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異世界でプレハブ小屋をもらうとチート機能が付くようです  作者: とみっしぇる


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28 商談不成立と黒髪のジェノサイダー

マコトはミスリル銀を求め、ポルペイン帝国のマドリーの街から東に向かって旅に出た。


1時間後、最初の街道の分かれ道で足止めを食らった。騎馬5騎に歩兵10人、魔法使い風1人。


距離は1番近いやつで20メートルくらい。


幾つかある街道に捕縛部隊が散らばっているそうだ。そのうちのひとつ、侯爵家の長男部隊と遭遇した。


「錬金術師のマコトだな!」

「ええ、そうですよ」


「我はマドリーヌ侯爵家の長男ジョエルである。父上の命により、貴様を侯爵家で取り立ててやる」


「断ったら?」


「うるさい。貴様に断る権利があると思うのか!」


「俺、ラフランスに行くから、その前に買いたい物があるなら売りますよ」


「私を相手に駆け引きする気か」


「正当な取引をする気がない。そうとらえさせてもらいました」


ジョエルよりも、配下の人間がギョッとした。


武器も持たないマコト。なのに声に虚勢も焦りもない。兵士は得体の知れない怖さを感じた。


街のホテルで盗賊8人に重症を負わせて逃れたことも把握した。


ジョエルも、その話を聞いていた。顔色を悪くした父侯爵に、黒髪の男が危険な魔法を持っていると忠告された。


だけど強硬手段に出る気だ。


2人の優秀な弟との後継者争いでリードしたい。錬金術の秘密を吐かせようと目論んでいる。


魔法使いなど取り囲んで、数で押せば倒せると思っている。



マコトは周囲を警戒しながら考えた。戦う選択肢はないけど、追ってこないようにしたい。


プレハブ転移と空間収納の応用で、目の前の人間を退けられる。


けれどマドリーの街に活気はあった。侯爵はいい統治者だと思っている。


マコトが人のいいところを探したいタイプなのは変わらない。


単に、黒髪の自分が獣人やエルフと同じく、異物なんだろうと感じている。


自分が選ばれた者と思う人間の横暴さが、目の前の男達からにじみ出ている。


そもそも異世界から来たマコトは厳密に言えば不法入国者。穏便に済ます。


「ねえ、侯爵の三女さんの誕生日にお菓子を作るため、大量の砂糖が必要って聞きましたよ」


海辺の朝市で仕入れた情報だ。


「それがどうし……え…」


相手の返事も聞かず、背負っていたリュックの口を空けて逆さまにすると砂糖1キロを地面に落とした。


どさっ、どさっと、2袋目、3袋目と出てくる。


「そ、それは、まさか」


「砂糖ですよ」


ジョエルの次に装備が上等な兵士1人を呼んだ。戸惑っている、そいつのところに、ビニールの端っこを破った砂糖の袋を投げた。


中身を散らしながら、放物線を描き砂糖の袋が兵士の手の中に落ちていった。


「舐めてみてください」


兵士は、おそるおそるこぼれ落ちる顆粒状の粒を舐めた。


「あ、甘い」


「不法入国した罰金代わりに、これ置いていきますね」


リュックの中から、次々と砂糖が出てきた。


どさ、どさ、どさどさどさ、と袋が出てくる。


70袋を積み上げてていった。


増やしてビニール袋に入れていた黒胡椒1キロ、魚肉ソーセージ5本もついでに出した。


「物資はあります。けれど交渉するわけでもなく威圧されました。理不尽な相手には、頼まれても何も売りません。マドリーヌ侯爵家との縁はなかったということで」


「ま、待て」


マコトは空間収納口を限界の前22・8メートル、上2・5メートル先にセットした。


収納口からオリーブオイルを染みこませたあと乾かしたタオル30枚を出した。


次いで火が付いた木の枝を落とした。


ぼっ、と激しい音と共に炎が上がった。そして風に煽られ燃えるタオルが兵士の間に飛んでいった。


馬7頭が驚いて「ひひひ~ん」と竿立ちになった。


その間にマコトはプレハブ内に避難した。



「消えた…」


◆◆

報告を受けて、侯爵はしくじったと思った。


70キロと大量の極上砂糖は手に入った。


しかしマコトは、姿を消したあとは300人規模の捜索網にまったく引っかからない。肝心なスライム錬金術の秘密も何もかも入手困難になった。


「これだけの完成度を誇るスライム錬金術。その男と組めば、大陸の物流を牛耳れたものを…」


長男ジョエルは責められない。肝心な情報が長男の出立と入れ替わりに入った。


そのマコトという黒髪の錬金術師は、魔の森の深淵部から出てきた。それも1人で。


「あの話に出てくる男、『黒髪のジェノサイダー』と似ている…」


このマドリーヌ侯爵家の代々の当主に伝わる話がある。


実はマドリーヌ家の正当な血筋は、250年前に途絶えている。今の家は遠い分家の血筋である。



250年前、前マドリーヌ家は地雷を踏んだ。


空間魔法使いの中でも希少な、大容量の空間収納使いを見つけた。


その人間は珍しい黒髪でコースケ。魔の森から現れた割に温厚な人間だった。


森の外縁部の村に居を構え、親切にしてくれた村娘と結婚した。

海から魚などを大量に運んできて村を豊かにしていた。


前マドリーヌ家の人間は、その男を軍事目的に利用しようとしたが、申し出を断られた。


男の留守中に妻を人質に取り、言うことを聞かせようとした。


誘拐を阻止しようとした村人2人を斬った。


妻も怪我を負い、帰ってきたコースケは激怒した。


市井には『貴族軍を退けた』と伝わっているが、そんな生易しいものではない。


待ち構えていた貴族軍の真ん中に30メートルの岩を100メートル以上の高さから落とした。


軍隊は破裂した。


貴族邸は門を閉ざしたが、いつの間にか敷地には黒い油が撒かれ、炎が投下された。


敷地を満たした炎、毒のような黒煙。邸宅に降り注ぐ岩。中に生存者はいなかった。


前のマドリーヌ家は、半日で110年の歴史に幕を閉じた。


マドリーヌ侯爵は先代から家を引き継ぐ時、自分の家の成り立ちを伝えられる。だからこそ警戒し、同じ特徴を持ったマコトと関わった人間から物資を奪ったりしなかった。


調査に向かわせた者にも、孤児相手であろうと略奪は死罪に値すると言い含めていた。


マコトは離れたところに突然、炎を出した。


『魔法使いは必ず、手や杖から魔法を放出する』。この法則を無視した現象だ。


ただマコトに丁寧に接した人間は、持っている物でもてなされたという。



「ならば、相手を貴人として探しておれば、こんな美味なるものを好きなだけ食べられたのか…」


長男が持ち帰った『ギョニクソーセージ』を食べながら呟いている。

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