15 冒険者ギルドと干しオーク
マコトは転移16日目の夕方に、ポルペイン第三の都市マドリーに到着した。
城塞に囲まれて東西南北に橋と検問所がある。
中央に領主一族の城が建つ。城壁の外、北側のスラム街も含めて15万人が住み、領主の爵位は侯爵。
マコトが冒険者に聞いていた通りの景観。ギルドには、冒険者、商業、錬金、薬師、鍛冶の5つがあり、ギルドカードを作れば街の出入りは無料。なければ2000ゴールドを取られる。
マコトは列に並んだ。前の人達はギルドカードを見せれば簡単に通してもらっている。30人くらいいても、待ち時間は短かった。
マコトは服装を厚手のシャッとジーンズに変えた。肩にリュックを掛けて旅人を装ったが、後ろに並んだ商人にリュックを売れと言われた。
断ると商人の一団に罵られ余計な注目を浴びた。
格好はラフだけど、シャンプーした髪の毛と異世界では上質の服と持ち物は目を引いたようだ。
順番が回ってきた時には、貴族関係者かと聞いてきた。
「東の方の国で成り上がった商人の息子です。えへへ」
ちょっと小金を持っているドラ息子っぽくいくのが、異世界の常識を知らない自分に合うのかと思った。
「そうか。この街はスリとかも多いから気を付けてな」
「ありがとうございます」
今のところマコトが遭遇した人は、いい人と悪い人の比率は半々。日本に比べて危険そうな人が多い。
街の周辺は草原ばかりで魔物はいない。5キロ地点にあるランク1ダンジョン、10キロ地点のランク2ダンジョン、その中に魔物がいる。
街に到着した時間帯は夕方。
人に聞いた通り南門の近くに、楯の前に剣が斜めに描かれたマークの看板がある。冒険者ギルドだ。
文字も書いてあるが、識字率は20パーセント程度。なので絵の看板の方が大きい。
ギルトの中は広く、中央に受け付けカウンター。右が依頼票。その手前のスペースに飲食コーナーがあり、早くも酒盛りしている人がいた。
カウンター左は2階の関係者部屋へと続く階段。もうひとつの階段は下りで、地下の獲物解体場に続く。
マコトは、あえて受け付けカウンターが混んでいる時間帯に来て、中を観察している。
異世界気分を堪能するため、冒険者向けの保存食・オークの干し肉を買った。
一口かじった。
「…うえっ」
血の臭いを消すための塩が効きすぎなのに、獣臭が口いっぱいに広がった。
「どおりで、ビーフジャーキーをあげた人が大喜びするはずだ」
さて観察。種属は人間族のみ。この世界には獣人とエルフの国もある。しかし、ポルペイン帝国をはじめとするナーロッパ地方に現れると、奴隷にされるから近付かない。
逆もまたしかり。
薬草を持った10歳の子供集団もいれば、イノシシを抱えた大男もいる。防具は基本的に革製。大人は必ず武器を持っていて、ナイフ、剣、弓あたり。
魔法使い風の男女もいる。
埃だらけの人間ばかりの中で、キレイな服装をしたマコトは目立っている。
ギルト内で問題を起こすと除名だから絡まれないけど、外に出たらどうなるか簡単に想像できた。
強欲そうな商人と同じ目でマコトを見ている人間は両手の指の数じゃ済まない。
ピーク時も過ぎた。
「こんにちは。マドリー冒険者ギルドのご利用は初めてですか」
「はい。冒険者登録をお願いします」
マコトも男。可愛いお姉さんのカウンターに行った。
登録料は1000ゴールド。ランクはAからFまであり、最初はF。
注意事項は色々とあるが、要するに義務も少ないが会員を守ってもくれない組織だ。
冒険者は依頼票に沿って何かを揃えてくる。成功すればギルドは報酬を出す。それだけだ。
本当の意味で地位を手に入れたいなら、商業ギルドの上級会員になるしかない。当然ながら審査のハードルは高い。
申請事項は名前と属性だけ。あとは任意。
名前はマコト、属性は土、職業は錬金術師にした。何かを作り出す錬金術師は土魔法使いに多いそうだ。
ひとつの疑問を受付嬢に投げかけた。
「例えば、ステータスがレベル12でオール120って、普通なんですか?」
「え、レベル12のステータス上限は120ですが、全部がそこまで伸びることはありません」
結論、マコトは転移者特典で、この世界の英雄クラスで成長する。
異世界に来て初めて確認したステータスはこれ。
◇マコト◇レベル1◇15歳◇
◇HP10◇MP10
◇筋力10◇知力10◇物理攻防力10◇素早さ10◇魔法攻防力10◇器用さ10
◇スキル空間術 プレハブ小屋レベル1 2メートル空間収納
その後もレベルアップのたびに全数値が10ずつ増えている。
マコトは平凡かと思った。これは勘違いで、全ステータスの伸び方が最大値を示している。
誰でもHPとMPは、レベルアップで一律10増える。
しかし筋力から器用さまでの6項目は個人差がある。
しかも全体の伸びしろが生まれた瞬間に決まり、運が悪い人は6項目を合わせて、レベルアップ1回で10しか増えない。
運がいい人は、6項目合わせて数値が40増加。努力すれば、決まったステータスが特に伸ばせる。
魔法適性に合わせて鍛えれば魔法使いになれる。火の適性者なら知力と魔法攻防力の両方が130を超えたくらいから、外に向かって炎を撃てる。
物理戦闘職が物理系ばかり鍛えても、意外と強くなれない。この世界では、魔力依存の身体強化が加わって攻撃力が跳ね上がる。
魔力を体に循環させて身体強化するため、魔法攻防力を伸ばすことも必要。そうすると、レベル20で物理攻防力が200なんて伸び方はしない。
参考までにマコトが最初に出会った冒険者女子達の例。
パーティーの中の剣闘士と風魔法使いは、どちらもレベル35。しかし最も伸びているステータス項目で240前後。
剣闘士はパワーだけでなく速さや器用さも必要。
魔法使いでも筋力ゼロでは杖も持てない。
好きなステータスを伸ばせそうな世界だけど、意外に難しい。
マコトは明日からランク1ダンジョンに潜る。
1000ゴールドで買った干しオークの肉200グラムは複製の有機材料に回すことにした。
「食べ物を無駄にしちゃいけないよな。うん」
マコトよ、一口かじってやめたくせに偉そうなことを言うな。貧乏冒険者に謝れ。




