あの錬金能力は惜しいですが、同時に防げぬ暗殺技術も持っております」
「にわかに信じがたいが…」
「出会った時は離れた位置から馬車の中に物を送り込み、帰る時は転移魔法を使ったかのような消え方でした」
「要するに、余計なことをすれば余の寝室にでも押しかけてくるということか…」
軍部による2人の捕縛命令を止められなかった自分も、マコトからすればグレーか黒の存在。女帝も、マコトの意図を威嚇として受け取ってしまった。
「さらに、私に今回の手数料として渡された物の中に、こんな品物がありました。調べた結果、本物でした」
「こ、これは」「…まさか」
「どうぞ、おふたりで分けてください」
鳥ダンジョンの41階と46階のニワトリの卵が各5個。純粋なマコトからのお土産。常温でも1年間くらい腐らないと聞いたし、きっと美味しいはずだから食べてくれということだ。
しかしアテリーナ、宰相は震えた。卵を守るニワトリのレベルは46階で70か71だったと記憶している。ニワトリの姿をしたバケモノだ。
その必ず雌雄セットで現れるバケモノをマコト&ソフィーは2人だけで倒したとアピールしているように感じた。
この国の王であるアテリーナでさえ、46階ものなど1度だけしか食べたことがない。それも丸々1個ではない。
宰相は、それほどの能力なら逃がしたくないが、マコトがマルゲーリのために動いた動機を聞いて諦めた。
「釣ったサバを譲ったからだと? そんな馬鹿な理由で姿を現したのか…」
「錬金術師マコトは、サバの礼に自分が作ったミスリルの竿をマルゲーリに譲るため、横やりが入らぬ方法を教えてくれと、わざわざ私に聞きに来たのです。正直、考え方が理解できません」
国際情勢が揺れている時期。女帝アテリーナもマコトを取り込みたいが、捜索を断念した。
そういう人間は貴族的な常識が一切通じない。女帝アテリーナ、宰相、伯爵は貴族の当たり前の感覚として獣人への差別意識が強い。
連れの獣人女性への危害はもちろん、マルゲーリに不利益があれば王城が炎上するだろう。
一定量のミスリル銀シルクが手に入ったことが奇跡と思うべきだと話し合った。
「ところで伯爵よ。お前は何をもらった?」
「おお、そうだ。他にも何かあるだろう」
「…相応の物でございます」
「しらばっくれおって」
「今回、伯爵が一番得してないか?」
「おほほほ」
などと会話が繰り返されている。
◆◆
2日後の夕方になった。
相変わらずマコト&ソフィーは、政治的思惑など関係ない。
釣りを終えてから5回の倍々複製で魚も32尾ずつに増えた。
トロサバとタイ、ヒラメを使って棒寿司作りに挑戦していた。
マコトが日本で九州に旅行したとき、九州最初の門司駅前でサバ、タイの棒寿司を買って食べた。
すごく美味しかったので、自分でも作ってみたことがある。もちろん味は遠く及ばなかった。
3枚おろしの魚を洗って塩と砂糖少々を振って、昆布に付けておいたビネガーでしめた。
適当な感覚で2時間ほど。
寿司飯を作ってシメサバを乗せ、ミスリルホイルを巻き簀代わりにしてギュっと押した。
おそらく色々な手法が足りないと思うマコトだけど、勘がいいソフィーが作っていくごとに改良していくと期待している。
それも一つの楽しみになってきた。
◆
出来上がったら、海岸近くで屋台などが出ている一角に行った。ご飯を食べているカップルや家族連れで賑わっている。
サバ、タイ、ヒラメの棒寿司、同じ種類の3種に昆布を乗せてバッテラ風のやつも作った。
もちろん普通の刺し身盛りも作った。最初の頃はマコトが刺し身を切っていたが、ソフィーの方が格段に腕を上げた。
シメサバだけは、ワサビを添えて刺し身も用意した。
トロサバだから、ハラミ回りは脂が乗って真っ白。ギトギトという感じではなく牛肉のサシのような白さだ。
「ソフィー、乾杯しよう」
「おう。今日も冷たいビールが飲めて幸せだな」
一口飲んで、ソフィーはタイ、ヒラメ、サバの棒寿司を順番に食べた。
箸を使えるようになったソフィーがパクリとするたびに猫目が大きく開く。
「お~う、初めての旨さだ」
「だね。どの魚にもパンチがあるよ」
「この酢飯って考えたやつはすごいな。魚の味は違うのに、みんなきっちり受け止めてくれてる」
「どれが一番美味しい」
「あえて言うなら私はタイだが、みんな捨てがたい~」
笑いながらマコトは、シメサバの腹回りとビール。
「はあ~~。このサバはこっちの世界でしか味わえないな~」
「うはっ。今まではサバの腹回りなんて腐りやすくて食べられなかったけど…、ホントはこんな美味いのか…」
上を向いて放心状態。通る人が見ているのに瞳が縦になったソフィー。
思わずマコトがソフィーに目隠しして、人に見られるのを防いだ。
「ん? どうした、マコトが食べさせてくれるのか?」
「ま、まあね、はい」
往来であーん、ぱくをやるハメになった。
バカップルになったけど、ここでは目立たない。イタリア男性が情熱的なのは異世界も同じようで、横のカップルなどキスをしている。
マコトよ、あーんぱく、くらいで照れるな。ただでさえお色気シーンが少ないのだぞ。キスくらいしてみろ。
「ローマンの街って散策するとこ多くて楽しいね。色んな食べ物がありそうだから、取りあえず目に付く物を買ってみようか」
「そのあと南の方に向かって海越えだな」
前の日、マルゲーリと一緒にカツオのタタキ改を食べたあと、彼女が女王から預かっていた、詫びと感謝の手紙が渡された。
マコトは素直に謝罪を受け取って、イタリアンも永住地の候補に入れた。
単純な男だ。




