57 自在鞭とイカソーメン
マコト&ソフィーは、イタリアン王国に不法入国した。
国境の検問所が一時的に閉じていたし、大騒ぎになっていた。
混乱収まりそうにないし、海側に行って岩だらけの地形を利用してプレハブ転移の連続。無事にイタリアンに入った。
次の目的地は南北に細長い国土の西海岸に沿って南へ300キロ。古くから栄えてきた王都ローマン。
食材なども探す。大豆、小豆、ショウガ、ゴマなどの情報もマコトは知りたい。
それらは前の世界では世界各地に古くからあったと思っていた。少なくとも異世界のナーロッパ地方にはないから、異世界にそれ自体があるのか探りたい。
また、ソフィーのことを探っている貴族がいるけれど、情報の精度は低い世界。
しばらく暗黒大陸アフリカ、アジア辺りを回って帰ってきた頃には、列強国の主導権争いも変わると思っている。
政治家の入れ替わりでもあれば、手配していることも忘れるだろうと楽観的なことを考えている。
◆◆
気楽だから、ふたりは観光気分だ。
イタリアン入国後はまず、海岸線を歩いている。途中から山に登ってサルターニア温泉に立ち寄る。ソフィーも1回行っていて、白い岩と青みがかった温泉が美しかったそうだ。
マコトの知識からいくと、白い石は石灰岩。当然ながら硫黄もあるだろうし、スライム練金に使ってみたい。
ところで海岸線を歩きながら、ソフィーが新しい武器を完成させた。
マコトが使おうと思っていた魔力親和性抜群のミスリスホイルだ。
ソフィーの元仲間を脅した時に薄いシルク状のホイルに魔力を込めて硬化させ全体を鋭利な刃物にした。
彼女も真似すると、マコトが目指す理想型になった。あっさりと。
海に近い林の中で長さ30メートルのミスリルホイル全体に強さの濃淡を付け、魔力を込めた。
するとホイルは木々の間をすり抜けて銀色のヘビのように先に進んだ。持ち手部分はくるくる巻いてグリップにしている。
端をつまんで持っているマコトと比べて格段に持ちやすそうだ。
タイミングよく20メートル先に角ウサギが出現。ミスリルホイルの先端を硬くして刺殺。
最後は角ウサギを巻き取って、マコトの元に運んできた。
「角ウサギは缶ビール21本分だな」
角ウサギの魔石エネルギーが2dで物資4キロ製作可能。380グラムの缶ビールが21本できる。ソフィー流の計算式だ。
マコトが魔力操作を勉強し、1年くらいかけて完成させようと思っていた「自在鞭」が出来上がった。
魔力操作に慣れた現地人とはいえ、ソフィーの手によって所用時間3分で完成した。
「おお~、マコトがくれたミスリルホイルはすごいな。攻防一体で中距離攻撃までできるぞ」
新体操のリボン競技のように、自分の周りにミスリルホイルを回転させながら笑っている。
収納腕輪に誘導し、吸い込ませるように収納した。
「ソフィー、格好いいな…だけど」
ソフィーはやはり天才だと思うと同時に、何か釈然としないマコトだ。
今度は岩場だらけの海岸線の方に行って、海中を見ている。ソフィーの瞳が縦になっている。
「そこだ!」
ミスリルホイルを高速で海中に滑らせると何かを巻き取った。
「普通の魚には逃げられたがイカが手に入った。便利だな」
「スルメイカだな。こりゃ美味そうだ」
「こいつの料理方法は日本にもあったか?」
「もちろん!」
ソフィーに5匹捕まえてもらい、1匹を複製用に保存した。ちなみにソフィーの属性は水。海中でミスリルホイルを動かす方が空中より楽だそうだ。
まず2匹が生食用だ。
2匹はソフィーが内臓を取って切り分けた。マコトが天ぷら粉、中華香味ペーストに唐辛子を混ぜたものを用意した。
油とフライパンもセット。
「さあ、新鮮なイカ料理は時間との勝負だ。生かしてた2匹の身を細~く切ってね」
「分かった」
マコトは1匹分のスルメイカに天ぷら粉をまぶし油に投入。揚がると同時に空間収納。
続いて唐辛子入り香味ペースト、セロリに似た異世界野菜と一緒に1匹を炒めた。
「切り終わったぞマコト」
「こっちもできた」
大きな皿を2枚出して、熱を通した料理を盛った。
細く切った生のイカは自作した木のお椀に入れ、さっと醤油だけかけた。
イカソーメン、イカの天ぷら、イカのピリ辛中華炒めが出来上がった。
「まず少しの醤油だけでイカソーメンを食べてみて」
ふたりで、まだ透明なイカソーメンをすすった。やっぱり異世界の魚はうまい。こいつに限って薬味は余計だ。
「はあ~、つるんとした初めての食感。こりこりして甘~い」
ちゅるる~と吸っているソフィー。
続いてイカの天ぷら。
「これも美味そうだ、さて」
「慌てない。こっちの一口目は、塩だけで試してほしいな。そんでお伴はもちろんこれ」
ビールを出してスタンバイ。
ソフィーから食べてもらった。
「サクッとした歯ごたえ、次が弾力、イカの甘みが口に広がる~」
マコトも塩多めで天ぷらを食べて、ビールを飲んだ。
「~~っ、か~」ふたりでハモった。
「イカって流通してる?」
「基本はカラカラに干して水分を飛ばした保存食だ。大してうまくない」
「そうか。冷凍技術がないと、たちまち生臭くなるもんね」
「日本の手法を使うと激ウマになるのだな」
「でしょ。特にイカソーメンは生きたままが最高。この味は複製品じゃ出せない。捕まえた人間の特権だね」
ピリ辛のイカを食べ、ビールを飲みながら話している。西側の海の方に日が沈み始め、周囲はあかね色に染まった。
国境を越えて4日目。昨日までは野営地で知り合った人達と宴会みたいな夜を過ごした。
今日は2人きりで言葉少なく夕日を見ている。
どっちも楽しい。
マコトは自分の異世界転移に幸せを感じながら、ビールを口にした。




