42 お椀の形と魚肉ソーセージ
マコトはギリギリでソフィーを助けられた。
左腕に大怪我を負って寝ていたけど、1時間で起きた。
4つの力の相乗効果。回復力が跳ね上がる完全獣化、高ランクポーション、ポーション風呂。ラストは雑菌対策で飲まされたペニシリン系の抗生剤。
子猫化は一応、獣人の究極フォーム・完全獣化。ソフィーの場合は防御系のステータスが跳ね上がる。
それでも、前にフォレストウルフと戦って太ももを裂かれた時は傷も膿んだ。完全獣化の回復力を持ってしても2日間は人間に戻れなかった。
だからソフィー自身が今回の回復の早さに驚いている。
後日、自分に使ってもらったポーションの質と量を聞いて、違った意味で驚くことになる。
獣化を解くときも少し光った。生後4か月の子猫が2~3秒で身長170センチのソフィーに変身して立っていた。
マコトは、これぞファンタジーだと思った。
「ありがとうマコト。お陰で命拾いしたぞ」
その姿を見て、マコトは固まった。
子猫化したあとソフィーは服から抜け出た。
今はその逆。脱いだ服が自動装着されるはずはなく、見事なまでの裸だ。
マコトはガン見している。ソフィーはマコトの視線の先にある、自分の股間に目をやった。
「うひゃあああ!」
「………ラッキー」
ソフィーが前を隠す前に見てしまった。お椀型の見事なDカップ、引き締まった腰と太もも。その間の三角地帯に濃く繁ったナニカ。
◆
数少ないお色気シーンは終了。ソフィーの無事を祈りながら待っているケビンとマリアの所に帰らねばならない。
すでに崖の上から離れ、ケビン達がいる廃屋長屋の近くに移動していた。向こうから2人が走って来るのが見えた。
ソフィーが眠っている間に、マコトがプレハブ利用から崖の岩に張り付いて上に登った。
小屋から出されたソフィーは「ここはどこ?」と言った。マコトは落ち着いたら必ず説明すると約束した。
気丈に振まっていたソフィーだけど、血を流しすぎた。
ふらついてしまい、マコトに支えてもらってケビン達と再会した。
「ソフィー姉ちゃん、大丈夫なのか?」
「はは…。見ての通り満身創痍。一度は捕まったけど、マコトが奴隷狩りどもを蹴散らして助けてくれた」
「5人もいたよね。やっぱりマコトさんって、強かったんだ…」
「ああ。私の比じゃなかった」
「ありがとうマコトさん。ところで、姉ちゃんの種族が、その…」
マコトは2人に向かって、にっこりと笑った。
「獣化するとこも見せてもらった。だけどソフィーはソフィーだよ」
「見たんだ。あの姿」
「2人も見たことあるんだ…」
ソフィーはバレててビックリだけど、ケビンとマリアは知っていた。
マコト並に迂闊。意外とお似合いかもしれない。
ケビンとマリアは小さい頃、ソフィーと森に入ってゴブリンに遭遇した。その時、守ってくれたソフィーが怪我を負った。
本人は意識朦朧となって覚えていないけど倒れて猫化。2人は、その姿を見ている。
「その4年後、スモールボアと戦ってくれて、その時は瞳が縦になってた」
「そうか…見て知ってたのか。気持ち悪くなかったか?」
「俺らのこと必死に守ってくれた姉ちゃんを嫌う訳ないだろ」
ソフィーが涙ぐんでいる。マコトはモロに泣いている。
◆◆
ソフィーを狙う奴隷狩りが、あの5人だけとは限らない。
予定を前倒ししてボルビックの街に向かうことになった。荷物はマコトが収納して全員が身軽だ。
ソフィーは歩かせられない。マコト、ケビン、マリアの前なら大丈夫と子猫化させた。
マコトがリュックを前にかけ、中にタオルを敷き詰めて、そこに寝かせた。
「にゃにゃ~」
(すまにゃいマコト)
「気にするなよ。それより揺れて傷に響いたりしない?」
「にゃんにゃ~」
(タオルふわふわ、快適だにょ~)
「ホントにマコトさんと猫姉ちゃんと会話してるよ」
「まあ、2人でにゃん、にゃんって言ってるだけにも聞こえるけどね…」
この場合、マコトが猫語を話している。そういう仕様だ。
◆
一角を借りて野営する予定の村には、日が陰る前に着いた。
やっと一息ついた。
「さて、メシの用意するか」
マコトは、こんな日だから異世界人を虜にしている『アレ』のフルコースを出した。
「にゃにゃ」
(マコト、これもアンタが作ったにゃ?)
「いいにおい~」
「これもマコトさんの錬金術で作ったんですね」
刺し身、揚げ物、焼き物の3点セット。
日本人から見たら「う~ん」と言われそうな魚肉ソーセージのフルコースだ。
包装から出し、斜めにスライスしただけの魚肉ソーセージ。それを刺し身と言い張って猫ソフィーに食べさせた。
「にゃ~~~ん」
(うんみゃ~~~い)
揚げ物を食べたマリア、マヨ乗せ焼きソーセージを食べたケビンも放心状態。
「……すごい」
「こんな食べ物があったんだ」
ソフィーは無理して人間体に戻り、この姿でも味わいたいと言った。
ソフィーは無傷な右手に缶ビールを持った。揚げソーセージは、傷が癒えない左手に持った。ぷるぷるしながらも、すごい執念を見せた。
ぱくっ、はぐはぐとして、ぐびぐびぐび~。
「……うますぎ。幸せ…」
マコトの横でにゃんこのように目を細め、にんまりと笑った。
ソフィーの最高の笑顔を取り戻せて、マコトの胸も温かくなった。
ただ、魚肉ソーセージを食べた時のソフィーは、マコトが頑張って作った料理を食べた時よりも数段いい笑顔だった。
異世界に来て、魚肉ソーセージには何度も世話になってきた。だけど今回は敗北感の方が大きい。
「世界中を旅して、魚肉ソーセージを越える食材を見つけてやる」
子猫に戻ったソフィーを膝に乗せ、流れ星に誓うマコトだった。




