25 カラメルソースとエビ天
マコトは漁村の一角で料理を始めた。
揚げ物は日本で作っていたが、油の温度管理が簡単なIHクッキングを利用していた。
野外のカマドでやったことはない。
下準備はしていた。プレハブ小屋のコンロを使い、鍋にオリーブオイルを注いで熱した状態で保存している。
薪をカマドにくべて温度管理。
「ちょっと、これでも食べて待っててね」
アンリと子供には、平たいパンにマコト作のカラメルソースを塗って渡した。
以前、プリンを食べさせた子供に、上に乗っている黒くて甘い物は何かと聞かれ、思い出した。
鍋で砂糖を焦がすだけでいい。ただしマコトは最後に熱湯を入れる手順を思い出すまで、何度もカラメルを黒焦げにした。
「甘い」「美味しい!」
甘くて子供に大好評。
天ぷらの衣は水で溶いた小麦粉にマヨネーズを入れた。卵の代用品だ。
まずは実験に小さく切った鶏モモを揚げた。
ジュワ~と、音がする。子供らが泡立つ油を見て「おおお~」と声を上げた。
カラッと揚がりすぎてフリッターのようになったが、異世界で作った初の揚げ物だ。
「さあ食べなよ」
塩、胡椒、マヨネーズを皿に出して、付けて食べるように言った。
「うわあ~」
「サクサクだ~。美味し~」
次がマコトのメイン。エビとキスに衣を付けて油に投入。各2匹は複製用に空間収納に入れてある。
「う~ん、いい匂い」
ジュワ~と音を立てる油を見ながらカマドに薪を追加。
できあがった。温度が足りないときのやつは白っぽい。揚げすぎて所々が焦げ茶色のやつまである。けれど、子供とアンリは目を輝かせて見ている。
マコトから食べた。サクっと音がする。エビの揚げ方は研鑽不足だけど、それを凌駕するうまみがエビ自体にある。
「くう~、異世界エビって美味しい~」
異世界の食べ物で一番のヒット。キスも美味だった。前に食べた塩ニシンも味が良かったし、異世界魚はレベルが高いのかもと感じた。
天ぷらをおかずにパックご飯を1膳食べて大満足である。
「さて、次の海産物を探すか…ん?」
周囲に子供がたくさん集まっていた。
「兄ちゃん、それなに?」
「すごく美味しそう」
「なんか、いいにおい」
「この辺の人じゃないよね。朝市のために来たの?」
「うん、旅の錬金術師。美味しい魚を探しに来たんだ。そうだ、材料がなくなるまでだけど、みんなも揚げ物食べる?」
すごい勢いでみんなが頷いた。
ただ、追加で子供が20人くらいいる。山のように複製したはずなのに、鶏モモを揚げているとたちまち底を尽きた。
「何か揚げられる物…。あ、アレがあった」
魚肉ソーセージをリュックから100本出して、半分に切って天ぷらにした。
複製の有機材料はウルフ。人に食べさせるからゴブリン製は避けた。
やはり、揚げても魚肉ソーセージは大好評だった。
「マコトさん、これも錬金術で作ったんですか。すごく美味しいです」
「ま、まあね…」
アンリと子供は揚げた魚肉ソーセージを食べて、エビ天の時よりいい笑顔を見せた。
異世界では、魚肉ソーセージのポテンシャルが高すぎる。
いつの間にか大人達も寄ってきていて、魚肉ソーセージの天ぷらを追加で200本分ご馳走した。
この国の南の方ではオリーブの栽培も始まっている。少量なら手に入るらしいので揚げ焼きの方法は教えた。
魚をくれるという人もいたが、それは大切な村の交易品でもある。
やはり肉類が足りないらしい。だから塩辛や魚をもらって、保存が利くビーフジャーキーを袋で渡した。
◆◆
「マコトさん、ごちそうさまでした」
「いえいえ、俺も初めての朝市は楽しかったよ。誘ってくれてありがとうね」
「兄ちゃん、ホントにもう出ていくの?」
「うん、次は東隣のラフランスのボルド銀山を見に行くんだ」
いよいよミスリル銀の採掘に向かう。
この村は住みやすそうだけどマドリーの街が近い。情報を少しずつ集めただけで、ろくな話を聞かない。
領主である侯爵が自分を探しているくらいは分かった。
「うわっ、めんどくさっ」
侯爵は、ラフランス王国との紛争で軍を指揮した切れ者。その時に財産を増やし、現在は宮殿のような邸宅に住んでいる。
武器、服、調度品、あらゆる物を最先端で揃えたが、土壌の問題もあり『食』の面で進歩が遅い。
胡椒、砂糖は、どちらも産地を先にエンゲレス、ラフランスに押さえられた。なので少量しか口にできない。
2か月後に予定している三女の誕生パーティーで香辛料と砂糖を山ほど使った料理で財力をアピールしたい。金はあっても物がない。
その状況でマコトが現れた。商業ギルドのギルマスには、マコトが出したビーフジャーキーと白砂糖を献上させた。
砂糖も干し肉も、最高どころか見たことがないほどの品質。マコトの捜索に踏み切った。
家臣にしてやると言っているそうだ。裏を返せば、拒否するなら奴隷にするということだろう。
などというアウトラインを聞いても、マコトの心に焦りはない。
スキルの特性上、縄で縛られても脱出できる。服を着た状態から裸でプレハブ小屋に戻れた。
両手にウサギを持って、片方のウサギだけ残してプレハブ小屋にも入れた。色々と実験済みだ。
国を出ることにした。
最後に、マドリーの街には行く。2度と来ないつもりだし、市場に行って持っていない食材を全種類買う。とりあえず空間収納に入れる。
今回は権力者も絡む。
下手に村の近くにいて漁村の人に迷惑をかけないよう、マコトは村から離れた海岸で瓶の複製をした。
オリーブオイル瓶は128本になった。
去る前に村に寄って、子供達にクマ紋のエコバッグに甘いものを入れて渡してあげた。
◆
異世界に来てお色気がないマコトの生活だが、これには理由がある。
若返った15歳のマコトと同じ年のアンリは可愛かった。村の同世代の女の子にも声をかけられた。
けれどマコトはいまだに肉体に精神がひっぱられず、心は33歳のまんまだ。
ダンナと2人の娘を持つアンリの母親32歳の方に目が行ってしまった。
まあ、どうでもいい話だ。




