64 変な竿とトロサバ
マコト&ソフィーは、汚い格好に扮した王城のスパイ、マルゲーリを誘って釣り場所を変える。
岩場だらけの岸に行く。
自己紹介も道中でやった。家名があるからソフィーは没落貴族と思った。いずれにせよ、嫌な感じはしない人物だから、マコトに特に何も言わなかった。
歩きながら話も弾んだ。
今から青魚や鯛を狙う。早朝に訪れた市場でも色々と買った。種類はあったが、目当てのサイズが幾つか足りない。
タイ、ヒラメ、サバのマコト的な理想サイズが欲しい。
◆◆
今日の海は、比較的穏やかだけど複雑に流れている。
「今日は潮回りも良さそうですね」マルゲーリが呟いた。
切れ長でキレイな目で海を凝視している。
「へえ、分かるんだ」
「はい、実家はここから南の方に行った村にあって、主な産業が漁業なので」
「糸を垂らすなら、どの辺のポイントが適してると思う」
「そうですね~。私の勘だと80~100メートルくらい先。木竿じゃ届きませんね」
「ああ、そのくらいなら、何とかなるかも」
マコトはミスリルホイルを9本出して、スライム糊を使って3本ずつ縦にくっつけた。1本が30メートルの長さだから、伸ばせば90メートルになる。
ぼそっ。「銀に輝くシルクの反物…。すごく価値がありそうだけど、何に使うんだろう」
ホイルの先に30メートルの釣り糸を糊づけしてヘンテコな竿を作った。
その間にマルゲーリはソフィーに、釣りエサにする小ガニと小ジャコの釣り針への付け方を教えていた。
マコトの魔道具が完成した。
「出来上がり!」
「なるほど、それなら遠くまで届くな。さすがマコトだ」
単に長いシルクの先に釣り糸が付いていた。
「???」マリゲーリは謎だ。
マコトがミスリルホイルに魔力を流すと、マルゲーリには信じられない光景が広がった。
柔らかなシルク状の布が、沖に向かって1枚の板になって伸びた。わずか3秒。
マコトは無駄に魔力攻防力が高い。
逆にソフィーは水面を滑らせるように、なめらかにミスリルホイルを伸ばしていった。
3枚のミスリルホイルを付けて90メートル弱。伸ばした先にカニを付けた糸が海に沈んでいった。
「マルゲーリさんもやってみなよ、便利だよ」
「そうそう。これはマコトが錬金術で作った不思議な布だ」
マルゲーリも渡された布を手元だけ細長くまとめて持ち手にした。ゆっくり魔力を込めていくと、シルクのような布が海面を這うように伸びていった。
彼女の魔法適性は水。
「うわあ、何か楽しい。あんな遠くまで先端が届きました」
そんな話をしていると、3人同時に当たりがきた。
マコトは細かく魔力操作はできない。魔力を抜いて、ふにゃふにゃになったホイルをひたすら引き寄せ魚ゲット。ソフィーは巧みな魔力操作で先の方に魚を巻いて器用に手元に持ってきた。
マルゲーリもソフィーに習って、ゆっくり魚を引き揚げた。
「すごい魔道具だ。面白い~」
みんなヒラメだけど、サイズが違った。マコトのやつはリリース必至の20センチ。ソフィーのは大味になる1・3メートル。
対してマルゲーリは、マコトが寿司屋の職人さんに教えてもらった、絶妙サイズの50センチ2キロ。
「おお~、マルゲーリさんのやつが理想型だ」
「じゃあ、どうぞ。美味しいエールのお礼です」
次はタイ。マコトが15センチで再びリリース。ソフィーは95センチで大きすぎ。
やはり50センチで肥えたのはマルゲーリが釣った。
次々と色んな種類の魚を釣った。絶妙サイズは全部マルゲーリがゲット。
「すごいな」
「マルゲーリさん、ありがとう」
マルゲーリは褒められて面白くなった。魚釣りを楽しんだあとは、抜群に美味しいエールを好きなだけ飲んでいいと言われた。
「サバでも釣ってくれたら、食べ物以外にもお礼しますよ」
「サバですね!」
「サバって、あの腹が腐りやすいやつだろ」
「ふっふっふ、甘いよソフィー。日本には冷蔵技術と料理法で美味しくする技があるんだよ」
「おお~私もサバを狙うぞ」
マルゲーリは面白くなった。許されるなら今使わせてもらっている竿の魔道具を手に入れたいと思った。
90メートル先のシルクの先端に魔力的意識を集中した。
手応えがあった。
「何か来ました!」
「おおっ、銀色に輝くあの肢体は」
サバだ。40センチもあって肥えている。
日本ならトロサバというやつで、岸から近い場所ではめったに釣れない。
マコトは、やっぱりソフィーのお陰だと思った。普段からなんの見返りも求めず人にご飯を食べさせている。たまに、こうやって思わぬプラスがある。
「マルゲーリさん、このサバもらっていいですか?」
「どうぞ~」
「やったよソフィー。思った以上の魚が手に入った。(複製するから)今日は食べられないけど、ラッキーだね」
「マルゲーリに礼がしたい。何か欲しいものはあるのか?」
「あ、あの、この変わった竿は売ってもらったりできないでしょうか」
ソフィーに食べさせたいトロサバが手に入ったマコトはOKと返事しようとした。
ミスリルホイルは容器も入れて250グラム。ゴブリン1匹分の魔石エネルギーで8本作れる。その程度の感覚のままだ。
しかしソフィーから待ったがかかった。
「金はいらん。渡してもいいが、マルゲーリ、これが何でできてるか知ってるか」
「シルクですか?」
「いや、ミスリル銀だ。だから普段は隠し通さねばならない」
「…………は?」
考えてみれば自分の国の女帝が、常に欲しがっている超希少な布地の特徴そのもの。
ミスリル銀シルクだ。
「噂通り、魔力親和性は抜群だけど…」
「だろ、私もマコトに渡された時は驚いたものだ」
マルゲーリは、驚いたのはそこでないと言いたい。
今、とんでもない価値があるアイテムが自分の手の中にある。そして自分は、その布で魚なんか獲っている。
超が付く貴重な布の上で、釣ったばかりのカワハギがビチビチ跳ねている。
「こんな物、上司に見られたら手柄ごと横取りされちゃいます…」
「家名があるから貴族だろうが、何かマズイことがあるのか」
「そういえば、マルゲーリさんって何者?」
マルゲーリは、自分の素性と任務を明かした。ミスリルホイルをマコトに返して手ぶらで帰ろうとした。
「…ごちそうさまでした。楽しかったです」
「ちょっと待って」
けれどマコトは引き留めた。
話を信じるなら、完全なる縦社会で外れクジを引かされただけ。私欲でマコトを探りに来たわけではない。
末端とはいえ貴族なのに、見事なほど邪気を感じない。
何よりも、ソフィーが気に入った彼女に、トロサバをもらった借りを返していない。
このまま帰らせたら、マコトの異世界ライフに悔いが残る。




