黄金の眠りと猫耳の巫女
6月11日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。
キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!
黄金都市を目指し、じりじりと標高を上げていくリーファス一行。
アマゾン特有のまとわりつくような密林の湿気が次第に薄れ、代わりに肌を刺すような冷ややかな霊気が漂い始める中、その夜の野営の最中に、物語は静かに動き出すこととなった。
◇◇◇◇◇
パチパチと焚き火の爆ぜる音だけが周囲に響き渡る深夜、リーファスはふと、深い眠りの底から意識を浮上させた。
すぐ隣ではクリスやエリーたちが、旅の疲れを癒やすように安らかな寝息を立てている。ふと不審に思って視線を上げると、普段なら夜の番人として鋭い碧眼を光らせているはずのシロが、木の枝の上で丸くなったまま、深く眠りこけていた。
「……夜行性のフクロウが、この時間にここまで熟睡するなんておかしいね」
明らかな違和感。周囲の空気が、まるで完全に時間が止まってしまったかのように重く、厳かに張り詰めている。
リーファスが静かに身体を起こしたその時、闇の中にゆらゆらと青白い燐光が湧き上がり、一人の女性が姿を現した。
頭上からのぞく愛らしい猫の耳と、しなやかに揺れる尻尾を持つ獣人の少女。しかし、その身に纏う装いは、かつての古代文明を思わせる、白く柔らかなトーガ風の神聖な巫女装束だった。施された贅沢な金の装飾品が、彼女の微かな動きに合わせてシャラリと静かに揺れる。
「……異邦の、あまりにも強き魂を持つ御方……」
彼女の姿は向こう側が透き通るほどに儚く、その声は夜風が鳴るような、掠れた響きを伴っていた。
「私の名はミャオ……。かつてこの聖域を護っていた、最後の巫女の残滓です。どうか、私の切なる訴えを聞いてください……」
透き通るような巫女の霊が語る真実は、戦慄すべきものだった。
遙か山頂に聳える黄金都市は、単なる石造りの遺跡などではない。それ自体が、全長30メートルに及ぶ古代文明の最終兵器――自律型人工ゴーレムの拠点そのものなのだという。
「都市の中心部にある制御コアが、空から落ちてきた、あの禍々しい『黒き星の破片』……魔神の欠片を内部に取り込んでしまいました。今、山そのものと同化している巨神は、最悪の形で再び目を覚まそうとしています。もしあの巨躯が山から完全に切り離されれば、近隣の無辜なる生命はすべて焼き尽くされてしまうでしょう」
「そのゴーレムを、私たちに止めてほしいということだね」
「はい……。どうか、彼を……あの悲しき黄金の巨神を、再び穏やかな眠りにつかせてください。もう、戦いの時代は終わるべきなのです……」
ミャオは祈るように胸の前でそっと両手を組むと、リーファスの手元に温かく柔らかな光の粒子を託し、朝霧のように静かに消え去っていった。
◇◇◇◇◇
翌朝。リーファスが目を覚ますと、昨夜の出来事が決して夢幻などではなかったという、確固たる証拠が残されていた。彼の手には、鈍い銀色の神秘的な光沢を放つ、金属製の古代端末がしっかりと握られていたのだ。
「……リーファス様、それは一体?」
目ざとく真っ先に気づいたクリスが歩み寄り、続いてエリーもシロを肩に乗せてハラハラとした様子で駆け寄ってくる。リーファスから昨夜出会った巫女の霊のこと、そして黄金都市の恐るべき正体について説明を受けたディードリットが、真剣な面持ちでその端末を手に取った。
「これ……古代文字で『深き眠りの底へ、主の命により帰還せよ』と刻まれているわ。間違いなく、そのゴーレムの機能を強制停止させるための専用端末ね」
しかし、ディードリットは続けて、美しくも厳しい表情で付け加えた。
「でも、これを使うにはかなり無茶な条件があるわ。覚醒しかけているゴーレムの周囲は、極めて強力な対魔結界で守られているの。遠隔からの操作は一切不可能……この端末を直接、ゴーレムの本体に接触させる必要があるみたいよ」
「30メートルの相手に、ボクたちが直接触っちゃえばいいんだね? なんだかワクワクしてきちゃうよ!」
西施が身を乗り出して、その琥珀色の瞳をらんらんと輝かせた。エリーは少し不安げに遥かなる山頂を見上げる。
「直接……。ですが、そのコアに近づくまでに、あの巨大なゴーレムが本気で動き出したら、ひとたまりもありませんわ」
「その時は、ボクたちが全力で道を切り開くよ! リーファス、すぐに出発しよう!」
西施の弾けるような明るい声に、一行の心から微かな迷いが消え去る。リーファスが力強く頷くと、一同は一斉に山頂の決戦の地へと向かって駆け出した。
◇◇◇◇
一行は黄金の山頂を目指し、険しい急勾配を一歩一歩駆け上がる。
都市の完全な覚醒が秒読み段階に入っているのか、周囲に生息する魔物たちも、濃密な魔素に当てられて異常な興奮状態に陥っていた。
「前方はボクに任せて! 師匠、お願い!」
「いくよ、西施。――英霊降臨:真田幸村」
リーファスが背後から霊力を送り込み、セイシの魂に戦国屈指の猛将の概念を完璧にチャネリングさせる。
セイシの手元に燃え盛る十文字槍の幻影が実体化すると、彼女はその槍を豪快に振るい、道を塞ぐ巨大な岩石トカゲの群れを烈火の如き熱風で一気に吹き飛ばした。その生じた僅かな隙間を、西施(せいしは風の如き神速で駆け抜けていく。
空からは魔素を帯びた狂暴な翼竜たちが容赦なく襲いかかるが、エリーがシロと共に即座に動いた。
「――聖光反射結界! リーファス様、足場はわたくしが作りますわ。そのまま上へ!」
「助かるよ、エリー!」
「――っ! はい、喜んで!」
名前を愛称で呼ばれたエリーの美しい頬が一瞬にして緩むが、そのすぐ横を、クリスが鋭い影の弾丸を無数に放ちながら、風のように追い抜いていった。
「エリー、ニヤニヤと喜んでいる暇はありませんよ。ほら、もう見えてきました!」
視界が一気に開けたその先、立ち込める雲を真っ二つに割るようにして現れたのは、もはや山そのものが生命を持って動き出しているかのような、圧倒的な黄金の巨躯だった。
都市を構成していたはずの巨大な建造物群が、まるで強固な装甲のように複雑に組み換わり――数千年の眠りから目覚めた黄金の巨神が、地響きを立てて、ゆっくりとその巨大な頭部を振り始めた。
「あれが……エル・ドラド……」
世界を震撼させる凄まじい足音と共に、古代文明の最終兵器が、ついにその完全な覚醒の瞬間を迎えていた。
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