18 スライム錬金術と商業ギルド
ランク1ダンジョンを出たマコトは、マドリーの街に向かった。
子供達には、追加でエコバッグに入れた魚肉ソーセージを30本ずつ渡した。2年は持つから、非常の時に食べろと言い含めておいた。
錬金術師という設定は、子供冒険者に無理なく受け入れられた。
やっとマコトのカバーストーリーが固まってきた。成り上がり商人の次男で、自称錬金術師である。
最近は、ここポルペイン、エンゲレス、ラフランスなどの先進国の錬金術師が、無害なスライムの皮膜で透明な実用品を作ろうと研究している。
ガラス、袋、シールドなどだ。
「へえ~、スライムっているんだ。見てみたいな」
マコトは見たこともないくせに、ビニールの袋や包装はスライム錬金術で作ったと言うことにした。
◆
冒険者ギルドに入る前に出しておいた角ウサギ5匹を提出した。
「確認しました。これでマコトさんはEランクです」
「はい、どうも」
冒険者はFランクが月に1回は依頼を受けないと除名だか、Eまで上げれば年に1回の依頼達成で大丈夫。
Dランクまでは納品依頼で到達できる。Cランクから先は試験がある。高額な指名依頼が入るから目指す人間は多い。
逆に指名依頼は貴族絡みだと断りにくいらしく、この点はマコトに取ってデメリットでしかない。
前に追ってきた奴と同じ冒険者が尾行してきたが、プレハブ避難で撒いた。
その足で商業ギルドに行った。ここでも見られている。
かなり街中は面倒くさい。
けれど魔の森で2週間近く孤独だった経験のせいで、人と関わらないという選択肢もない。
次はランク2のプラドダンジョンを攻めたいのだけど、地図が商業ギルドにしか置いていない。各種ポーション、携帯食類も商業ギルドが一番品揃えがいい。
目当てのダンジョン地図、上から2番目に高い回復ポーションを買うと合わせて40万ゴールド。ポーションが30万もした。
盗賊から奪った金銭は尽きた。銀でできた硬貨の大半は途中の村に置いてきた。
正直、現金が幾らか必要。
盗賊から奪った椅子とテーブルは使える。次にベッドが欲しい。大きな街にいるうちに買っておきたい。
家具屋に寄ったら、日本のホームセンターなら5万円くらいで売ってるやつがあった。
だけど、こちらでは量産できないから、30万ゴールドもする。
金策のこと考えていると、身なりのいい笑顔の長身男性に声をかけられた。
「あの、冒険者のマコト様でしょうか」
「はい、そうです」
「私、マドリー商業ギルドのギルドマスターを務めておりますロペスと申します。お手持ちの干し肉のことでお聞きしたいことがあります。マコト様にもお得な話をさせて頂きたいと思いまして」
いきなりギルマスが接触してきた。
商業ギルドといえば経済成長を続ける街のかなめ。ギルマスといえば噂などにも敏感なのだ。
何より欲深い。
マコトがマドリーの街に現れて6日目。街では活動していないが、モリーナダンジョンに凄腕の錬金術師が現れたと情報は入っている。
その錬金術師は変わり者という噂。
ゴミにしかならない魔石を子供冒険者に集めさせ、対価に胡椒と調味料を贅沢に使った干し肉を渡したという。
ギルマスは街に帰ってきた子供冒険者から、干し肉1本を4000ゴールドで譲って貰って食べた。
見栄っ張りの貴族に招待された時に食べた1本8000ゴールドの干し肉よりも旨かった。
世間知らずに見える15歳の小僧は、服装もシンプルながら質がいい物ばかり身に着けている。
金と物資があるなら吸い上げてやろうと思い近付いた。まずは信用させるため丁寧に接した。
残念ながらマコトの中身は、それなりの苦い経験を経た33歳。相手から詐欺師の匂いがする。
なので、借りを作らないことにした。
「ちょうど良かった。ロペスさんに聞きたいことがあるんですが、物資は売れますかね」
「はい。ではギルマス室へ」
「いえ、ここで」
ギルマスの目論見は、いきなり狂った。
1階奥のギルマス室には、すでにハニトラ要員の女2人、用心棒5人が配置してある。
密室で、がんじがらめにする予定だった。
実はマコトはプレハブ転移を利用して、すでに奥の部屋のトラップを確認している。机の後ろに出現して、腹黒い会話も聞いている。
マコトは大きな声で言った。
「あの干し肉ですね」
大量に複製したから40袋を出した。
マコトの声が大きいから、周囲の声がピタリとやんだ。
日本で買うなら定価で2000円。掛ける40袋で8万円くらい。
8万ゴールドではベッドは買えないけれど、ギルマスに借りを作った感じにはならない。
再び関わる気もないし、ノーストレスがいい。
「ロペスさん、8万ゴールドでどうでしょうか」
「はい、そのくらいが妥当ですね」
言わずもがなだが、マコトは40袋で8万ゴールドと言った。ギルマスは1袋で8万ゴールドのつもり。
240万ゴールドを出されたが、8万ゴールドだけ貰った。
「ど、どういうことでしょうか」
「奥の部屋から、女数人と男5人くらいの気配がありますね」
「え、え…ええ?」
「商売は信用が第一ですよね。早急に金銭が必要だから干し肉は売りますが、次は無理です」
ギルマスは相手を侮りすぎたと痛感した。
「あ、干し肉を買ってくれたお礼に、これもプレゼントします」
1キロのビニール袋入り砂糖を3袋置いて、マコトは商業ギルドを出た。
茶色い精製度が低い砂糖が1キロで最低50万ゴールドだと把握していても、3キロ程度で市場を混乱させることはないと考えている。
その後、ギルマスは職員、商人の注目を浴びる中、初めて見た純白の砂糖を前に独り言を言っている。
「彼は計算もできたし頭はいい。それにスライム錬金まで完成させている。信用…。初心をなくした私は、大きな魚を取り逃したのか…」
マコトに大した意図はないけれど、先端技術を披露してしまった。これで領主までもがマコト獲得に向けて動くことになる。




