17 ネプチューン草と甘口カレー
マコトがランク1のモリーナダンジョンで魔石集めを始めて、早くもラストの5日目になった。
魔石集めは順調。
初日は魔石エネルギー133dで、2日目の192dがピーク。その後は142d、108d、122dと落ちた。
これは予想していた。誰かが魔石をマコトのところに持ってくれば、美味しいビーフジャーキーを渡した。
なので2日目にはダンジョンの浅瀬に落ちていた魔石を子供冒険者は拾いまくった。
しかし魔物の体を離れた魔石は、5日以内に消える。ダンジョンに落ちている物も、5日くらいしたら床に吸収される。
4日目からは、自分で魔物を倒した冒険者しか魔石を持ってこなかった。
マコトが自力で得た魔石エネルギーは増えていても、総量は減っている。想定内だ。
マコト自身は3日目にはダンジョンボスを倒した。コボルドはマコトのプレハブ利用のバックアタックで簡単に仕留めた。
マコトのレベルは21まで上がった。
レベル25のダンジョンボスで魔石エネルギーに加算はあるが、ノーマルより少し多い6dだった。
初回クリア特典があり、鉄のナイフを手に入れた。
クリア後は少し休憩。料理でも作るかと思い、カレー作りに着手した。
プレハブ小屋にこもり、ジャガイモ、タマネギ、ニンジン、豚バラ肉を炒め、カレールーをぶち込んで一晩煮込だ。
カレーは、中辛と甘口の両方を作っておいて、複製に回した。
4日目と5日目は16~19階のフィールドで魔石稼ぎをした。3匹以上の魔物がいたら、魚肉ソーセージを投下した。
ダンジョンの魔物は壮絶な争奪戦を繰り広げた。最後の1匹になるまで、とことん戦った。
マコトは、魚肉ソーセージとは神の食べ物ではないかと思うようになった。
プレハブ小屋を利用して壁抜けもした。罠部屋やお宝部屋もないランク1ダンジョンでは、ただ違う階層の壁際に繋がるだけ。ひとつの法則性は見つけた。
このダンジョンでは、1階東側の壁を抜けると必ず14階西の壁際に繋がった。逆も同じ。
時間を置いても同じ結果で、8階北側の壁は100パーセントボス部屋に繋がった。
異空間的な繋がり方は決まっていた。
ともあれ697dの魔石エネルギーを増やした。
一気に『拡張積立』に150dを注ぎ、プレハブ小屋をレベル4にした。
空間収納は一辺5・5メートル。
1つ増えたプレハブ小屋は、またも縦に接続。プレハブ転移の距離と空間収納が届く距離が11・4メートルから15・2メートルに伸びた。
風呂は少しだけ広くなった。今回の設備拡張は、ほぼ冷蔵庫に全振り。
容量が1500リットルに増えた。複製のかなめ、冷蔵室が700リットルに増えただけでなく形が変わった。
長い物が中に入る。1・5メートルの短槍を作って複製したい。
もはやマコトは冷蔵庫を冷蔵庫として見ていない。
プレハブ小屋の次のレベル5まで必要な魔石エネルギーは150d。今度はプレハブ小屋の壁が進化する。
「壁? 少し豪華になるのかな…」
物資は敷き布団1枚、鉄鍋1個、ナイフ6本を増やした。食べ物はジャガイモ、サツマイモ、ニンジン、タマネギ、ビーフジャーキーは100セットくらい複製した。
ジャガイモとサツマイモは、芽が出たやつも多く複製した。いずれは栽培するつもりだ。
ダンジョンを立ち去ろうとしたら、初日に一緒に晩ご飯を食べた5人に会えたからご飯に誘った。
2日前に作っていたカレーを倍々で複製すること3回。大量にある。
カレーのような料理はなく、貴族がたまに食べられるのも「スパイス入りシチュー」が限界である。
子供達の前に白米とパンを並べ、さてメインのカレーを出そうとしたときだ。
「マコト兄ちゃん、あたしもたべていいの?」
「俺ら、魔石を5人で1個しか持ってきてないよ」
魔石争奪戦が始まってから、10歳のマリから13歳のトレリまでしかいない弱小組は魔石を得られていない。
普段のように倒せた角ウサギ1匹分だけが限界だった。
だから遠慮している。シビアな世界で自分で生きていく子供は、働いて成果を出さなければ対価をもらえないという感覚が身に付いている。
この子達はいい子だ。
5日前、マコトが冒険者ギルドを出ると、数人の危ない目をした男に追跡された。プレハブ回避のあと、逆に後をつけた。
『どこ行った?』
『くそっ、金持ってそうだから奪ってやろうとしたのに!』
そんなやつらに物資は渡さない。頼まれても何も売る気もない。強奪しに来れば何もかも奪ってやることに決めた。
少し荒んだ気持ちになったあと、この子達と出会った。マコトは目の前の子供達が可愛い。頑張っているご褒美をあげるだけだ。
今日の魔石が1個でも、彼らの初日の口コミのお陰で魔石集めがうまくいった。
遠慮がちな子供達に、優しい嘘をついた。
「マリちゃんが採った薬草、少し見せて」
「…どうぞ」
「うむ。探してた草が1本だけあった。このネプチューン草を買い取らせてほしい」
ネプチューン草などマコトが今、思い付いた。
「美味しいもの食べさせてもらってるし、タダでいいよ。どうぞ」
マコトはエコバッグを開いてネプチューン草と名付けた、単なる薬草を入れた。
「南無阿弥アブラカタブラー」。適当な呪文も貰えた。
そしてエコバッグの中で開いた空間収納の出口から、明らかに大きさがおかしい鍋を出した。
スパイスに慣れていない人に優しい、甘口カレーだ。
「ふわあ!」
「すごくいい匂い」
「ほら、君たちのネプチューン草のお陰で新しい料理ができた」
同じ場所で野営していた、マリ達と同じ境遇の3人組も呼んだ。計8人にカレーを振る舞った。
「おいし~よ~」
「お兄ちゃんありがとう」
「俺も冒険者で強くなって、こんな美味しいもの食べられるように頑張る」
「そうだよな。上を目指そうな」
「ああ、みんなで頑張れよ」
ネプチューン草のお陰でカレーが完成したと言って、8人には複製したナイフと鎖かたびらを渡した。
子供であっても、こういう物が必要な世界。へたに食べ物を渡すより子供達の生存率が上がる。
元は盗賊から盗んだナイフ。歯が欠けて切れ味が悪かったから、硬そうなアダマンタイトの塊で研いだ。すると格段に切れ味が良くなった。
それを元に複製したから、性能はいい。
この国の国王に20キロのアダマンタイトを献上すれば、最低でも王都で豪邸くらい貰える。
そこまで希少な金属だと知らず、マコトは砥石扱いしている。




