30 廃坑とオリジナル採掘術
マコトは、朝早くボルドー鉱山に到着した。
廃坑でも入山許可が必要かどうか、ラフランス王国の管理局に聞きに行く。
稼働中の鉱山出口から近い場所に色々な施設があった。
採掘区域から少しだけ離れた3軒の建物。宿屋、国の鉱山管理局事務所、商業ギルド出張所だ。
莫大な利益を生む国の事業だから過去に他国兵、盗賊の襲撃もあったそうで警備兵もいる。
近くには坑夫のための長屋がある。ぱっと見て200~300人くらい暮らせそうだ。
マコトは廃坑狙いなので、活動中の鉱山から小高い丘を越え2キロほど離れたエリアが目的地。
管理局に行った。「基本、稼働している鉱山だけ国と地元の貴族が管理してる」と教えてもらった。
雇われて働いている人は、一定時間の労働で決まった金額がもらえる。重労働だし賃金はいい。
鉱山内はメインの坑道を掘って落盤防止用の木枠を作り、鉱脈を探しながら掘っていく。
廃坑探索はリスクが高い。『事業』として成り立つ大きな坑道は堀り尽くされた場所。お宝自体は残っている可能性があるという程度。
勝手に入っていいけど坑内の補強資材は老朽化。事故が起こっても管理局は関与しない。
マコトはビール缶を作るためのアルミの代用品、ミスリル銀が狙い。なので、ミスリル銀が過去に出た廃坑に入る。
「物好きだね。入山料はいらないけど危険だし儲かる可能性も低いから、お薦めしないよ」
「錬金術に使う素材が欲しいんです。ミスリル銀以外でも歓迎です」
「ほ~錬金術師か、機会があれば作ったものを見せてくれ」
「こんな物でよければ、完成品がありますよ」
必殺、魚肉ソーセージ10本を管理局員に渡した。1本を食べさせると饒舌になった。
幾つかの廃坑の中で過去にミスリル銀が出た場所を教えてくれた。
管理局員は気さくだったけど、他の人はギラギラした目でマコトを見ていた。
特に3人ほど、坑夫ではない男達が混じっていることにマコトは気付かなかった。
◆◆
マコトはマドリーの街で買ったランタンを灯し、目的の廃坑に足を踏み入れた。
入る前に、マコトより若い男女とすれちがった。
彼らに呼び止められ「そこは入ってすぐ行き止まりになる。それに木枠も腐ってて危ないよ」と言われた。
親切な若者に悪いが入った。
3分も進まないうちに坑道が行き止まりになった。大きな岩盤があり過去に採掘を断念。
行き止まりの手前で銀やミスリル銀が少しだけ採れているそうだ。
マコトが狙うのは岩盤の中を突っ切った向こう側。管理局員の予想では、かつてのミスリル銀鉱脈、銀鉱脈の紋様を考えると、ミスリル銀自体は奥に残っている可能性もあるらしい。
ただ厚い上に硬い岩盤が壁のように立ち塞がる。ラフランスの現在の技術では裏側に到達できないとか。
マコトは、迷わず採掘にチャレンジすることを決めた。
「今こそ何でも通り抜けられるプレハブ小屋の出番だな」
プレハブ小屋に入って、全部の壁を透明にした。すると別次元から岩盤にプレハブ小屋が食い込んだような形になり、全部の壁に灰色の岩石が映った。
小屋のつなぎ方は1本棒状に変え、今は26・6メートル先まで行ける。
すると24メートルを超えた地点で壁に映る岩の断面に模様が出てきた。岩盤を越えたのだ。周囲の岩にキラキラとしたものが混じり出した。
「これはミスリル銀が入ってるのかな。採掘だ」
プレハブ小屋の周囲に1ミリたりともスペースはないが、マコトはここに来るまでに採掘方法を考えていた。
地上と地中で試したことがある。
マコトはプレハブ小屋の中に置いたものを念じれば外に出せる。
その時の法則がある。
地上に椅子を置いて、真下からテーブルを出した。すると椅子の位置がずれてテーブルと横に並んだ。
プレハブ小屋有効範囲の空間に逃げ場がある場合は、物がどけられる。
しかし完全に埋まった地中の岩の中でプレハブ小屋から椅子を出したとき、椅子が岩の中に埋まった。代わりに椅子の形をした岩が小屋の中に置かれていた。
プレハブ小屋の有効範囲の同じ面に空間の隙間がない岩の中で小屋から何かを出すと、その体積分の岩がえぐり取られて小屋の中に入る。
条件が揃うと起こる置換現象だ。
そういう訳で、マコトは用意しておいた長さ30センチの木の枝10本を銀色に光る岩の下にセットして外に出るよう念じた。
小屋の中にキラキラ光る岩石の枝が落ちている。
岩石の枝を空間収納に入れ、抗生剤のアルミ包装を砕いて作ったアルミの粉を冷蔵庫に入れて複製準備をした。
しかし…
アルミには何も反応しなかった。要するにミスリル銀がない。
光っていたのはノーマルな銀、魔鉄だった。
「…くっ。けどまだ初日だ。次の採掘」
もっと奥に移動。
移動するにはマコトがプレハブ小屋から外に出て、中に戻る。要するに玄関から新たな起点を作らねばならない。一度は岩の中で『外』に出る必要がある。
ストックしていた2メートルの丸い岩を使い、物質置換術で人間ひとりが立てるスペースを岩石の中に空けた。
「…怖いけど、外に出るか」。呟きながら外に出た。
完璧な静寂ゆえに、普段は聞こえない発動音、ブオンという音が聞こえた。
生き埋め。
これは全身に鳥肌が立った。外に出たからプレハブ小屋の明かりなどなく、真の闇に閉ざされた岩の穴の中。
1ミリ先も見えず手足がこわばった。空間に少しだけ余裕があるのに、空気さえなくなったように感じた。
瞬時にプレハブ小屋に戻ったけれど、汗びっりょりで心拍数が跳ね上がった。
ともあれ、位置的には坑道から岩盤の向こう側に来ている。
残念ながらハズレ。ミスリル銀の反応はゼロだった。
魔鉄、ノーマル銀があり、岩石棒は100本作っておいた。
まだ午前中。次の廃坑を見に行くことにした。
◆
ランタンで廃坑内を照らして外に向かった。
出口が見えてくると、出口の所に3人の男が立っていた。
逆光だけど武器を持っているのが分かる。
「お、ガキが出てきたぜ」
「金目の物を持っていそうだし、俺達がいただこうぜ」
見事な強盗である。




