33 缶ビール複製と肉じゃが
マコトはボルドー銀山の廃坑探索初日、早くもミスリル銀が多く含まれた鉱石を手に入れた。
最初の廃坑は不発だったが、冒険者ソフィーとの出会いが流れを変えた。
彼女の直感スキルに従った結果、2番目の廃坑で成果が出た。これで手持ちの物資全部が複製可能になった。
30グラムのビール缶はもちろん、アルミ包装の薬品類、マヨネーズ、ワサビ、香味ペースト、七味唐辛子。
ドライイースト、重曹、ポテチも複製OK。
この廃坑の鉱石にはミスリル銀の含有量が多いようで、初日にして200グラムのアルミホイルも複製可能となった。
マコトはミスリル銀のホイルを、ミスリルホイルと呼ぶことにした。
鉱脈を調べていくと、採掘した鉱石だけで数キロのミスリル銀を含んでいた。ビール缶、ポテチが山のように作れる。
1回の複製にかかる時間は8時間。いきなりは物資が増えない。
今日から3日間くらいは材料の鉱石集めだけど、やり甲斐がある。
普通の銀、鉄、銅、魔鋼、魔鉄の塊も複製可能になった。鉄は刃渡り70センチの分厚い剣、ナイフ、鉄鍋の複製を始めた。
武器と防具の材料として人気が高い魔鉄が特に多い。これは常に需要がある。手持ちの魔鉄ナイフ1本と20キロの球体、両方を複製し始めた。
普通の銀は1キロの碁石みたいなやつを増やしていく。
夕方には廃坑を出た。岩の中を奥に潜るほどキラキラの金属が増えていたから、まずまずのミスリル銀脈がありそうなムード。
このために魔石エネルギーを800dストックしている。
◆
廃棄長屋の前に行くと、ソフィー、ケビン、マリアも帰ってきていた。
ケビン、マリアの14歳男女は、モロにヨーロピアンな美男美女だ。
3人はダンジョンからの帰りに水浴びしたそうで、さっぱりとしていた。
改めて顔を見ると、鉱山事務所前で見た人達のように、ギラついた感じではない。
「マコト君。今日はダンジョン11階にリザード類がいたから魔石も4つ拾えたぞ」
見ると、3人は簡易なカマドを使って夕飯の準備をしようとしていた。
そして手ぶらのマコトに言った。
「メシの用意はまだだろ。大したもんないけど食っていきなよ」
「え、いいんですか?」
「お昼のお礼ですよ」
「そうだよ。食べていってよ」
マコトは嬉しくなった。だから用意していた夕飯を出すことにした。
「俺の食事は完成してますから、そっちをどうぞ」
「へ?何も持ってないよな?」
「実は俺、錬金術師なんです」
錬金術師と何の関係があると言いたいが、例によって物理法則を無視してエコバッグから鍋を出した。
すでに火が付いたカマドの上に乗っていて、ぐつぐつと煮えている。
タマネギ、ジャガイモ、ニンジンの皮をむいて、適当な大きさにカット。大きな鍋で牛肉と煮込んだ。
醤油と砂糖、海で拾った昆布を少々。みりん代わりにマドリーで買った蜂蜜酒も投入。
3人とも体格はいい。牛の薄切り肉を大量に追加した。
肉じゃがだ。
3人が用意しようとしていたのは、こっちの世界の標準的な食事。固いライ麦パンに、野菜スープ。
プラスメインディッシュの串焼きリザード。基本は塩味だ。
それに比べるとマコトの肉じゃがは刺激的な匂いがする。
砂糖や醤油で味も濃く、新鮮な肉も入っている。
ソフィーはもちろん、ケビン、マリアの14歳コンビも肉じゃがをガン見している。
「さあ、食べてみて下さい」
「え、いいのか」
「ほんと?」
「おいしそう」
◆
肉を口に入れたソフィーは無防備な顔で放心状態。
「これ、うみゃい…」
「だねソフィー姉ちゃん。お肉も美味しい」
「スープもすごいよ」
「あはは、喜んでもらえて良かったです」
マコトも食べたが、「代用みりん」の蜂蜜酒が日本人には微妙。逆に現地人の3人にはいいアクセントになるようだ。
ソフィーのために少しストックした。
昼に続いて身の上話を聞いた。
ケビンが廃坑で稼ぎたい理由を教えてくれた。
彼等が育った孤児院のためだ。
ボルビックは地球のフランスみたいな地形をしたラフランス王国の、南回りの交易の要。街に余裕がある人が多く孤児院の経営状態も悪くない。
しかし今年は病気が流行った。運悪く、孤児院の子供12人のうち5人が罹患してしまった。
薬は売っているが何度かの服用が必要で金がかかる。
ケビンとマリアは本来なら孤児院を来年出る予定だった。仕事も決まっているけど働くのは5か月後。
けれど孤児院を早く出ることで自分達の食い扶持を減らした。
2人が何をやって食いつなごうかと考えているとき、街に戻ってきた冒険者ソフィーと合流。2人はソフィーにアシストしてもらい、生活費を稼いでいる。
多く稼げたら孤児院への寄付も考えている。
マコトはというと…
「うん、偉いよ、みんな優しいな。俺の目に狂いはなかった」
簡単に情にほだされ、涙ぐんでいる。
「ソフィーさん、優しいんですね」
「そうだよ。ソフィー姉ちゃんは別の街から駆けつけてくれたんだ」
「いやあ…。冒険者パーティーから追い出されて、たまたま街に帰ったとこで…」
「そんなこと言っても姉ちゃんって、困った人がいたら見過ごせないんだ」
「…そうか。見た目通りで心もキレイなんだ」
「え? なに言ってんだよマコト君。顔も猫みたいでブサイクだし、恥ずかしいこと口に出すなよ」
正統派の美形が多いラフランスではソフィーは美人ではないらしい。
マコトは出会った異世界人では、1番可愛いと思っている。
「姉ちゃん照れてる」
「あはは」
「マコトさん、姉ちゃんって可愛いと思う?」
「もちろん」
「だから、やめてくれって!」
マコトのプレハブ小屋の能力があれば金目の物を作れる。ソフィーにお礼はできそうだ。
◆
「ごちそうさん。マコト君、ところで錬金術で何作るんだ」
「じゃあ早速、今もらった魔石で…。整いました!」
エコバッグから、紙コップに入れた杏仁豆腐を出した。
マコトが先に食べると、マリアが続いてスプーンで杏仁豆腐を口に入れた。
「あ、まーい」
「まじか、どれ私も…あまい、うまいぞっ」
「俺も!」
孤独な作業が続くと思って来たボルドー銀山だけど、楽しく過ごせそうな予感がする。




