66 わらしべ長者とカツオタタキ改
マコトはカラブリヤ伯爵邸を去った。
世話になったマリゲーリのため、伯爵にはこの国でミスリル銀シルクと呼ばれる超貴重品、ミスリルホイルを2本と砂糖、胡椒などを渡した。
さすがに伯爵は何かマコトに返そうと思ったら、白ワインが欲しいと言われた。
プラス、探している食材もあると言われた。
家令を呼んでみると、マコトが求めていたのは食材ではなく薬品として仕入れた物。
ショウガだった。
それを1個もらいに屋敷最奥の保管庫に行くと、マコト&ソフィーは管理人が横を向いた一瞬で姿を消した。
用意していたワイン3本も、いつの間にか消えていた。
マコトは単にプレハブ避難から出ていったのだが、カラブリヤ伯爵は警告ととらえた。
『いつでも殺れるぞ』と。
「最大限に監視網を張り巡らせていたのに、誰も彼らが出て行くのが分からなかった。約束を果たさなければ、暗闇から現れ首を搔き切るということですね」
伯爵よ、マコトの心を深読みしすぎだそ。しかし、実際に王城であろうと簡単に忍び込める能力があることはバレた。
◇◇戸惑うマリゲーリ◇◇
マコトさんに借りた釣り竿の使い勝手がよくて欲しいと言った。
しかし材料がミスリル銀シルク。私程度が持っているとヤバイ代物だと知って一度はあきらめた。けれどマコトさんが斜め上の行動に出た。
伯爵様に、私を庇護下に置いてくれと言いに来た。
マコトさんは消えたけど、別れる前にミスリル銀の腕輪を渡された。それは収納腕輪。中に竿に使った長さ約90メートルのミスリル銀シルクが入っていた。
なぜか、新品の30メートルのやつ1本と色んな物資も詰め込まれていた。
驚く間もなく、私は伯爵邸に泊まるように言われた。
今から王城に先触れを出しおけば、恐らく明日の朝イチでアテリーナ陛下に謁見できると言われた。
誰が?
私の立場で伯爵様に突撃面会だけでも普通なら牢屋行き。王城突貫なんて斬首ものなのでは…。
さらに事態は動いた。軽食をいただいていると王城から早馬が来た。ただちに登城せよとの知らせ。
「やっぱ、お呼びがかかったか。あのせっかち姫め」と伯爵様。
そういえば、女王陛下と伯爵様は貴族学園の同級生。どちらも本来は家督を継ぐ予定がなかった。そんな気楽な頃からの友人だと聞いたことがある。
伯爵様をお見送りしようとすると、何故か私も馬車に詰め込まれ王城に連れて行かれた。
会議室に通された。「堅苦しい謁見の間でなくて良かったわね」と言われたが、断じて良くない。
ラフな格好の陛下、宰相様、陛下直属の騎士様4人。わずか6人だけど、この国のスターが勢ぞろいだ。
私は騎士爵家の三女。年末の夜会に年に1度だけ、当主の父上が登城できる。ギリギリ貴族だ。
なぜ私がここにいる……。
「これは非公式な場だ、楽にせよ。で伯爵よ、本当に例の物は手に入ったのか」
「は、これにて」
「2本もあるな」
「マルゲーリの話ではインナー等の服飾用に1本。ご自分で操作する自在鞭に1本というとこです」
「ほう、自在鞭か。ペルネ騎士爵家のマルゲーリと申したな、直答を許す。1本を実際に使って説明せよ」
「は、は、はい。だたちに」
ソフィーさんに、私はシルク操作の才能があると言われた。そして細かな説明を丸投げされた。
それに4時間ほど釣りをしてミスリル銀シルクの操作にも慣れた。
伯爵様に1本のミスリル銀シルクを渡され魔力を込めた。
自分の周囲でシルクをぐるぐる回らせた。陛下が騎士様を呼んで剣で斬らせたが、簡単に弾くことができてしまった。
騎士様が反動で倒れそうになったから、シルクの端を柔らかくして動かし、転ばないようにお支えした。
すごい、この布。
あれ…私はミスリル銀シルクを釣り竿としてもらったけど…性能は同じだ。
ともかく陛下は、シルクの動きを見てご自分でも操作なされた。
ヘロヘロでも動かせたし硬化させられたから超笑顔だ。
「マルゲーリ、でかした!」
そこから私のことなのに、私の目の前で陛下、宰相様、伯爵様による話し合いが進んでいった。
男爵位、領地、今回の報奨金ってなに。
1か月後、私は王城の謁見の間での儀式みたいのを経て正式に男爵となる。そんで伯爵様の代官として直属の部下になる。
新しい領地は実家の南側にある現在は領主不在の海岸沿い。最初は代官だけど、最終的には私が興す家の領地になるようだ。
◆◆
次の日に一旦解放されると、マコト&ソフィーのふたりが会いに来てくれた。
魚料理を作ってくれるそうだ。
「伯爵さんとこでもらったショウガを加えて、カツオのタタキが完成したんだ」
「マルゲーリと一緒に食おうと思ってな」
私が男爵になったのは、完全にふたりのおかげ。私がやったことは麦わらで編んだかごに入れた、釣りエサを提供したくらい。
おとぎ話にある。
最初は麦わら1本にカニを結んで遊んでいた男の話。麦わらと角ウサギの牙を交換したことから始まり、どんどんいい物を手に入れて最後は億万長者になる話。
まさに私は、わらしべ長者だ。
それを言うとマコトさんは大笑いした。今回の礼をしてくれるなら、ソフィーさんと一緒に男爵領を訪れたとき、ゆっくり過ごせる場所を提供して欲しいと言われた。
話をしながら、マコト&ソフィーは料理を作っていった。
ソフィーさんはマグロモドキを三枚におろして皮を焼いた。それを一口大に切った。
マコトさんが黒い調味料とビネガーを使ってソース作り。
ソフィーさんが魚を並べて、マコトさんがソース、ニンニク、そして高価な薬であるショウガを刻んで乗せた。
最後にネギを中央に置いて「さあ、完成だ」。息が合ってるふたりだ。
あの美味しいエールを木のジョッキについでもらって乾杯した。
「うまい。これが完成品か!」
マグロモドキを食べたソフィーさんの大きな目が見開いた。私も食べると、すごい幸せな味が口いっぱいに広がった。
「どう、前以上の味でしょ」
「だな~。どんどんうまくなるな~」
マコトさんはソフィーさんをニコニコしながら見ている。
「新しくもらう領地ではマグロモドキも獲れるんですけど、この食べ方を参考にしていいですか」
「黒いソースなしの調理方もマコトに習ったぞ。教えていいか」
「もちろん」
マコトさんに塩タタキの作り方を習った。あとマグロモドキは干すといいダシが取れると教えてもらった。
別れ際に、アテリーナ陛下から預かっていたマコトさんとソフィーさんへの手紙を渡した。感謝の手紙らしい。
王城の式典は気が重いけど、伯爵様には全力でサポートすると約束されている。
まずはマグロモドキ改め、カツオを領の名物にしたい。




