黄金の巨神と天空の光梯
6月11日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。
キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!
アンデスの山頂が激しく割れ、数千年の果てしない眠りから覚めた黄金の巨躯が、周囲の岩盤を凄まじい音を立てて削りながら立ち上がる。
かつての古代都市の宮殿そのものが強固な装甲へと組み換わった、全長30メートルに及ぶ未知の人工ゴーレム。その胸部の中央で禍々しく拍動する不気味な紫黒色の結晶光こそが、世界に散らばった六つ目の魔神の欠片だった。
「山が丸ごと動いちゃってるみたいだね! 故郷のシルクロードの終着駅で戦った、あの巨大な兵馬俑を思い出しちゃうよ。……でも、こっちの方がずっと派手だね。ボクに任せて、リーファス!」
白虎族の少女西施が不敵に美しく笑い、自身の拳をパチリと鳴らした。かつての城塞都市での死闘を糧にした彼女の琥珀色の瞳には、迫り来る巨神の威容に対しても、怯えなど微塵も存在しなかった。
「……確かに。あの時の兵馬俑に比べれば、こちらの方が遥かに厄介な構造をしていますね。リーファス様、指示を」
クリスが影の刃を静かに編み上げながら、淡々と、しかし確かな信頼を瞳に宿して告げた。
「……そうだね。作戦は予定通り『天空の回廊』で行く。――エリー、道を作れるかい?」
「! はい、もちろんですわ! エリーに、どうぞすべてお任せくださいませ!」
名前を愛称で呼ばれたエリーが、弾けるような気高い笑顔を浮かべて純白の杖を天空へと掲げた。彼女の肩から、使い魔である聖白梟のシロが鋭く鳴き声を響かせ、猛烈な速度で上空へと舞い上がっていく。
◇◇◇◇◇
目覚めた巨神の眼光が、すべてを溶かす黄金の熱線となって、地表を容赦なく焼き払う。
「――聖光反射結界!」
エリーが凛とした声で叫んだ。
上空を舞うシロの座標を起点に、虚空に向けて幾重もの強固な六角形の光の壁が瞬時に展開される。巨神の放った凶悪な熱線は、その鏡のような清冽な結界に触れた瞬間、あらぬ方向へと鮮やかに屈折し、背後に聳える無関係の岩山を木端微塵に爆破した。
「今ですわ、リーファス様! 駆け上がってくださいまし!」
エリーの莫大な魔力が空間の結界を水平に固定し、中空に向けて、眩く輝く臨時の「光の階段」を形成していく。
「行くよ! 英霊降臨――猿飛佐助」
リーファスの身体を、伝説の忍が持つ圧倒的な軽やかさと神速の身体能力が支配する。彼は重力の法則を完全に無視した速度で、宙に浮かぶ光の足場を次々と力強く蹴り上げた。
「ボクも行くよ! 巨神の注意はこっちで引き受けちゃうからね!」
西施が地面を粉々に爆砕するほどの凄まじい脚力で大空へと跳ね上がった。
「――雷神脚・連撃!」
彼女は巨神の巨大な脚部を壁のように滑らかに駆け上がり、膝の関節部に向けて、電光石火の鋭い蹴りを何十発と叩き込んでいく。
「ほらほら、こっちだよデカブツさん! 故郷の兵馬俑より動きが鈍いんじゃないの!?」
◇◇◇◇◇
古代の巨神は不快な駆動音を激しく立てて西施を振り払おうとし、同時に、侵入者を排除するための体長1m程の防衛用蜘蛛型ゴーレムを体表の各部から無数に射出してきた。
「――追わせないわ。影の底で、永遠に微睡んでいなさい」
地上から見上げていたクリスが、自身の足元から影の触手を無数に伸ばし、射出された蜘蛛型ゴーレムたちを次々と貪欲に絡め取っては、底なしの闇へと強引に引きずり込んでいく。
「ディード、右側の魔力供給路を!」
「了解。――絶剣・虚空断ち!」
エルフの剣士ディードリットの放った不可視の鋭い斬撃が、巨神の巨腕を動かすための魔導回路を正確に寸断した。巨神の右腕が力なく垂れ下がり、上空のリーファスへの追撃が一時的に完全に停止する。
◇◇◇◇◇
「あと少し……!」
リーファスはすでに高度20メートルに達し、巨神の胸部へと肉薄していた。しかし、窮地に陥った巨神もまた、最後の迎撃手段を繰り出してくる。胸部の装甲が左右へと大きく展開し、魔神の欠片が剥き出しのまま、至近距離から極大の魔力砲を放とうと凶悪なチャージを開始したのだ。
「そんなことはさせませんわ! シロ、最大出力ですわよ!」
地上でエリーが純白の杖を大地へと強く突き立てた。彼女の足元から遥か上空のシロまでを繋ぐ強烈な光の柱が立ち昇り、リーファスの目の前に、かつてないほど巨大で分厚い絶対の「盾」が立ちはだかった。
「……ありがとう、エリー!」
巨神から放たれた極大の魔力砲が結界を真っ正面から叩き、激しい衝撃波が周囲の空間を完全に覆い尽くす。エリーは歯を食いしばり、可憐な鼻からツッと血を流しながらも、その絶対の結界を執念で維持し続けた。
「いっちゃええええ! リーファス!」
西施の弾けるような叫びを背に受けながら、リーファスは結界の端を強く蹴り、立ち込める爆炎の中を真っ直ぐに突き抜けた。彼の右手には、巫女ミャオから託されたあの古代の停止端末が握られている。
「――静かに眠るといい、古代の守護者よ」
リーファスの手の平が、剥き出しになった欠片のすぐ隣、ゴーレムのメインコンソールへと寸分の狂いもなく叩きつけられた。
◇◇◇◇◇
ピキィィィィン……!
鋭い金属音が空間に響き渡り、手にした端末から青白い神秘的な回路が、巨神の全長30メートルの全身へと一瞬で駆け巡っていく。直後、巨神の瞳から狂暴な黄金の光が完全に消え去り、周囲に噴き出していた濃密な魔素の霧がピタリと止まった。
凄まじい地響きを立てて、黄金の巨体がゆっくりと地面へ膝を突いていく。リーファスは完全に静止した巨神の胸部から、重力をいなすようにしてゆっくりと地面へ着地した。
「……やったの? 故郷のヤツより手強かったよ」
西施が肩で激しく息をしながら歩み寄ってくる。一方のエリーは、すべての魔力を完全に使い果たしてしまったのか、意識を失いかけてふらりとその場に倒れ込みそうになった。その華奢な肩を、リーファスがすぐさま優しく抱きとめる。
「よくやったね、エリー。君のあの結界がなければ、私の手は届かなかった」
「……ふふ、リーファス様に……たくさん褒められちゃいましたわ……」
エリーが満足げに嬉しそうな笑みを浮かべ、そのままそっと目を閉じた。しかしその直後、周囲を警戒していたディードリットが、険しい表情のまま静止した巨神の胸部を鋭く見上げた。
「……待って。ゴーレムの機能は完全に止まったけれど、あの魔神の欠片の気配が消えていないわ。むしろ、より深く……内部の奥底へ引きこもって、凝縮されているような……」
不自然な静寂に包まれた黄金都市の奥底から、ドクン、と空間を震わせる、悍ましく不気味な鼓動が響き渡った。
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