38 招待延期とホットケーキ
マコトが異世界で好きになったソフィーは、猫獣人の血が混じっていた。
獣人はラフランス王国だけでなく、ナーロッパ地方において迫害対象になる。
だから彼女は、マコトや孤児院のシスター、孤児の弟妹に迷惑かけないように遠くに去る決意をしていた。
マコトは彼女の決意を知っても、一瞬たりとも迷わなかった。再びソフィーに一緒に旅立とうと申し出た。
「ソフィーさん、俺のこと嫌いですか?」
「いや…そんなことはない」
「それなら新天地が見つかるまででもいい。俺の食材や素材探しの旅に付き合って下さい」
「私…マコト君と初めて会ったときに何かを感じた。普通の人間だったら二つ返事でOKしてる。でも…」
マコトは嫌われていないなら、何とかできると思った。
「無理なんだよ。奴隷狩りは残酷だし、国中の色んな所にいる」
「それは大丈夫です」
「なぜ、そんなに言い切れるんだ?」
「俺はポルペインで貴族に追われても軽く逃げてきました。回避する術がありますから」
「今から…」、スキルを見せると言いかけて、口を閉じた。
マコトよ、お前は困っている。
マコトは今、ソフィーをプレハブ小屋に招待するときかと思った。しかし、延期にした。
自分の問題だ。
なんというか、プレハブ小屋の中全体が汚い。汚部屋なのだ。
現在は小屋を8個繋いでいる。8部屋もあるのに全部がすごいことになっている。嵩張る物を床に並べている。
まず自分の未抽出鉱石棒が、ミスリル銀入りで1部屋。ミスリル銀抽出後の別鉱石入り1部屋。
ガラスの材料になる砂と出がらし鉱石で1部屋。自分の金属複製品を置くのに1部屋で計4部屋が埋まった。
ソフィー用。預かった鉱石と出来上がった複製品を置くのに1部屋。
ベッドと着替えで1部屋。鉱石複製のために空間収納を空けるため、腐らない物資を出している。そのために1部屋を使った。
これで7部屋だ。
最後、入り口になる部屋にはキッチン、冷蔵庫、トイレ、風呂をまとめ、そこにテーブルと椅子も置いてぎちぎち。
疑似転移に使えるように、各部屋に通路の分だけ道を作っている。
今朝見たときは泥も散らばり廃工場のようだった。プラスして魔鉄複製の関係から、ナイフだらけで猟奇的でもある。
マコトはいざという時、ソフィーをプレハブ小屋に避難させられると教えたい。
だけど今に限って小屋の中は、好きな女を呼べる場所ではない。
そんな、しょうもない理由だけど…。
近いうちにスキルを披露すると言って、自宅招待は延期にした。
けれど気持ちは伝わった。帰り道、マコトはソフィーと手を繋いだ。向こうも握り返した。
「マコト君は猫混じりの私なんかに優しいな…」
「相手がソフィーさんだからですよ」
「そうやって女を口説いてきたのか?」
「ソフィーさんが初めてです」
「何がいいんだ、こんな猫みたいな顔の女」
「その…猫っぽい顔の女の人って好きなんです」
「マコト君、アンタって…」
ソフィーは顔を真っ赤にして帰りの川沿いを歩いている。
マコト、肉体年齢15歳。本当の年齢は33歳。どうやら初恋である。
◆
ソフィーの返事、マコトの自宅招待は保留だけど、距離は縮まった。
次の日の朝。
早起きしたマコトは長屋の炊事場に出て朝ご飯の準備をしていた。するとソフィーが起きてきた。
「お、おはようマコト君」
「…おはようございます」
マコトの気持ちは伝えたも同然で、なにか気恥ずかしい。
ソフィーも同じで、何か話題を探してマコトが作っているものに目を向けた。
「何を作ってる。水に溶いているのは麦の粉か」
「そうですけど、新しい練金で作った物も入ってますよ」
「へえ~楽しみだね」
マコトはドライイーストが複製できたから、前の晩に溶いた小麦粉に混ぜて仕込んでいた。
程よく膨らんだ。
木のボウルに入れて砂糖、バター、牛乳、塩少々を加えてかき混ぜる。
砂糖と塩以外は異世界原産の複製品だ。
ソフィーが楽しそうに見ていてくれる。
そのときにケビンとマリアが起きてきた。
材料を混ぜ終わった。底が平たい鍋で焼いて、次々と木皿に盛っていく。
粉のせいなのか固めだけど、ホットケーキ風だ。
3人がめったに嗅いだことがない甘い匂い。マコトの手元をガン見している。
ひと皿に3枚のホットケーキを重ね、複製ハチミツをたっぷりかけた。四角く切った複製バターをオン。
縁には薄切りにした複製リンゴ。追加で皿の隅にプリンを添えて、マコト特製ホットケーキが完成した。
「どんどん食べて下さい。次を焼きますよ~」
ソフィーが最初にパクッといった。ぶるっと震えて顔を振っている。
「ふわふわ~。すごく美味し~」
贅沢な日本人のマコトからすればカチカチだけど、異世界人には驚きの柔らかさだった。
マリアとケビンがマコトの横で小声で言った。
「ソフィー姉ちゃん、ホントに幸せそうだね」
「マコトさんと会ってから明るくなったよな」
◆
「マコトさん、これってパンなのにフワフワなんですね」
「錬金術で作った「膨らむ粉」を入れてるんだよ」
「へえ~すごい」
「膨らむ粉は、きちんと管理すれば増やして使い続けられますよ」
「練金ってすごいな」
「柔らかなパンを作り続ける方法を伝授します。街の孤児院で美味しく作れたら、売りにするのもいいでしょう」
「え、それができるなら孤児院のシスターにも楽させられるぞ。いいのか?」
「ええ、膨らむ粉の完成の決め手は、ソフィーさんが探してくれたミスリル銀ですからね」
マコトの知識ではドライイーストは果物を使って増殖できる。
それを街に帰ったら試してもらう。
「マコト君が、その膨らむ粉の増やし方を教えてくれるのか?」
「いいえ、僕もそこまで暇ではないので」
そこは拒否した。意地悪ではない。
「今日から教えるんで、孤児院に帰ってソフィーさんが講師をして下さい」
「え……私は…、もう…」
「勝手にいなくなったら、話は消えます。一緒に行きましょうね」
マコトはにっこり笑った。
「…分かった。まだしばらく、よろしくな」
こう言っておけば、ソフィーもいきなり消えたりできない。
黙っていなくなる選択肢を取ってほしくないから、考えたマコトだ。




