53 100グラム8000ゴールドの異世界牛と100グラム862円の和牛
久しぶりのダンジョン壁抜けをやって、便利だなと思うマコト。
◇以下、ソフィー視点。
この世界で絶対不可能と言われていることをマコトは簡単にやってのけた。
「にゃ、にゃにをしたマコト」
動揺しすぎて、人間体なのに瞳が縦になってるだろう。そこはいいとして、目の前に一本角の牛がいる。
大型の一角牛はダンジョン26階から29階に生息。レベル帯は私の29より高い31から35。
突進してきた一角牛に対して身構えた。ジャージの下にはミスリルボディースーツを着てる。追突されても大丈夫なはずだ。
だけど、私の肩に手を当てたマコトが「プレハブ避難」と唱えた。
瞬時にいつものプレハブ小屋に入れた。
マコトが天井を透明化して私の手を引いて、私達がいなくなって戸惑う一角牛の斜め後ろ位置に動いた。
「今から外に出るから、これを牛の頭にたたきつけて」
エコバッグに小さな金属の玉を入れて渡された。持ってみると予想の3段階も上の重さ。
金属の直径は8センチくらいなのに20キロもあるそうだ。
外に出て、一角牛が気付く前にエコバッグの縦フルスイング。
「べき、ごき」
鉄の剣では折れない角が弾け飛び、体高160センチ体重400キロの牛の頭が地面にたたきつけられた。
「な、な、なんだマコト、この金属は」
「硬いだけの、アダマンタイトって金属20キロ」
「………は?」
「あ、最近は砥石とかで活用してるよ」
魔物1匹の討伐で、レベルが一気に29から32まで上がった。そこから考えると一角牛のレベルは35。場所は29階だ。
「マコト、私は去年4人パーティーで試行錯誤しながら半年で22階に到達したのだぞ。なぜ今回は30分で29階にいるのだ」
「それよか、400キロの有機素材と魔石エネルギー20dが手に入った。次に行こう」
さらっと流された。彼にとっては大したことではないらしい。
獲物探しをする道すがら、アダマンタイトを手に入れた経緯を聞いた。
ランク5ダンジョンに入って、アダマンタイトだけ取ってきた?
やっぱりマコトは常識の外にいる。
このダンジョンの29階を狩り場にする冒険者は少ない。ここだけは一角牛が単独で現れると限らないからだ。
2度目のエンカウントは最初と同じ一角牛が3匹現れた。これが厄介。けれどマコトは笑った。
「ラッキー、合計1200キロの有機材料だ」
マコトは日本から持ち込んだ至高の食べ物・魚肉ソーセージ2本を出すと、3匹の魔物に向かって投げた。
「ああっ、勿体ない!」
叫ぶ私の目の前で、一角牛はソーセージを取り合って血みどろの争いを始めた。
魚肉ソーセージとは底知れぬ力を持っているのだな。
10分後、傷だらけになった獲物3匹にトドメを刺した。
それをあと6回繰り返した。400キロの一角牛は合計18匹。
たくさんの肉と魔石エネルギーを無傷で増やせた。
ダンジョンに入って8時間後、最下層への下り階段を見つけマコトと降りた。
ダンジョンボスの部屋にはラフランス南部で最高級の肉と名高いフランソワバッファロー。レベル40で700キロあり、レベル36のバッファロー2匹を従えている。
「高級食材か。コイツだけキレイに倒そうか」
言うなり、プレハブ避難↓バックアタックでまずバッファロー2匹の腹をサクサク。
ボスの目の前に30本の魚肉ソーセージを投げて、私を小屋から出した。
「さ、今のうちにボスに攻撃して」
こちらには目もくれず魚肉ソーセージをむさぼるボスの頭に、アダマンタイトの玉を力いっぱいに投げつけた。
昏倒したボスにトドメを刺した。
マコトが獲物を回収。わずか8時間23分でランク2ダンジョンを攻略してしまった。
『カクセイユダンジョン最速攻略者』
以前はあこがれていたダンジョンの称号をもらい、特典のミスリルソード2本が出てきた。
マコトのスキルを見たあとだから、大して感動はない。
◆◆
せっかくだから2人でダンジョンボスを担いで出ようと、マコトが言い出した。
「私を獣人混じりと知ってるやつに絡まれるぞ」
「いざとなったらプレハブ避難。ソフィーを追放した奴らがいたら、惜しい人材を手放したって悔しがらせようよ」
「はは。でたらめだな」
「でしょ~。他人に干渉したくないけど、ソフィーに嫌な思いさせたやつは別だからね」
ボス戦の経験値を丸々貰った私はレベルが37まで上がった。マコトは35だそうだ。
時間的には正午をいくらか過ぎた頃。
冒険者、肉を買い付けに来た商人が騒然となった。
周囲を見ると、獲物が捕れなかった低位冒険者が10人くらい固まっていた。
「マコト、アイツらに獲物の解体作業を頼んでいいか」
マコトは笑顔で答えてくれた。
「ついでにボスの実食しようか」
15歳くらいの男女10人に仕事としてダンジョンボスの解体を頼むと、喜んで引き受けてくれた。
ダンジョンから少し離れた木の枝に牛を吊して作業開始。
ステーキ肉を取り分けて貰い、マコトと2人で焼きまくった。
マコトが作ってくれたシャリアピンソースは美味かったし、肉は美食家をうならせたというだけのことはある。
解体を頼んだ10人も夢中で食っていた。
ただ………言いにくいことがある。
食後、解体作業の報酬にダンジョンボスの素材と肉の大半を渡した。
夕方になり、人がいない林の方に移動して、夕日を見ながら街で買ったワインを飲んでいた。
つまみはダンジョンボスの肉の中でも最高級のヒレ肉ステーキ。相場は100グラム8000ゴールド。
「ソフィー、これと食べ比べしようか」
マコトが出してくれたのは、昨日のステーキ丼の余り。100グラムが日本のエンという単位で862エンだそうだ。
ぱくっ、といかせてもらった。
なんだか顔の表情筋が緩んだ。
「うま~」
「やっぱりか…」
呟いたマコトも、私と同じ感想。日本から持ち込んだ肉の方が美味しかった。
それほどの肉なのに異世界日本には、まだ上があるらしい。
「ランクが3とか4ダンジョンなら、日本の肉を越えるやつがあるかな~。旅の楽しみが増えたな~」
とんでもないことを軽く言うマコトだけど、あの能力があれば可能だろう。
笑ってると、私を追放したパーティーのメンバーが本当に現れた。
何となく察したマコトが私より先に立ち上がった。




