27 ぬるぬる階段と牛丼
高級宿のフロント係は、強盗の仲間だった。マコトは頭にきた。
「あの黒髪小僧、どこにいきやがった」
「探せ!」
ここは4階。フロントのマローは犯行準備として、同じ階にマコト以外の客を入れなかった。だからマコトは、この階で暴れてもいいと思った。
階段はひとつだけ。
マコトはプレハブ移動術を使って、部屋を出て出現↓瞬間プレハブ避難をやって、強盗よりも先に降り階段に辿り付いた。
木製の廊下と木製の長い階段。これが使いものになる。
階段を2段ほど降りて姿を現した。
「おい、いやがった」
「いつの間に」
「追え!」
次々と追ってくる強盗ども全員が階段に脚をかけたとき、マコトは避難したプレハブ小屋の中から空間収納口を盗賊の足元に出した。
プレハブ小屋の拡張とともに、新しく得た機能だ。
海辺の村で天ぷらを揚げたとき、汚れたオリーブオイルを煮えたまま陶器の鍋ごと収納していた。
それを最後尾のマローが降り階段2段目に右足を付く瞬間に出した。
推定温度160~170度の油で満たされた陶器鍋にマローは足を突っ込んだ。
「あじいいいいい!」
マローが思い切り足を振り上げて、長い階段を下っていた7人の盗賊に熱い飛沫が振り注いだ。
マロー自身は足元に広がったオリーブオイルで滑って階段を転がり落ちた。
盗賊どもはマローを避けたけど、7人が一か所に固まっていた。
使用済みの煮えたオリーブオイルは残り4鍋もある。
マコトは、そいつらの頭上に座標を指定して鍋を投下した。
「ぎゃーー」
「あじいいい」
「助けてくれー」
板の階段の上で煮えたオリーブオイルなんか浴びたら、それは大惨事。
盗賊たちは火傷した上に、20段ほど階段を転げ落ちていった。
「う…うう」「あぐ」「あ、がが」
気がついた客が階段を確認したあと慌ててドアを閉め、窓から『強盗がいる~』と叫んでいる。
腹は立ったままだけど、そのままマコトは宿を脱出した。プレハブ転移で外に出て、少し落ちたら再びプレハブ小屋に避難。出て少し落ちて、また避難。そうやって4階から地上に降り立った。
そこで気付いた。2メートルほど落ちても、プレハブ小屋に避難した瞬間に衝撃は消されている。
魔物へのバックアタックのとき、プレハブ内でスイングしながら準備しても、プレハブ外に出ると勢いが消えてた。
プレハブへの出入りで物理エネルギーが霧散する。その時はデメリットかと思っていた。
「こういう時に命を守れるんなら、大きなメリットだな」
試す気にならないけど、100メートルの空中から落ちている途中でもプレハブ避難すれば衝撃はゼロと推測される。
高級宿のダブルベッドは、布団ごといただいた。ついでにテーブルと椅子2脚、洋服掛けもパクった。
マコトは推測する。
フロント係のマローはマコトを誘拐して身ぐるみ剥ぐ気だった。だったら宿帳にも何も書かず、マコトが泊まった記録を残していないだろうと。
部屋に何もなくなっている理由はマローから明かせない。
「高級ベッド、ゲットだぜ」。再び眠った。
◆◆◆
今度はポルペイン帝国の北東側に隣接するラフランスに向かう。
とはいっても、マコトのプレハブ自体に移動力はない。ラフランス王国のボルドー銀山は遠い。緩やかな登りで550キロ、最後に山岳部を登って降りて、計600~650キロ。タフな道のりだ。
「うん、歩こう。レベルアップしてるけど、訓練もなんもしてないから意外とスタミナないもんな、俺」
相変わらずシンプルだ。
とりあえず、最初に寄ったランク1のモリーナダンジョンに、魔石エネルギーを得るため潜ってみた。
旅の道中の魔石切れが怖い。
何人かの子供が魔石を集めていてくれた。石は5日で霧散するが、大きさは3センチで軽いから持っておいても負担にならない。
「会えたら、前に美味しいカレー食べさせてもらったお礼しようって取ってたの。はいどうぞ」
孤児冒険者、マリとトレリら5人に魔石25d分をもらった。
すると他の子も持ってきてくれて、合計80dになった。
魔石を持ってきてくれた12人の子供冒険者にはご飯をふるまった。今日は牛丼だ。
牛細切れとスジ肉のミックスだけど、こちらの世界では高級品。
醤油と砂糖、コンブ、タマネギを入れて長い時間、肉を弱火で煮ておいた。
それを出すと香りが周囲に漂い、子供達は目をキラキラさせた。
子供達は米も喜んで食べた。マドリーの街で聞いたことろによると、ポルペインにも米はある。
だけどパサパサの上に高価。貴族が見栄を張るために食べる物だそうだ。
「おいし~」
「マコト兄ちゃん、またこの国に来てね」
「うん、みんなに会いに来るよ」
やっぱりポルペインに再び来てもいいなと思うマコト。
マドリーの街で強盗に狙われて嫌な気分になったマコトの心が、早くも持ち直した。
「やっぱり、悪いやつと会ったあとは、いい子と出会えるな~」
ビーフジャーキー3袋、魚肉ソーセージ10本を残し、残りは渡した。
魚肉ソーセージは500本くらいあった。
これから長距離移動する間に、また複製すればいいと思っている。
子供のひとりが、興味本位で魚肉ソーセージを空けて、みんなで少しずつ分けて味見をした。全員が目を丸くしている。
「保存食として使ってくれよ」
「こ、こんな美味しいソーセージ、たくさんもらっていいの?」
「いいよ。みんながくれた魔石と薬草が、新しい錬金の材料になったからね」
「う~、もっと食べたい」
「こら、保存食だから一気食いするなよ」
砂糖は渡さないのではなく、渡せない。街で聞いた。領主が集めているせいで、砂糖自体がマドリーの街で高騰している。
孤児の子供冒険者が持っていると、悪い人間に目を付けられて危険だと思った。
少し晴れた気分で、次の日から旅に出た。




