41 にゃんこと言語理解の指輪
マコトは崖から落ちたソフィーを救った。
その流れでプレハブ小屋に初めて人を招待した。何が起こったか説明をする前に、ソフィーの怪我の治療をせねばならない。
ソフィーの左腕には矢が刺さったままだった。
マコトがプレハブ小屋に念じたのは、とにかく『奴隷狩り以外は何でも入れてくれ』だった。
すると、ソフィーだけだなく、左腕に刺さった矢、上半身に纏わり付いた捕縛用の網もプレハブ小屋に入ってきた。
「マコト、ここは一体…」
「ソフィー説明はあとだ。まず怪我をどうにかする」
いつの間にか、お互いを呼び捨てにしている。いや、今はそれどころではない。
ソフィーの左肘から上10センチ。後ろから前に突き抜けた鏃には、ギザギザの返しが付いていている。引き抜くとソフィーの腕の肉がずたずたになる。
だから、こんな時こそマコトのスキルが真価を発揮する。
矢に手を添えて「収納」。すると矢だけが消えた。網にも同じ事をした。
一瞬驚いたあと、ソフィーはうめいた。
「ぐ、ぐううう」
矢は取り除いたけれど、ソフィーの腕に穴が空いたまま。そこがいきなり収縮して傷口を絞られたような痛みが走った。
傷口の穴から血が流れてきた。
幸いに風呂のレベルが上がり、浴槽を薬湯で満たせる。ハイポーションもマコトが持っている。
ぐったりしたソフィーを抱え、服のまま薬湯風呂に入れた。口からハイポーションを飲ませた。
マコトは雑菌が残らないようにソフィーの傷口を薬湯で洗った。
激痛のあまり魔力が漏れてソフィーの瞳が縦に細くなった。そして言った。
「マ、マコト、私はこれから変身する。そうすると防御力、回復力が上がるんだ。だけど獣になる。そんな姿、見ないでくれ」
「いや、構わない」
「う、ううーっ」
一瞬だけソフィーの体が光ると、体のサイズが変わった。
「え……」
マコトは驚いた。
しなやかで大柄な肢体を持つソフィーの完全獣化だ。ピューマか女豹になると思った。違った。
小さくなっている。
毛並みはソフィーの銀髪を少し暗くしたアッシュグレー。生後4か月の愛くるしい子猫になっている。
マコトの実家近くにいた、目がぱっちりとしたアメリカンショートヘアみたいだ。
服から抜け落ち、薬湯風呂で溺れそうになった猫ソフィーをマコトは手で支えた。
左腕、いや左の前足と言うべきなのか、それはどちらでもいい。見ると人間ソフィーと同じ位置に傷がある。
血は豊富なポーション摂取効果なのか、ほとんど出なくなった。
マコトは落ち着いて猫ソフィーを見た。
「こっちのソフィーも、むっちゃ可愛い…」
マコトからしたら、いい意味で予想を裏切られた。
にんまりしたマコトの腕を猫ソフィーが無事な方の前足でぺしぺししてくる。
「にゃ~、にゃ、にゃ、にゃ」
(完全獣化は本来、強くたくましくなるのにゃ。可愛いとかいらないにゃ。この姿になるとステータスが防御力、回復力に全振りされるのにゃ)
「攻撃力は?」
「にゃにゃ」
(人間の子供以下にゃ、それに弱ってる間は人間の姿に戻れないにゃ)
「いずれは戻れるんだな。あ~良かった。安心した」
「にゃにゃにゃ」
(そもそも、ここはどこにゃ)
「俺のスキルの中だよ。ようこそ我が家へ」
「にゃん……、にゃ、にゃにゃご、にゃにゃ?」
(あ、お邪魔してます………て、マコト、あんた今の私の言葉が分かるにゃ?)
「え? 普通に分かるけど…あ、そうか」
プレハブ小屋を貰った時に手に入れた言語理解の指輪のお陰だ。
魔物や動物相手では指輪の機能は働かなかったけど、獣人はあくまでも人。
猫化しても思い切り作動した。
子猫ソフィーによると完全獣化した獣人は、同種族でも会話不可能だそうだ。
「あとで説明することが増えたな。ま、今は傷を治しなよ」
風呂から出して猫ソフィーに包帯を巻いた。タオルにくるんで布団の上に置くと、さすがに疲れ切った猫ソフィーは目を閉じた。
「ソフィー、俺達、お互いに大きな秘密を知ることになったね」
猫ソフィーの耳元でマコトはささやいた。
「一緒に旅に出ようよ。新しい食材を見つけたらソフィーに食べて欲しい。ソフィーの笑顔をもっと見たい。なにより……ソフィー自身が好きだよ」
ソフィーはまだ起きてる。顔が真っ赤だけど、猫だから毛のせいで分からない。
◇◇ソフィー◇◇
私には獣人の血が流れてる。
直感スキルも、その血からきてると思うけど基本的に人のために使ってきた。
お陰で人に嫌われないけど、しばらく人と付き合うと私の異質さに気付く。
獣人の血が少しでも混じっていると判断されると迫害の対象。他人とは距離を置いてきた。
私のルーツを感じても普通に接してくれる孤児院のシスター、ケビン&マリアとしか深く関わらなかった。
それなのに失敗した。
孤児院を出て冒険者になった。やがて男女2人ずつのパーティーを組んで、片方の男と仲良くなった。
好意を寄せてくれるから心に迷いが出た矢先、その男が大イノシシに襲われた。
必死に助けたけど怪我を負った。すると防御本能が働いて獣化してしまった。
そしたら、よりによってそいつが私にパーティー追放を言い渡してきた。きっと奴隷狩りに情報を流したのもあいつだ。
逃げる気だったけど、なぜか直感スキルが働いて、追っ手が迫る可能性があるのにボルドー銀山に行くべきだと感じた。
銀山では他人に関わらないように過ごそうと思ったのに、廃坑に入った男の子を助けなければと感じて走った。
それがマコトとの出会い。
マコトは、美味しい物を食べさせてくれた。
ブサイクな私を可愛いと褒めてくれた。
命懸けで助けてくれた。
大きな秘密も見せてくれた。
獣人混じりだと知ったのに、一緒に旅しようと言ってくれた。
目が覚めたら何もかも夢で、厳しい現実が待っているだけかもしれない。
だけど、それでもいい。




