62 忍法雲隠れと生卵
マコト&ソフィーはバニョレージダンジョンから出た。
どちらも手ぶらで獲物は獲れませんでしたアピールをしたけれど、武装した兵士に囲まれた。
50人規模だ。
「なんでだ?」「なんでだろう?」
マコト、いやソフィーもだ。お前らは迂闊すぎる。
プレハブ転移のせいで諜報員が何度も見失っているけど、イタリアン王国の軍部の人間がふたりを探している。
イケイケの貴族の元には、派閥トップの公爵が戦死したとショックな情報が入ってきた。
ヤケクソで起死回生を狙っている。
この場のトップのビルリ伯爵は、獣人彼女を人質にしてスライム錬金術師をいいように使うことまで考えている。
そんなやつらの手が届く街のダンジョンに、手配署と一致する珍しい黒目黒髪の少年が現れた。
そりゃ、捕縛部隊も動く。
さらに肝心なことを2人して忘れていた。ダンジョンに入る時は男ひとりと猫1匹。にゃ~にゃ~と猫語で話していた。
ただでさえ限りなく黒に近かったのに、出るときは男女の人間ペアで猫おらず。
手配中のカップルですと、自分達でアピールしている。
「貴様ら、錬金術師のマコトと獣女であるな」
馬に乗った偉そうなヤツにソフィーをケモノオンナと呼ばれ、マコトの表情が曇った。怒りを帯びた目になった。
だけどソフィーが軽い足取りでマコトに近付き肩に手を置いた。
「マコト、この中に一緒にメシを食いたいやつはいるか?」
「…いないね」
「じゃあ関わり合う必要もないな。空気がいい場所に行こう」
「あははっ。そうだったね」
「な、答えは簡単だろ」
マコトはソフィーが蔑まれ悲しい顔をするのが何より嫌だ。だから、そんな顔をソフィーもしない。
「貴様ら、この包囲網から抜け出せると思っておるのか」
怒号とともに、全員が抜刀した。同時にソフィーがミスリルホイルを出した。
「面白いモノを見せてやろう」
長さ30メートルのミスリルホイルを高速で自分とマコトの周りで回転させた。新体操のリボンのように、キレイに回った。
「逃がすな!」
高速回転中のホイルに次々と兵士が斬りかかった。だが、みんな大きく弾かれ転倒した。
「さてマコト、アンタが教えてくれたニンジュツ、なんて名だっけ」
「忍法雲隠れだね」
「それ、やってみよう」
笑いながら、2人はプレハブ避難した。ソフィーは努めてコミカルに振る舞った。
2人がいた場所には、煙を上げる炭を残した。
「煙とともに、何もかも消えた?」
指揮官だけが、探せとうるさい。
「マコト、偉そうな指揮官を驚かせたくないか?」
マコトは1センチまで小さくした極小スライム爆弾を馬の足元に出した。
検証の結果、魔力を込めたあとに衝撃を加えると爆発する。
馬がひづめで踏んだ。
ぱーーーん。爆竹のような音がした。驚いた馬が急に走り出し指揮官は背中から落馬した。
「ぐえっ…」
「ぷっ、潰れたカエルだぞ」「あははは」
マコトはプレハブ転移を利用して、その場を離れた。
◆
そろそろ夕方。
「あははは。ソフィーってでたらめだな」
「アンタもだろ」
「次は22階の卵をご飯に使おうと思うんだけど、どこに行ったら気分良く食べられるかな」
「マコト、近くにランク1ダンジョンがあるようだぞ」
「そこの前で駆け出し冒険者でも誘って食事にしようか」
「いいな。何でも美味しいって言って食べてくれる子がいるとメシが楽しいからな」
「よし、行こう」
ふたりは笑いながら、5キロほど歩いた。
そして、すっかりルーティーンになった行動を取った。30分ほどランク1ダンジョンの前で観察。
10人くらいの子供冒険者が一緒に、ご飯と野営の準備を始めようとしている。
ジョバンとアエラという16歳カップルがリーダーで最年少は8歳くらい。
盗み聞きした会話では全員が孤児か貧民街の子供。年長の男女2人が下の子の面倒を見ている。
一角牛のブロック肉を担いで、ソフィーがリーダー男子に声をかけた。
「おす。私達も今から晩飯だが材料が余ってる。一緒に食わんか」
笑顔でダイレクトにいくのがいつもの形。
リーダー男子はキレイな格好の2人と自分達を見比べた。
「え、えっと、俺達って返せるモノ持ってないよ」
「構わないよ。錬金で作った調味料の感想が欲しいんだ」
相手の返事も待たず、マコトがマイキッチンをエコバッグから出した。
「ソフィー、牛肉を薄切りにしてね」
「ん? 卵料理ではないのか」
「そこはお楽しみに~」
「料理の名前だけ教えてくれ」
「すき焼きっていうんだ」
ふふんと笑うマコトを見ながら、言われた通りに準備を始めるソフィー。
子供達の前でマコトが直径1メートルを越える大きな平鍋を出した。
平鍋に、大量の醤油、砂糖、赤ワイン、野菜を入れて煮込んで、一角牛の薄切り肉を次から次に投入。
ぐつぐつと音を立て、甘辛の湯気が立っている。
「さあ食え!」
ソフィーの号令とともに、子供達は各々の皿に肉を取って食べ始めた。
「美味しい」「お肉たくさ~ん」「お姉ちゃんありがとう」
今回も好評だ。
「さて大人用に、卵の出番だな」
マコトは魔鉄の玉で22階の卵を割って、軽く容器で溶いてからソフィーの器に入れた。卵の生食習慣がないソフィーは、さすがに戸惑っている。
「これが俺が一番好きな、すき焼きの食べ方」
「…マコトが生が最高というなら、信じるだけだな」
マコトが牛肉を卵に絡めた。持ち上げると醤油と黄金色の卵が混ざったしずくが垂れた。
ソフィーも真似をして牛肉全体を卵に絡めた。
せ~の、で同時に口に入れた。
ソフィーがぶるっと震えた。目をつぶって、天を仰いでいる。
「………うまっ」
「だね~。生卵と牛肉絡めるのって、どう?」
「日本人とは…偉大な民族なのだな」
猫目を細くしながら、ソフィーも子供達に負けないくらいにすき焼きを食べた。
「ソフィー、卵の上位ランクのやつがあるけど、どうしよう」
「もちろんマコトに任せるぞ」
「じゃあ、もっと上のランクの肉とか食材、それから調味料が手に入ったら使うこと考えようか」
「おお、いいな。旅の楽しみが広がるぞ」
肉は全員が腹一杯食べても、50キロくらい余った。
子供冒険者によると、年長者2人は損得抜きで子供の面倒を見ている。ジョバンとアエラは、自分達も孤児の先輩お陰で生きてこれたから、次の子供を助けているという。
販売用の燻製肉を作れるというし役立ててくれと、追加で一角牛のブロック肉100キロを渡してソフィー&マコトは去った。
「マコトの言うとおり、ろくでもないヤツに会ったあとは、いい子と会えるんだな」
「だね」
今日も美味しいビールで乾杯できた。




