光と闇の共闘・古代マヤの偽遺跡
6月11日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。
キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!
カリブ海の荒波と魔の磁気嵐を完全に突破した一行は、ブリタニア王家の最新鋭魔導高速船で、ユカタン半島の深い密林へと上陸を果たした。
目指すは、魔神の欠片のダミーが放つ不自然な魔力に満ちた、巨大な石造りのピラミッド型ダンジョンだ。
「いいえ、絶対に離れませんわ! 聖女カタリナ様とのあの過酷な修行は、すべてリーファス様のお力になるためだったのですから!」
ブリタニア王国の第三王女エリザベスは、最新鋭魔導高速船の甲板で頑なまでに一歩も退かなかった。
彼女をハラハラしながら制止しようとする近衛の女騎士たちの困惑をよそに、エリザベスは神聖な霊気のオーラを全身に纏い、リーファスを真っ直ぐに見つめる。
「……分かった、分かったから。王女殿下、そう熱くならないで。ここは未開の地だ。魔神の欠片の影響で生態系もかなり歪んでいる」
銀髪を高い位置で結ったリーファスは、少し困ったように肩をすくめて応じた。彼が持つ他者を包み込むような静かな包容力は、エリザベスの熱烈な態度に対しても、どこか微笑ましげに注がれている。
「リーファス様、この騒がしい王女、私の影の中に今すぐ沈めておきましょうか? 荷物にならなくて済みます」
リーファスの背後からクリスが、氷のように冷徹な視線をエリザベスへと向けた。
「誰が荷物ですって!? この泥棒猫!」
「泥棒? 心外ですね。先にリーファス様の隣にいたのは私ですが?」
「また始まったね……」
金髪を夜風に揺らし、エルフの気高い剣士ディードリットが呆れたようにため息をついた。
「ボクならどっちも蹴っ飛ばして進んじゃうけどね! ほらリーファス、さっさと行こうよ!」
白虎族の少女である西施が、やる気満々に拳を打ち鳴らして愛らしく笑う。
結局、リーファスが「絶対に前線には出ないこと」「後方での結界支援に専念すること」という厳しい条件を突きつけ、エリザベスの同行が正式に許可された。
歓喜してリーファスの腕にきゅっと抱き着くエリザベスと、それを無言の威圧感で引き剥がそうとするクリス。一行は熱気渦巻くジャングルの奥地へと足を踏み入れた。
◇◇◇◇◇
目の前に現れたのは、悍ましい苔に覆われた巨大な石造りのピラミッドだった。
内部は極端に狭く、大人一人が通るのがやっとの歪な通路が複雑に入り組んでいる。霊力をじわじわと吸い取る毒矢や、空間の座標を狂わせる転移の罠が至る所に仕掛けられていた。
「リーファス様の右側は、光を司るわたくしが守りますわ!」
「右側は、影である私の絶対の定位置です。……王女殿下、肩が当たって邪魔です」
「なんですって!?」
「通路が狭いというのに、あの二人ときたら……」
ディードリットが細い通路を器用に通り抜けながら、剣の柄に手をかけて呟く。
「いいじゃない、賑やかで! ま、ボクの『雷神脚』をぶっ放すスペースがないのは困っちゃうけどね」
西施がしなやかな足で壁を軽く蹴りながら、少し不満そうに唇を尖らせた。
やがて最深部の重厚な扉を開けると、そこには禍々しく脈動する赤黒い結晶体――魔神の欠片のエネルギーを不自然に凝縮した、異様な「偽の呪物」が鎮座していた。
「……やっぱりね。欠片そのものじゃない、ただのダミーだ。本物のありかを隠すためのデコイ(おとり)だよ」
リーファスが冷静にその本質を断じた直後、結晶を守るようにして、地面から二つの巨大な絶望の影が具現化した。
◇◇◇◇◇
姿を現したのは、完全に相反する性質を持つ双子の守護魔獣だった。
白銀の魔獣「ルミナ・ゴール」: あらゆる光魔法を吸収し、それを破壊の熱線へと変転させる。
漆黒の魔獣「アンブラ・ゴール」: 周囲の影を際限なく喰らい、物理的な質量を持った打撃を放つ。
「わたくしがお相手しますわ!」
エリザベスが放った強烈な聖光は、しかしルミナの身体へと無慈悲に吸い込まれ、威力を増した熱線となってこちらへ跳ね返ってきた。
「影なら私の方が……っ!」
クリスの操る鋭い影槍も、アンブラの巨大な顎に飲み込まれ、逆に敵の体躯を肥大化させてしまう。
「師匠! 英霊か何か出さないの!?」
西施が身構えるが、リーファスはあえて刀を抜かずに、二人の少女へ向けて鋭く命じた。
「いや、私は手を出さない。……クリス、王女殿下! 自分の魔力が敵を強化している理由を考えるんだ。光が強ければ影もまた濃くなり、影が深ければ光はより際立つ。二人で完全に呼吸を合わせれば、その『餌』を、敵を滅ぼす最高の『毒』に変えられるはずだ!」
◇◇◇◇◇
「……王女殿下、死なないでくださいよ。リーファス様が悲しまれます」
「クリス、あなたこそ。わたくしの背中、任せましたわよ!」
二人は互いに一瞬だけ視線を交わすと、同時に最大出力の魔力を解放した。
クリスがアンブラ・ゴールの周囲に、光すら届かない広大な闇の影領域を展開し、敵の動きを強引に封じ込める。
本来ならその影を喰らって強化されるはずの魔獣だったが、そこへエリザベスの使い魔・聖白梟のシロが弾丸のように突入した。
シロが展開したのは、エリザベスの新奥義である『聖光反射結界』。
クリスの広げた影の真っ只中で、エリザベスが極彩色の聖光を爆発させた。
影の中で逃げ場を失い、幾重にも反射を繰り返す絶対の光。そして、その光を内側に閉じ込める漆黒の影。
相反する二つの莫大なエネルギーが狭い空間で限界まで圧縮され、光を吸う魔獣と影を喰う魔獣が処理できる許容量を瞬時に超越していった。
「「複合魔法――エクリプス!」」
黒い太陽のような、時空をも歪める巨大なエネルギー球が、双子の魔獣を同時に包み込む。魔獣たちは悲鳴を上げることすら許されず、その存在を分子レベルで完全に消滅させられた。
◇◇◇◇◇
凄まじい爆煙が収まった後、古いピラミッドの内部に静寂が戻った。
ダミーの呪物は粉々に砕け散り、後に残ったのは、肩で激しく息をしながらも、どこか晴れやかな表情を浮かべた二人の少女だ。
「……ふん。少しは見直しましたわ、影使い」
「私の方こそです、光の王女様。……でも、リーファス様の隣は絶対に譲りません」
二人は競い合うようにして、再びリーファスの両脇をがっちりと陣取った。
しかし、そこには以前のような刺々しさはなく、互いの実力を確かに認めた「良きライバル」としての連帯感が確かに芽生えていた。
「お見事。二人とも、本当に素晴らしい成長だね」
リーファスは優しく微笑むと、労うように二人の頭をポンポンと優しく撫でた。
「……あ」
彼の放つ、穏やかで絶対的な包容力に、二人は一瞬で顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
「はぁ、まったく。リーファスは無自覚に人を惑わせるんだから……」
「ボクも撫でてほしいな!」
ディードリットの呆れたような声と、西施の元気で愛らしい声が静かな遺跡に響き渡る。
「さて、ダミーを消去したことで、本物の位置がはっきりと感知できた。……アマゾンの奥地、さらに南へ向かって進もう」
一行の旅は、少女たちの新たな絆と強力な連携を手に入れ、次なる魔神の欠片を求めてさらに加速していくのだった。
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