32 カツカレーと当たり廃坑
ボルドー銀山に来たマコトは、半日で強盗に狙われて助けられた。
助けてくれたのは女冒険者のソフィー。
彼女は孤児院出身で、一緒に育った血の繋がらない弟妹のアシストをするため、2か月近く前からボルドー銀山に来ているそうだ。
活動区域は近くにあるランク2ダンジョンがメイン。ソフィーの直感が働いたとき、何度か廃坑に入っている。
仮の住処は廃坑群からさらに離れた場所にある、森の近くに残った廃棄長屋の一角。井戸、広場もあった。
廃棄された長屋といっても、1棟はしっかりしていた。
現在はたまたま廃坑狙いの人間がいない。ソフィーら3人で長屋を独占している。
ソフィーの仲間はケビンとマリアの14歳コンビ。さっきマコト達が倒した盗賊の目撃情報もあり、周囲を警戒していた。
そこにソフィーがマコトを伴って帰ってきた。最初、2人の仲間はマコトと距離を取った。
しかし、たちまち打ち解けて生い立ちを聞いた。
3人が育った孤児院はボルドー銀山から南東に30キロほど山を下ったボルビックの街にある。
事情があって早めに孤児院を出ることにしたケビンとマリアが、たまたま街に帰ってきた冒険者ソフィーの力を借りて出稼ぎに来た。
なぜ、いきなり話が弾んだかといえば、マコトの食事のおかげだ。
お礼第1弾にカツカレーを出した。もちろん次もある。
異世界で貴重なスパイス料理と、珍しい揚げ物。トンカツは豚肉に天ぷら粉とパン粉をまぶして揚げてみた。
何か違うが味はいい。
マコトがエコバッグから大きなカレー鍋を出した瞬間、ケビンとマリアは身構えた。
だけどカレーの匂いをかいだら、2人の警戒心が解けた。
「ありがとうマコトさん、美味しいです。なあマリア」
「ケビン、態度変わりすぎ。さっきまですごく警戒してたくせに」
「お前もだろマリア。そもそもマコトさん助けたのはソフィー姉ちゃんだよな」
「それ言うなら、あんたも貢献度ゼロ。なんで、堂々と食べてるのよ」
「あはは。遠慮しないで沢山食べて。それよりソフィーさん、食べないんですか?」
「あ、いや。私はいいから、2人に腹いっぱい食べさせてやってくれ。大切な弟と妹なんだ」
「大丈夫ですよ。山のようにありますから」
遠慮するソフィーにカレーを勧めた。
スプーンで米、カツ、ルーをすくって食べたソフィーの猫目が、なおさら大きくなった。
「……うまい。米、スパイスシチュー、不思議な衣が付いたオーク肉。みんなすごい」
マコトは新しいトンカツを一切れ取り分け、醤油とマヨネーズを軽く垂らした。
醤油でなくウスターソースが正義という人もいるけど、マコトはソースを持っていないし作り方が分からない。
醤油マヨカツをソフィーの皿に載せてあげて、食べるよう勧めた。
カツの下はカレールー、上は醤油マヨ。異世界人に取っては暴力的だろう。
刺激的なコラボカツを頬張ったソフィーの猫目がにんまりと細くなった。
しゃくしゃくしゃくと、頬を赤くして噛みしめた。ごっくんと飲み込んだ。目がとろんとしている。
「はあ……。うま~い」
一度だけ食べたことがあるランク2ダンジョン29階のハイオークより日本の豚肉「ムギ小町」が上のようだ。
「良かった。助けてもらった恩返し、少しだけできましたかね」
「いや、十分すぎるよ」
「晩ご飯も楽しみにしてて下さいね」
「え」「え」「え?」
驚く3人を気にせず、マコトは彼らに午後の予定を聞いた。
午後の3人は森の端の崖近くにある、爪、牙、皮の素材が売れる爬虫類だらけのランク2ダンジョン11階に潜る。魔物の肉は滞在中の食糧にしている。
「マコト君はどうすんだ?」
「最初の廃坑に大したものがなかったから、次の廃坑を探します」
「それならソフィー姉ちゃんに聞きなよ」
「姉ちゃんの直感ってすごいんだよ」
「頼っていいですか、ソフィーさん」
「ご馳走になったし、絶対にお宝を手にしてもらわんといかんな」
下手すれば詐欺のようなセリフ。だけどマコトの心にはすんなりと入ってきた。
目を見た。ソフィーは自然な笑顔を見せている。
ソフィーの直感に従い、お宝が眠ると見立てた廃坑に案内してもらった。
「じゃあ、私達はダンジョンに向かうからな」
「あ、ソフィーさん、練金の材料にしたいんで魔物を倒したとき魔石を持ってきてくれませんか」
「ああ、いいぞ」
「普通に魔石で色んなものを練金できるんで、お礼しますから」
普通ではないが、それはいい。マコトは廃坑に入った。ソフィーの直感に従い、枝分かれした道を右、左、左と行って岩に突き当たった。
この場所はソフィーが前に断念した場所。なぜかマコトなら何とができると思ったと言った。
そう、マコトだけは違う。
大岩の前から、プレハブ小屋転移で岩盤の向こう側に潜った。
プレハブ小屋の周りを透明にすると、周囲の石は最初の廃坑の比ではないくらいに輝いていた。
木の枝置換を使って鉱石棒を採取。白銀に輝くやつばかり採掘していたら棒は1000本になった。
プレハブ小屋の一部屋が石の棒で敷き詰められた。
その鉱石棒をギリギリまで空間収納に入れ、冷蔵庫という名の複製魔道具に全部のアルミ製品をセットした。
『アルミの代用品、ミスリル銀の反応がありました。素材として使用しますか』
複製庫に表示が出て、30グラムのビール缶どころか、200グラムのアルミホイルまで複製可能になった。
「よっしゃー!」
思わず叫んでしまったマコトだ。
「ミスリル銀って、高値で売れるんだったよな。沢山採ってソフィーさんにも情報料として分けよう」
ふと、さっきカレーを食べた女の人の笑顔が頭の中に浮かんできた。
「次は何を食べさせよう。また笑ってくれるかな…」
なんだか、にやけてしまった。




