表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/107

深緑の魔境と「エリー」の誓い

6月11日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!

カリブ海の騒乱を完全に乗り越え、ついに南米大陸へと足を踏み入れたリーファス一行。

だが、アマゾンの深緑が遮る圧倒的な密林、そして蒸せ返るような激しい湿気と濃密な魔素が、容赦なく一行の行く手を阻んでいた。


◇◇◇◇◇


一行はより確実な情報を得るため、森の奥深くに隠れるようにしてひっそりと存在する、獣人の集落へと立ち寄った。

そこに身を寄せていたのは、異変によって巨大化した虫たちの無慈悲な襲撃に、夜も眠れず怯え続けているキツネ族やネコ族の穏やかな住人たちだった。


「旅のお方、どうか気をつけておくつれ。山の方から不気味に流れてくる『黒い霧』を吸った虫たちが、皆一様に狂暴な魔物へと変わってしまったんだ……」


村長の切実な訴えを静かに聞きながら、リーファスは霧の源流であるという、遥か北に聳える険しい山脈を真っ直ぐに睨み据えた。

そのすぐ横で、エリザベスはどこか所在なげに、親しげな様子でリーファスへと状況を報告しているクリスや西施セイシの姿を、羨ましそうにじっと眺めていた。


「……あの、リーファス様。少しよろしいかしら?」


エリザベスが意を決したように、リーファスの衣服の袖を小さく指先で引いた。


「どうしたんだ、王女殿下?」


「……その、呼び方ですわ。何だか、とても他人行儀な気がいたしますの」


エリザベスは白い頬をわずかに薔薇色に染め、自身の肩に止まる使い魔のシロを、手持ち無沙汰に指先で愛らしく弄んだ。


「わたくしのことは、これからはどうか愛称で呼んでほしいのです。……そう、『エリー』と。カタリナ様や、本当に心を通わせた親しい者だけに許している特別な呼び名ですわ」


そのあまりにも大胆な懇願に、背後で控えていたクリスが「なっ……!?」と激しく息を呑む。

リーファスは一瞬だけ驚いたように美しい切れ長の瞳を瞬かせたが、彼女が見せた過酷さを思い起こさせる修行の成果と、並々ならぬ覚悟を思い出し、わずかに端正な口角を優しく上げた。


「……分かった。これからはそう呼ばせてもらうよ、エリー。その分、今まで以上にしっかり私を支えてもらうからね」


「っ! はい……! 喜んで、リーファス様!」


パッと大輪の花が咲いたような、この上なく眩い笑顔を浮かべるエリザベス――改め、エリー。

「リーファス様!? 私だって、私だってまだ愛称などで呼ばれたことが無いのに……っ!」と本気で悶絶しているクリスを他所に、一行は黒い霧の源流を目指して一斉に出発した。


◇◇◇◇◇


不気味な霧の源流へと近づくにつれ、密林に響く不快な羽音は、まるで地鳴りのような重低音へとその音量を増していった。


「来ますわ! シロ、索敵を!」


エリーの鋭い合図と共に、純白の聖白梟が激しく大空へと舞い上がる。次の瞬間、濃密な魔素に完全に狂わされた、おびただしい蟲たちの軍勢が目の前に姿を現した。


行く手を塞ぐのは、大木をも容易に両断する巨大カマキリと、鋼鉄の装甲を持つ巨大カブトムシの群れだ。

「じゃまだよ! 雷神脚らいじんんきゃく!!」

西施せいしがそのしなやかな脚に鮮烈な閃光を纏わせ、踊るような見事な回し蹴りでカマキリの狂暴な鎌を粉々に打ち砕いていく。さらにその隙を突いて、ディードリットの放つ鋭い絶剣の刃が、カブトムシの誇る重装甲をまるで紙のように容易く切り裂いた。


地中からは、地面を真っ黒に埋め尽くさんとする巨大甲殻アリの群れが這い出してくる。これに対し、クリスが自身の足元から広大な影を爆発的に広げた。

「影の檻に沈みなさい」

冷徹な声と共にアリたちの動きが完全に止まったところへ、上空からエリーの清冽な聖光が降り注ぐ。


戦況を見極めていたリーファスが、静かに自身の霊力を通じさせた。


「効率よく、確実に急所を突こう。英霊降臨――ジャン=アンリ・ファーブル」


リーファスの視界が、大自然の観察者たる「昆虫学者」の冷徹なそれへと完全に切り替わる。

彼の瞳には、蠢く虫たちの身体構造と魔力の流れが完全に透けて見えていた。


「エリー、十時方向から迫る蜂の群れ! 翅の付け根に魔力を集中させた衝撃波を放って。クリス、足元のアリは頭部の触角を正確に潰せば、全体の統率が瞬時に崩れるよ!」


的確極まる神速の指示が次々と飛び、混沌を極めていたはずの戦場は、完全にリーファスの掌の上で完璧にコントロールされていった。


◇◇◇◇◇


不気味な霧の最深部。そこに鎮座していたのは、魔素を限界まで吸い込み過ぎて全身がどす黒く変色した、悍ましい巨大女王蜂だった。その肥大化した腹部からは、瞬時に孵化して襲いかかる汚染卵が次々と産み落とされている。


「あれがすべての元凶だね。――エリー、最大展開を!」


「お任せください、リーファス様!」


女王蜂が狂ったように空間を埋め尽くす数千本もの凶悪な魔毒針放ってきた。

エリーは使い魔のシロと完全に意識を同調させ、戦場全域の空間に向けて、絶対の『聖光反射結界』を幾重にも張り巡らせた。


「弾けなさい、わたくしたちの邪魔をする不浄なる針!」


キィィィン! と空間を震わせる甲高い硬質な音と共に、降り注いだすべての毒針が寸分の狂いもなくその軌道を反転。凄まじい速度で逆流した毒針は、逆に女王蜂の巨体を無残な蜂の巣へと変えていった。そこへ、リーファスが間髪入れずに畳み掛ける。


「英霊降臨――ナポレオン・ボナパルト。……全軍、一斉に火力を集中させよ!」


リーファスの掲げた手の先、虚空から現れた無数の幻視の砲兵隊が、一斉に咆哮を上げた。

凄まじい轟音と共に放たれた霊力の集中砲撃は、女王蜂の巨体を跡形もなく爆破し、周囲に魔の霧を撒き散らしていた心臓部を完全に消滅させた。


◇◇◇◇◇


元凶である女王蜂が完全に討たれたことで、辺りを重苦しく覆っていた不気味な黒い霧は、驚くべき速さで綺麗に晴れ渡っていった。

その霧の晴れた先に見えたのは、雲を遥かに突き抜け、沈みゆく夕日に照らされて不自然なほど燦然と黄金色に輝く、大いなる山の頂だった。


「あれが……魔素の本当の源だね」


リーファスの真っ直ぐな視線の先、遥かなる山頂に神々しく鎮座していたのは、石造りの建物すべてに本物の金箔を貼ったかのように眩しく輝く、失われた伝説の都市だった。


「あれこそが黄金都市。……エリー、クリス、皆。あの場所に、六つ目の欠片が眠っているよ」


「はい! エリーに、どうぞすべてお任せくださいませ!」


「(……エリー、エリーって、ずっと嬉しそうに……狡いです……)」


クリスの小さく可愛い嫉妬を孕んだため息を夜風に交えつつ、一行は伝説と魔導が美しく交差する山頂、失われた古代文明の謎を解き明かすべく、確かな足取りで一歩を進めるのだった。


本日もお読みいただきありがとうございます!

もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部の『☆☆☆☆☆』から応援していただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ