29 マツタケと牛スジ大根
マコトはポルペイン帝国のマドリーの街を出て20日後、ラフランス王国との国境地帯に到着した。
ここまで550キロ。
目的地のボルドー銀山まで残り100キロだけど、最後に難所の険しい山岳地帯が待っている。
すでにマコトの目にも見える。はっきり言って高さ2000メートルの壁だ。
登ったあと今度は、600メートル地点まで降りねばならない。
目印になる村があり、そこから50キロで目的地。
反対側、ラフランスからだったら、途中に観光名所や多くの街もある緩やかな山地。その中腹に銀山という配置らしい。普通は平地から、そちらに迂回する。
ここまでは、マラソンランナーのようだった。
魔の森も貴族家の追っ手も難なく回避したけど、プレハブ小屋のお陰。
走ってみると意外にスタミナがなかった。レベルに応じた心肺機能となるまで10日もかかった。意外と甘くない。
やっと森の中を移動。剣を持って魔物を狩りながら、プレハブ小屋の活用法の幅を広げていった。
ラフランスとの国境を越える2日前に、1度だけ11人の盗賊団と遭遇。いきなりマコトを殺しにきたから、プレハブ回避したあと追跡。
真夜中になって、アジトから物資を奪った。靴も何もかも。こいつらは特に食糧を大量に持っていた。
ノーマル銀、ノーマル金、魔鋼の塊が少しずつあった。魔鉄のナイフも1本あった。鉛、宝石類もあった。
いつか作ろうと思っていた直径1メートルの大きな鉄製平鍋もあった。
みんな収納して、マコトは闇夜に消えた。
「うん、この形のお宝探しは、良心が痛まなくていいね」
野営地、休憩地では色んな人にビーフジャーキー、魚肉ソーセージ、スイーツを振る舞ったから喜ばれた。
物資は、少量だけ買っていたバター、チーズ、蜂蜜も増やした。
また、ランク2ダンジョンを見つけ、魔石エネルギーが980dまで貯まった。ここで150dを消費してプレハブ小屋をレベル7に上げた。
空間収納の一辺はジャスト10メートル。
擬似転移、空間収納口を出せる距離が最大で26・6メートルまで。
今回のプレハブ進化は設備ではない。部屋の繋ぎ方の自由度が上がった。
どういうことかといえば、今までは小屋を平面しか繋げなかったけど、これからは重ねられる。
リビングに使っている部屋の上に1つ重ねた。これで天井が5メートル。
擬似転移の距離は短くなる代わりに、空間収納口を出せる高さと低さが、上下2・5メートルから、上下5メートルに伸びた。
「これも使えるな」
次のレベル8までの必要魔石エネルギーは300d。
今度は風呂とキッチンが進化する。
◆◆◆
4日間で山岳地帯をクリアして、鉱山までの残りは50キロ。最後の中継地になる村に到着した。
この村で3日ほど滞在することになった。
早くミスリル銀を手に入れて、ビール缶、ワサビのキャップを複製したい。
ワサビ醤油を付けたマグロをつまみに、ビールを飲みたい。
けれど、マコトは村人を放っておけなくなった。
マコトが村の片隅で夜営させてもらおうと足を踏み入れたとき、村人20人が寄ってきた。
旅人を装うためリュックをパンパンに膨らましていたら、行商人と勘違いされた。
みんな痩せていて、手には大小の道具や薬草、キノコを持っている。
事情を聞いてみた。
現在の村には50人ほど人がいるけど、女子供しかいないそうだ。農業中心の村で、去年が不作。働ける男は鉱山に出稼ぎに出ている。
稼ぎを持って帰って来るのは3か月後。
女だけで来年に備えて畑を耕している。どうやって食いつないでいるかと聞くと、行商人に持ち物を売ったり、子供が森で木の実やキノコを採ってきている。
キノコの籠を持ってきた子供も、大人も、不安そうな目で見ている。
マコトは迷わなくなった。
1人の女の子がマツタケみたいなキノコ3本を籠に入れていた。
「俺は錬金術師。そのキノコを探してた。30000ゴールドで売って欲しいな。うまく価値ある物が作れたら、追加で何かあげるよ」
注目を浴びる中、マツタケを手渡された。大きな鍋を出して、中に空間収納口を設置した。
マツタケは鍋に投下したけど即、空間収納に保存。
「よし。狙ってたモノができた」
何もないはずの鍋の中から湯気が湧き上がった。
牛スジ大根を出した。
大きめの鍋を用意。スジ肉は日本の複製品、味付けに醤油、砂糖、塩、パックワインを使用。
こちらの世界ではラディッシュサイズだけど、大根も手に入った。一緒にことこととプレハブ小屋のキッチンで煮込んだ。
シンプルに見えるけど、いい味が出る料理だ。
村人が喉を鳴らす前で、細ネギをパラパラ散らして味見だけした。
「う~ん、久々だな~。ビールの複製できたら、いいつまみになるね」
追加で鍋7個分まで増やした牛丼と米も提供した。
マコトは小麦粉のパンも多く複製しているし、鍋に入れたハチミツを添えて100個出した。
「生き返る~」
「ああ~、こんなの久しぶり」
「いや、初めての味だよ」
「パンもハチミツも美味しい!」
みんな頬に赤みがさした。
「錬金成功。対価を払いますね」
来る途中で盗賊から奪った、大麦、ライ麦、魚の干物、干し肉、塩の食品類。盗賊の靴や服、毛布、ナイフなども出した。
とりあえず、食品類は奪った物資の一部を出した。
「こ、こんなに?」
「正当な権利ですから、村で役立てて下さい」
村の端っこにてんこ盛り。食糧は大量だけど、50人で食べたら2か月で尽きる。半年を食いつなぐには足りない。
幸いに狩りをしたからウルフなどの有機物はたくさん持っている。
目の前の人を見捨てられないなら、収納している盗賊の食糧を倍々で増やして置いていくことにした。
一気に1日で増やそうとして、プレハブ小屋の複製装置・冷蔵庫には貯蔵量の限界があることを思い出した。
必要と予想した量まで増やすのに、3日かかった。
毎日、村の周りを見て回って村人にスイーツを提供した。
みんなに感謝された。子供に手作りの人形や花冠を貰って笑顔になれた。
村の20歳の女性に迫られて、断ったけどドキドキした。
若返って15歳、実年齢33歳のマコト。女性の恋愛対象が幾らか肉体年齢に近付いてきたかと思った。
心残りをなくし、マコトは気分よくボルドー銀山に到着した。




