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黄金の迷宮と鎮魂の槍

6月11日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!

機能を完全に停止した、黄金の巨神エル・ドラド。

しかし、その内部――都市の中枢へと深く続く薄暗い地下通路には、かつてないほど濃密で禍々しい魔素が、重苦しく渦巻いていた。


「……巨神の装甲が外側から閉じられていくわ。完全に密室のダンジョンね」


ディードリットが周囲の不穏な気配を警戒しながら、細い眉をひそめて呟いた。


「暗い狭所なら私の独壇場です。それに、仮に壁が完全に塞がってしまっても、私の短距離の空間転移であれば、一気に壁の向こう側へと抜けられますから」


クリスが淡々と、しかし頼もしげに告げる。彼女の空間魔法は長距離の転移こそ叶わないものの、こうした入り組んだ迷宮の探索や、あらゆる障害物の突破においては無類の利便性を誇っていた。


◇◇◇◇◇


一行が迷宮の奥へと歩みを進めると、不気味な青白い光と共に、かつてこの黄金都市で暮らしていたであろう古代人たちの「幻影」が無数に姿を現した。

彼らは魔神の欠片が放つ強い瘴気に操られ、虚ろな瞳のまま、容赦なくリーファスたちへと襲いかかってくる。


「っ……この数、正面から蹴散らしちゃうしかないわよね!」


西施が素早く構えを取る。その声は、かつて大陸の城塞都市で見せた少年のような尖ったものではなく、気高く可憐な少女の響きをしっかりと帯びていた。


「待ってください! お願いです、彼らを傷つけないで!」


張り詰めた空間に響き渡ったのは、猫耳の巫女・ミャオの悲痛な叫びだった。

リーファスの目の前にふわりと現れた彼女の霊は、涙を流しながら必死に訴えかける。


「彼らは私の大切な民……。ただ欠片の瘴気に囚われ、心を失っているだけなのです。どうか、彼らの御魂を解放してあげてください……!」


「そういうことなら、わたくしの出番ですわね!」


エリーが凛とした足取りで前に出た。聖白梟のシロが彼女の頭上を優雅に旋回し、周囲へと柔らかな光の粉を美しく振り撒いていく。


「ディードリットさん、サポートをお願いできますか?」


「ええ。周囲の清らかなマナをすべて集めるわ。あなたは浄化だけに集中して!」


ディードリットの紡ぐ精霊術によって清浄なマナが絶え間なく供給され、エリーは純白の杖を迷宮の天井へと真っ直ぐに突き上げた。その瞳に確かな慈愛の光を宿し、気高く叫ぶ。


「――響き渡りなさい、不浄を払う聖なる福音!『アルヴヘイム・レクイエム』!」


エリーが放った最大広域の浄化魔法が、空間を震わせて淀みなく展開していく。

クリスが鋭い影の盾と短距離空間魔法を巧みに駆使して幻影たちの苛烈な攻撃をすべていなし、その完璧な隙を突いて、エリーの慈愛に満ちた聖なる光が通路全体を優しく包み込んだ。


温かな光に触れた幻影たちは、次々と穏やかな本来の笑顔を取り戻し、ミャオに向けて深く一礼を捧げると、静かに天へと昇っていった。


◇◇◇◇◇


ミャオの正確な案内と、クリスの空間魔法による鮮やかなショートカットを駆使し、一行はついに最深部である「動力炉」へと到達した。


しかし、そこに待ち受けていたのは、巨大な結晶コア――などではなかった。コアの全エネルギーと魔神の欠片の瘴気を極限まで圧縮し、人間のサイズにまで実体化させた、不気味な「黄金の騎士」がそこに鎮座していたのだ。


「……無駄に大きい標的から、一番厄介なサイズに圧縮してきたね」


リーファスは油断なく、端正な顔を引き締めて構えた。


「ふふっ、面白そう。ボクの格闘術にどこまでついてこられるかな?」


西施せいしがしなやかな体躯で軽やかにステップを踏み、黄金の騎士の間合いへと一瞬で肉薄した。

「――雷神脚!」


少女の細く美しい脚から放たれた、大気を引き裂く必殺の蹴り。

しかし、黄金の騎士はその圧倒的な一撃を片腕の重装甲だけで軽々と受け止め、目にも留まらぬ神速の返しの刃で、西施せいしの脳頭へと反撃の剣を振り下ろした。


「させませんわ!」


エリーが即座に純白の杖を振るった。広域の結界ではなく、西施せいしの背後の一点のみに座標を絞った、極小・高強度の『聖光反射結界』を展開する。騎士の凶刃が鏡面の結界に激しく弾かれ、激しい火花が空間に散った。


西施せいし、下がって!」


クリスが自身の視界内の空間をわずかに歪め、その空間の隙間から無数の鋭利な影のナイフを瞬時に取り出すと、雨霰と撃ち出して黄金の騎士を鋭く牽制した。西施はその隙に、しなやかな躍動で後方へと退く。


「あの装甲と剣技……生半可な攻撃じゃ通らないか。なら、私も極限まで霊力を練り上げるまでだ」


リーファスは深く息を吐き、自らの内に眠る膨大な霊力を一気に解放した。


京都でスサノオとタケミカヅチを降ろした時は天照の祈りがあり、ヘルヘイムでトールを降ろした時は奪った神の魔力という代替燃料があった。だが、今回はそのどちらもない。純然たる自前の霊力のみで、高次元の『神話の座』へアクセスする試み。


――狙うは、西洋呪術の源流の一つ、オリュンポスの神話領域。


並の退魔師であれば、神格を己の器に引きずり降ろした瞬間にその強大すぎる神威の圧力で魂が消滅する。だが、前世の五十五年と今世の旅路で極限まで鍛え上げられたリーファスの精神構造は、すでに単一の神格であれば、バックアップなしでも完全同調シンクロに耐えうる領域へと達していた。


脳内の演算回路を一点に集中させ、単軸チャネリング、固定ロックオン――。

知恵と戦いを司る、気高き不敗の処女神。


ドクン、と魂の芯を打つ神聖な衝撃を無双の意志力でねじ伏せ、その絶対的な『戦理』を我が身へと完璧にインストールする。


現世での記憶と異世界での術理が交差する中、彼が極限まで練り上げた霊力は、神々しい金色の光へと昇華し、その背後に大いなる神格の幻影を具現化させていく。


◇◇◇◇◇


『――英霊降臨:女神アテナ――』


オリュンポス十二神が一柱。知恵と戦いを司る高潔なる女神。リーファスの肉体にその概念が宿った瞬間、彼の両手には、あらゆる邪悪を打ち払う『イージスの盾』と、勝利をもたらす長槍『ドリュ』が誇り高く握られていた。


リーファスの左手にはメドゥーサの首が冷徹に刻まれた伝説の盾、右手には燦然と輝く黄金の穂先。


「――来い。エル・ドラドの遺志よ!」


黄金の騎士が動いた。一瞬で空間を飛び越えて間合いを詰め、魔力の刃を容赦なく叩きつけてくる。しかしリーファスは、左手のイージスの盾でその豪腕を受け流し、ドリュの鋭い石突きで騎士の腹部を強烈に突き放した。


「クリス、ディード! 援護を!」


「はい!影よ、敵の足元を無慈悲に縛りなさい!」


「了解よ!」


クリスが地面から伸ばした無数の影の触手で騎士の強固な足を完全に封じ込め、ディードリットの放った絶剣の不可視の斬撃が、装甲の僅かな隙間を正確に狙い撃つ。しかし、完全に追い詰められた騎士の全身が、不気味な赤熱を帯びて膨れ上がり始めた。


「……っ、来るわ! 最大の攻撃よ!」


ディードリットが鋭く叫ぶ。

黄金の騎士がその頭部を上げ、両目のスリットにコアルームの全エネルギーを完全に集中させていく。

次の瞬間、すべてを貫く概念を帯びた、最悪の『極大消滅光線』が真正面から放たれた。


「危ないっ!」


西施せいしは持ち前の野生的な直感で真横へと跳び、クリスは自身の背後に瞬時に生み出した闇の穴へと逃れ、迫る光線を空間の彼方へと吸い込ませる。


しかし――。


「――聖光反射結界!」


エリーだけは、決して逃げなかった。ここで自分が退けば、背後にいるリーファスに直撃する。彼女は持てるすべての魔力を杖へと注ぎ込み、人生で最も巨大で強固な鏡面結界を目の前に展開した。


だが、魔神の欠片を宿した騎士の光線は、「すべてを貫通する」という絶対の概念を帯びていた。


パリィィィィィン……!


「……えっ……!?」


絶対の自信を持っていたはずのエリーの結界に、無慈悲な亀裂が走る。次の瞬間、圧倒的な光の奔流が、彼女の防壁を粉々に粉砕した。


「エリー!!」


砕け散る光の破片の中、逃げ場のない死の閃光が彼女の華奢な身体を完全に飲み込もうとしたその時――。


「くっ!間に合え――ッ!」


リーファスが爆発的に地を蹴り、エリーの身体を庇うようにしてその前に割り込んだ。

左手のイージスの盾を真正面へと構え、己の全霊力をイージスの盾へと一瞬で回す。


ドォォォォォォン!!


凄まじい衝撃波がコアルームの頑強な空間を激しく揺るがした。すべてを貫くはずの絶望の光線が、知恵の女神の盾に真っ向から阻まれ、激しい火花を散らしながら四散していく。


「……リ、リーファス様……」


「大丈夫かい、エリー。……後は私に任せて、下がっていてくれ」


リーファスは盾をしっかりと構えたまま確固たる足取りで一歩前へ踏み出し、右手の長槍ドリュを天を突くように高く掲げた。槍の穂先に向けて、アテナの神罰とも言うべき純白の苛烈な雷光が収束していく。


「これで終わりだ。安らかに眠るがいい」


リーファスの腕がしなやかに弧を描き、光の槍が放たれた。


シュゥゥゥゥゥゥゥッ!!


放たれたドリュは、極大光線を放ち終えて硬直していた黄金の騎士の胸部の中央を、寸分の狂いもなく貫いた。

魔神の欠片の瘴気ごと、騎士の存在そのものを「勝利」という絶対の結果で上書きするように。


黄金の騎士が、静かに光の粒子となって空間に消えていく。後に残されたのは、完全に浄化され、清らかな輝きを取り戻した、封印されるべき六つ目の魔神の欠片だけだった。


「リーファス様……ありがとうございます。わたくし、お役に立てるどころか、またご迷惑を……」


震える声で悔しそうに俯くエリーの肩を、リーファスは優しくポンと叩いた。


「いや、君があの結界で一瞬でも敵の光線の勢いを削いでくれなければ、私の盾でも防ぎきれなかったかもしれない。本当に助かったよ、エリー」


「! はい……っ、ありがとうございます、リーファス様!」


名前を愛称で呼ばれ、認められたことで、エリーの瞳にようやくいつもの輝かしい喜びの光が戻った。


「もうっ、ハラハラさせないでよ。でも……すごく格好良かったよ!」


西施せいしが少し照れくさそうに頬を染めて微笑み、クリスとディードリットも、ようやく安堵のため息を深く漏らした。


◇◇◇◇◇


「……ありがとう。見事な戦いでした」


背後を振り返ると、いつの間にか巫女ミャオの霊が、どこか晴れやかな表情で静かに微笑んでいた。

迷宮を重苦しく満たしていた不気味な瘴気は完全に晴れ渡り、エル・ドラドが本来持っていた、神聖で清らかな空気が通路を満たしていく。


「これで、私たち古代の民も、ようやく本当の安らかな眠りにつくことができます。……強き魂を持つ異邦の御方々、どうかこの先の旅路にも、大いなる光の加護があらんことを」


ミャオの身体が美しい光の粒子となり、黄金都市の天井へ、そしてアンデスのどこまでも高い空へと溶けるように消え去っていった。


南米大陸の広大な空に、すべてを祝福するような新しい朝の光が差し込み始めていた。

一行は手に入れた六つ目の欠片を大切に抱き、次なる運命の目的地へと想いを馳せながら、確かな一歩を踏み出すのだった。

本日もお読みいただきありがとうございます!

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