3 フォレストウルフとビーフジャーキー
マコトは、夜明け直後の森の中を慎重に歩いている。
川を探している。
彼が異世界転移して約10時間。とにかく平たい石が欲しかった。
◆
8時間前。
チートな匂いがするプレハブ小屋の動力になる魔石を手に入れた。計5匹分。
魔物はゴブリン3匹、ゴブリンアーチャー1匹、フォレストウルフ1匹、みんな持っていた。空間収納の中で勝手に処理してくれた。
血みどろの解体作業を覚悟していたマコトは安堵した。
プレハブ小屋の電力供給に必要な魔石はゴブリンの物が1dと換算された。モニターでの説明は『d』は電気だった。深く追求しない。
ゴブリンアーチャーが3d。ウルフが5dで合計11dが手に入った。
魔石の単位の違いは種属とレベル、要するに魔物の総合能力で決まると予測した。
それで冷蔵庫、コンロ、シャワーが使えるようになった。
自動換気も始まり、温度と照度の調整もできる。
プレハブ小屋をマコトひとりで普通に使えば魔石1dで10日は持つ。ハウスクリーニング機能を作動させると1日分の電力を使う。それでも燃費がいい。
冷蔵庫の複製機能も詳細が分かった。複製した物が空間収納に送られる優れもの。
こちらは少し手間がかかる。
2キロで魔石1dが必要。複製するには、空間収納に原料を入れなければならない。
今のところ、フォレストウルフとゴブリンの魔物5体分、追加で拾ってきた木の枝や葉っぱ、キノコ、土、石が主原料だ。
これだけで、ほとんどの有機物が複製可能になった。
だけど手持ち素材に金属がない。ガラスの原料になる硅素質の物も手に入れていない。
缶ビールも複製したいマコトだが、アルミ缶の素材は異世界にないようだ。このケースは代用金属が認められたが、その金属はミスリル銀と書いてあった。
未開封のわさび、香味ペーストのプラスチックキャップを開けると、アルミキャップで口を覆っている。完全再現にはミスリル銀とやらが必要。
「ミスリルって、この世界には実在するんだ…。てか、ハードル高くない?」
例えばビールを開封して中身を紙コップに注げば複製できる。けれど、絶対にやらない。
この異世界が前時代的な文明なら、マコトの持ち物は極めて貴重になる。
なので未開封の物資は、パッケージごと完全複製したい。
ビール、オリーブオイル、わさびなんて、開封した瞬間から劣化が始まる。
使っている技術はモロにファンタジーなのに、日本で引っ越した直後のように何か足りない。
初回複製品のチョイスには時間をかけた。
運良く魔石を手に入れたけど、次に手に入るのがいつか分からない。
電源用に5dは残したい。
なので今回は魔石を3d使って、複製品を6キロまで作ることにした。
まず、第1にスニーカー。悪路を歩くのに替えがない。ストック作りは急務。下着一式、ジャージも選んだ。ジャージは、幸運にもファスナーがプラスチック製。金属がない今でも複製できる。
牛肉、豚肉を計1キロ程度。パックご飯は3つで600グラム。白菜4分の1、細ネギ1束。砂糖1キロ、塩胡椒、割り箸、紙コップ、魚肉ソーセージ8本と、ビーフジャーキー1袋。解熱鎮痛剤2錠、抗生剤3種類3錠、タオル2枚。ポケットティシュ3個。
ビニールのパッケージや精肉のトレイは有機物由来の石油製品なので、そのままで複製可能だった。けれど、それらも含めると、意外に早く6キロに達した。
抗生剤は無理かと思ったら、なぜかカビか生えた木の枝、キノコ、ゴブリンで交換条件を満たした。異世界だからだろう。アルミパックから1錠だけ取り出して複製用にした。
ジャージもスニーカーも、冷蔵庫に入れた。
使う有機材料の指定ができたので、食べ物の材料はゴブリンではなくフォレストウルフ優先にした。
「複製スタート!」
瞬間複製を期待して叫んだマコトの前に無情の表示。
『複製終了まで残り8時間』
マコトは膝から崩れ落ちた。今日は朝から長距離移動と買い物で忙しく、うどん1杯にパン1個しか食べていない。
実家に到着したら真っ先にパックご飯をチン。マグロ刺身、惣菜、ビールで晩ご飯という、壮大な計画を立てていた。
異世界転移で全部の計画が変わったけれど、幸いに物質は得られる。
早く、米の飯が食べたい。
しかし複製前の物資を食べるわけにはいかない。
葛藤の末、魚肉ソーセージ1本を食べて眠った。
そういえば毛布すらない。やはり街を探して家具を手に入れねば。そう思いながら床に横になった。
ちなみに複製中、複製元の物質は冷蔵庫に置かれている。触れられるけど1ミリも動かせない。
不思議作用だ。
◆◆
マコトは目を覚ますと物資の確認をした。薬品もチェックした。過去の出張中に扁桃炎になったことがあるマコトは、抗生剤などもキャリーバックに入れている。
料理酒にしようと思っていた紙パック入りワイン500ミリリットルも持ち込めていた。
そうしていると、音も告知もないけど、空間収納に何か入ってきた感覚があった。
複製終了である。
冷蔵庫に入れた物を複製したので、肉を出すと冷たかった。
ジャージも冷たかった。
とにかく肉を焼いて野菜を炒め、パックご飯を熱湯で湯で温めて、待望のご飯だ。
「……あ」
マコトは今になって、フライパンも鍋もないことに気付いた。
肉はコンロの直火で焼けても、パックご飯を湯煎できない。
とりあえずネギと白菜の葉を直火で焼くと、本体に火が付いた。
何か考える前に、紙コップで蛇口から出た水を飲み、複製したビーフジャーキーを食べた。
原料がフォレストウルフだけど、きちんとビーフジャーキーの味がした。
確実な危険回避できるスキルを得られたのに、不便を感じる。
「こんなことになるなら、車ごと実家に突っ込めば良かった…」
人間、腹が減ると変な発想になりがちだ。
◆
少し落ち着くと、マコトの頭が回り出した。
「鍋の代わりになるもの…。よし、川岸に行って平たくて窪みがある石を探そう」
人里を探すのに、川を見付けて下流に向かうのは定石。石探しは、そちらの条件も満たせる。
獣に見つかるリスクは高くなるが、マコトは瞬時にプレハブ小屋に逃げ込める。
森の中を歩く、魔物に見つかる、プレハブ小屋避難、これを繰り返すこと2時間。やっと小川を見付けて河原に降りた。
直径25センチの平たい石を見付けてマコトは歓喜した。
プレハブ小屋に帰ってシンクで洗った石をコンロにセットした。




